管理職に求められる役割とは?一般社員との違いや必要なスキルなど解説【専門家監修】

管理職とは、一定の権限を持ち、チームや部下を指揮・管理する立場です。しかし、管理職と一口にいっても、その役割は企業や役職などによってさまざまです。

この記事では、管理職の定義や求められる役割については労働法・社会保険に明るい社労士の北 光太郎さんに監修いただき、管理職に向いている人の特徴などについては、人事コンサルタントとして、これまで200社以上の人事制度の設計・運用支援を率いてきた平康慶浩さんに解説いただきます。管理職を目指す人、または管理職になったばかりという人はこの記事でぜひ全体像をつかんでみてください。

管理職とは?

多くの企業において管理職は「管理監督者」として位置づけられています。管理監督者とは、労働条件の決定や労務管理について経営者と一体的な立場を与えられた従業員のことを指します。しかし、すべての管理職が管理監督者に当てはまるわけではなく、職務内容や責任、権限の範囲などによっては、一般社員と同じ労働条件で働く場合もあります。そのため、主任や係長、課長などの肩書があっても、労務管理上の職務や権限を有していない限り、管理監督者には該当しません。

ここからは、管理職の種類や一般社員・役員との違いなどについて解説します。

管理職と一般社員の違い

管理職と一般社員はどちらも従業員(労働者)である点は同じです。しかし、「管理監督者」の場合、一般社員とは職務内容や業務上の権限が異なり、相応の待遇がなされていることが条件です。

厚生労働省によると、管理監督者として認められるには、次の4つの条件を満たす必要があるとされます。

①重要な職務内容を有していること

②重要な責任と権限を有していること

③労働時間の規制になじまないこと

④その地位にふさわしい待遇がなされていること

補足すると、経営者と同程度の重要な職務を担っており(①)、経営や部門の方針などにかかわる意思決定にも関与できる大きな権限を持っている(②)従業員が該当します。

また、災害時など緊急の経営判断が求められる場合は、休日であっても業務を遂行する必要があり、労働基準法に定める労働時間の上限を超えて活動せざるを得ない(③)ことも条件です。その職務の重要性から一般社員と比較して給与や賞与が高くなる(④)ことも「管理監督者」の条件です。

参照:「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」(厚生労働省)

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管理職と役員の違い

管理職は企業と雇用契約を締結した従業員(労働者)ですが、取締役などの役員は企業と委任契約を締結した経営者にあたるため、契約形態に違いがあります。この違いが影響するのは主に2点です。

1点目は給与面です。管理職には給与が支給される一方で、役員には役員報酬が支給されます。給与が労働に対する報酬であるのに対して、役員報酬は遂行した任務に対して支払われる報酬であるという点に違いがあります。

2点目は責任の重さです。管理職は役職を問わず、業務に関わるミスや失敗によって個人が賠償などの責任を負う可能性は低いでしょう。一方、役員が任務遂行を怠ったとみなされた場合は、役員個人が損害賠償を請求される可能性があります。

管理職の種類

管理職の種類は、法律で明確に定義されているわけではありません。企業によって、役職名やその定義、業務内容、責任の範囲などは異なります。一般的には、本部長、部長、次長、課長、係長、主任といった役職名で分けられることが多いといえます。それぞれの役割を見ていきましょう。

主任

一般社員の次の序列で、現場のメンバーのまとめ役のような位置付けです。実務を兼ねたプレイングマネジャーであるケースが多いです。

係長

課長の下でチームを統括するチームリーダーとしての役割を果たします。肩書きは管理職ですが、この段階ではまだ「管理監督者」には当てはまらない場合がほとんどです。

課長

部署の中にある「課」を代表する肩書きで、ひとつ下の役職である係長を取りまとめる役割も果たします。

次長

部長の業務を補佐する役割を担います。部門管理者の次席に当たる人物であることから、「次」という文字があてられています。

部長

「営業部」「マーケティング部」といった各部署を代表する存在で、部としての方針策定や目標設定を行い、統括する役割が求められます。

本部長

各事業部門の最高責任者を指し、事業部長と呼ばれる場合もあります。統括する事業に対して責任を持ち、最終的な意思決定を行います。

管理職の待遇

管理監督者の立場にある管理職は、一般社員とは労働時間や給与などの待遇面でも違いがあります。その詳細について見ていきましょう。

管理職の給与と残業代

管理監督者は、その職務や権限の重要性の高さゆえに、労働基準法に定められている労働時間や休日に関する規定が適用されません。

例えば、労働基準法では、労働時間は1日8時間、1週40時間を超えた場合には残業代を支払わなければならないと定められていますが、管理監督者がこれを超過して働いたとしても残業代は支払われません。休日に関しても、1週間に1日以上、4週間に4日以上という規定の適用外となり、休日出勤をしても休日出勤手当などは支給されません。しかし、その分、一般社員よりも平均賃金は高く設定されており、基本的に能力に見合った役職手当が上乗せされています。

ただし、管理監督者であっても22時から翌日5時の間に勤務した場合は、一般社員と同様に深夜手当が支給されます。

管理職の勤務体系

管理監督者には、長時間労働の上限である原則月45時間、年360時間も適用されません。また、労働基準法で6時間以上は45分以上、8時間以上は60分と定められている休憩時間も適用外となり、極端にいえば、まったく休憩をとらずに働くことも可能です。しかし、当然のことながら、それらを理由に長時間労働や過重労働をさせることはあってはならず、従業員である管理職の健康管理も企業の義務といえます。

なお、管理監督者も一般社員と同様に有給休暇が付与されます。そのため、2019年4月より義務付けられている有給休暇の年5日の取得義務は管理監督者も対象となります。

参照:年5日の年次有給休暇の確実な取得(厚生労働省)

管理職に求められる役割

管理職の役割は、組織としての目標を達成し、利益を生み出す「事業成長」と個人を管理・育成する「人材育成」の大きく2つに分けられます。両者には連続性があり、どちらかひとつだけでは成り立ちません。個人を育てることで、組織の業績を達成することが求められます。ここからは、この2つの役割を果たすために必要となる具体的な仕事内容について見ていきましょう。

「事業成長」のために必要な仕事内容

組織の成長にあたって何が必要なのかを自分で正しく認識し、組織に利益をもたらすことが長期的な組織運営において欠かせない役割といえるでしょう。具体的にはどのような仕事内容があるのか、詳しく解説します。

目標設定・進捗管理

会社や事業全体の状況や組織の状況などさまざまな観点を踏まえて、自組織の目標やKPIを設定します。さらに、それをメンバー一人ひとりの具体的な目標に落とし込んでいき、立案した目標が計画通りに進捗しているかを管理することが重要です。進捗が悪い場合は、その原因を洗い出し、改善策を出すことが求められます。

戦略の検討

目標を達成するために、組織の現状の課題を設定し戦略を検討します。競合や顧客、自社の事業やリソースなどの様々な観点での状況を多角的にふまえる必要があります。戦略を達成するための具体的な戦術・アクションプランもあわせて検討します。

経営層と部下の橋渡し

経営層が掲げるミッションやビジョン、経営理念などをチームの部下に波及させていくことも求められます。経営層が一人ひとりの社員に組織のパーパスやビジョンを説明するのは難しいからこそ、経営層の代わりに会社として何を大事にすべきか、どこに向かうべきかを代弁することが求められています。

「人材育成」のために必要な仕事内容

配下のメンバーそれぞれの強みや課題を理解し、育成していくことも管理職に必要な役割といえるでしょう。具体的にはどのような仕事内容があるのか、詳しく解説します。

組織体制づくり

チーム運営が効率的、効果的にまわるような組織づくりをします。例えば、スキルが浅い社員に対するOJT体制を作る、自組織内にいくつかのグループを作り役割を分けるなど、組織のメンバーのスキルを活かし、適切な配置を検討することが求められます。すべての仕事を管理職がまわすことは不可能だからこそ、適切に権限を移譲できるメンバーを増やすことがポイントです。

部下の労務管理

部下の労働環境を整備します。例えば、日々の勤怠管理や有給や残業などの労働時間の管理、メンタルヘルスチェックなどの健康管理が挙げられます。

部下の育成と評価

成長課題に合わせた仕事のアサインを考える、足りないスキルに関する研修を受けてもらう、コーチングやティーチングを使い分けて直接フィードバックするなど、個人のスキルや経験の差、課題に合わせた育成が必要とされます。また、会社の評価制度に基づいて、部下一人ひとりを評価し、適切な報酬や昇進を決定することも管理職の仕事のひとつです。

管理職に求められる力や資質

こうした仕事を担うために、管理職にはどのような能力や資質が求められるのでしょうか。ここでは、必要とされる4つの力を紹介します。

自分の軸を変えずに、意見を伝える力

管理職を務めるには、ここだけは譲れないというポイントや目標を持ち、自分の考えや行動にひとつの軸を通しておくことが大切です。考えや行動に一貫性が欠けていると、責任のある意思決定は難しく、周りからの信頼を失い、円滑なチーム運営の妨げにもなりかねません。自分の考えに必要以上に固執したり、一方的に押し付けたりするのは望ましくありませんが、相手の立場や意見を尊重しながら、それでも「譲れない」と感じるポイントはしっかりと伝える姿勢も管理職には求められます。

相手の意図を正確に汲み取る力

自分の意見を伝えるだけでなく、部下一人ひとりの話に耳を傾け、相手の意見や気持ちを正確に汲み取る力も必要です。ここで大切なのは、相手を否定したり、他の人と比べて優劣をつけたりするのではなく、その人が持つ固有性や強みを見つけ出して肯定する姿勢です。どうしたら部下が自分の力を発揮し、楽しみながら働くことができるのかを考えられると、チームワークや組織力の向上にもつながっていくでしょう。そのためにはまず、相手の話をよく聞き、相手をよく知ろうとする姿勢が大切です。

会社のビジョンやパーパスについて理解し、その魅力を伝えられる力

会社が掲げるビジョンやミッション、パーパスを深く理解し、心から共感できることも、管理職を務める上で欠かせない条件といえます。自分が統率する部署やチームが同じ方向を向くためには、部下にその意義や魅力を伝え、自分事として捉えてもらうことが必要とされます。また、会社のビジョンやパーパスと部署の現状を比較し、何が達成できていないか、何が不足しているのかといった課題を見つけ、業務に落とし込んでいくことも大切です。

社内外にさまざまなつながりをつくる力

社外の交流の場にも顔を出し、さまざまなつながりをつくる力も管理職には求められます。自分の人柄や経験、スキルなどについて、普段から周囲に知っておいてもらうことで、「あの人なら期待に応えてくれそうだ」と想起されれば、新しい仕事や機会にも恵まれやすくなります。組織の顔として「この人やこのチームと関わりたい」と思ってもらえれば、優秀な人材が集まり、チーム力の強化にもつながるでしょう。

管理職に向いている人の特徴

前述したとおり、管理職の大きな役割は「組織での事業成長」と「個人の人材育成」の2つで、それを両輪でまわせるのが管理職に向いている人といえます。

「高いプレッシャーを与えて業績はあがったが、体調不良のメンバーが増えてしまった」「人材育成によって個人のスキルは上がったが、チームの目的や足並みがそろわず組織としての成果に結びついていない」など、どちらか片方が達成されているだけでは、健全な組織とはいえません。

これを踏まえた上で、管理職に向いている人にはどのような特徴があるのかについて解説します。

高い視座をもって仕事に向かっている

会社組織は、「プレイヤー」「管理職」「経営層」という階層構造になっており、それぞれに求められる役割は異なります。プレイヤーから管理職へのステップアップを目指すなら、目の前の仕事だけに注意を向けるのではなく、そこからひとつ視座を上げて、組織や部下の管理という視点で自らの仕事を捉え直す必要があります。

自分が目指すポジションにいる上司がどのような役割を求められていて、どのような視点で仕事と向き合っているのかを俯瞰し、自分の仕事へと落とし込める人は、管理職の適性が備わっています。

裏をかえせば、目の前の仕事のみに注意が向かってしまい、今の役割だけで手一杯となってしまう人は成長が止まってしまうかもしれません。

部下の強みを理解していて、適性に合わせた仕事を任せられる

管理職には、部下の力をうまく引き出し、部署やチームとして設定した目標を達成するための組織運営が求められます。そのため、一人ひとりのメンバーの強みや個性、経験値を把握し、その適性に合わせてバランスよく仕事を任せられる人は管理職に向いているといえるでしょう。

裏をかえせば、自分一人で仕事を抱え込んでしまう人、メンバーに適切に権限移譲できない人は、いくら組織として数字を達成したとしても管理職の役割としては不十分です。業務過多で自身が体調不良になってしまったり、本来管理職がやるべきことに手が回らなかったりと、さまざまな弊害も生まれます。

自分でやったほうが早いからと自ら手を動かすのではなく、得意な仕事は積極的に手放し、部下を「主人公」として引き立てる采配ができる人も管理職に向いているといえます。

周囲の人と信頼関係、協力関係を築くことができる

持続的に成果を上げられる組織に共通するのは、メンバーの間に信頼関係や協力関係が築けていることです。周囲の人と積極的にコミュニケーションを図り、相互に協力し合える体制を作れる人は管理職としての適性があるといえるでしょう。

特に部下とは定期的にコミュニケーションの機会を設けることが大切です。

その際、任せた仕事の状況確認やフォローにのみ一生懸命になってしまい、過度な干渉やマイクロマネジメントを行う人は、部下と信頼関係を築くことが難しくなってしまうこともあるでしょう。

自分に求められている役割を認識して、「脱プレイヤー」を目指す

管理職の役割は、部下やチームを統率し、人材育成を通じて組織を事業成長へと導くことです。いくらプレイヤーとして優秀だったとしても、自分だけで仕事を完結させようとしたり、成果を上げようとしても管理職は務まりません。プレイヤーとして得意なことは積極的に手放し、部下の適性を見極めて仕事を任せることで、部下を主人公にすることを意識しましょう。

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北 光太郎(きた・こうたろう)

社会保険労務士

きた社労士事務所代表。不動産業界や飲料メーカーなどで計10年労務を担当。開業後は企業の労務支援のほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。人事労務の情報を読者にわかりやすく伝えるとともに、Webメディアの専門性と信頼性向上を支援している。

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)

人事コンサルタント

アクセンチュア、日本総合研究所を経てセレクションアンドバリエーション株式会社代表取締役 マネージングディレクター。人事・組織分野のコンサルタントとして、人事評価制度設計、教育研修体系設計、組織業績評価基準などを現在も数多く手がけている。従業員数千人規模のグローバル大企業から中堅中小企業まで、業種を問わず幅広い制度設計と運用支援を行っている、人事のプロフェッショナル。