出世する人の特徴は?人事コンサルタントに聞く、昇進するためのポイント

キャリア形成において、社内での出世は、大きな分岐点となります。順調に出世する人もいる一方で、なかなか思うように昇進できず、焦りを感じている人も少なくないのではないでしょうか。

この記事では、人事コンサルタントとして、200社以上の人事制度の設計・運用支援をしてきた平康慶浩さんに伺った話をもとに、出世する人・しない人の特徴のほか、管理職や経営層を目指す際のポイントについて解説します。

出世する人の特徴・行動

世の中には、順調に出世していく人もいれば、自分の思うようなペースで出世できていないと感じている人もいるでしょう。両者にはどのような違いがあるのでしょうか。まずは、出世する人の特徴を解説します。

各役職に求められる役割の違いを理解している

一般的な会社組織は、大きく分けると、「プレイヤー」「マネジャー」「経営層」の3つの階層で構成されており、それぞれ異なる役割を期待されています。この役割の違いを理解していることが、出世する人に共通する第一の特徴です。

例えば、営業の仕事で考えてみましょう。プレイヤーである営業社員の主な役割は、顧客に最適な提案を行い、仕事を受注することです。一方、営業部門の課長や営業部長になると、営業社員を最大限活躍させ、全体の受注数を上げていくことが求められます。さらに、営業部門の役員になれば、会社の将来を見据えながら、ヒト・モノ・カネの投資判断を行い、事業を成長させていくことが求められるでしょう。

この例からも分かるように、期待される役割は、階層によって大きく異なります。つまり、プレイヤーとして成果を出せる人が、必ずしもマネジャーや経営層の役割においても活躍できるわけではないということです。出世を目指す際には、このことを理解しておく必要があるでしょう。

目指す役職の役割を意識して仕事を行っている

先ほども解説したように、今のポジションで高い成果を上げていたとしても、現在の評価がそのまま出世につながるわけではありません。出世する人の多くは、一つ上の役職に求められる役割を意識しながら、日々の仕事に取り組んでいます。

まずは、自分の上司を観察し、どのような役割を求められているのか、どのような視点を持って仕事に向き合っているのか、把握することが重要です。上の階層にいる人の視点を今の業務にも活かせば、視野が広がり、新しい成果にもつながっていくでしょう。

会社のビジョンやパーパスを行動に落とし込めている

役職が上がると、管掌できる範囲が広がり、裁量が大きくなる分、自身の仕事が会社に及ぼす影響も大きくなります。そのため、昇進のチャンスをつかむには、それだけの権限を持つにふさわしい人材であると、周囲の人から評価してもらうことが不可欠です。

会社が掲げるビジョンやパーパスには、社長や役員が大切にしていることや、目指している展望が表れています。それらを理解して自身の行動に落とし込めている人、さらに、それを自らの言葉で語り、周囲の社員にまで良い影響を及ぼせる人は、組織の舵取りを担える人として上層部から高い評価を得られるでしょう。

高度なポータブルスキルを持っている

ポータブルスキルとは、業種や職種を問わずに活かせる汎用的なスキルのことです。どの企業にいても求められるような高度なポータブルスキルを持っていることも出世の条件といえるでしょう。

具体例としては、論理的思考力や、課題分析力・解決力、計画立案能力、企画提案力、コミュニケーション能力などが挙げられます。

とりわけコミュニケーションスキルは、仕事の基本となる代表的なポータブルスキルです。聞く力・話す力をはじめとする「オーラルコミュニケーションスキル」や、文章を通じて相手の意図を理解し、指示や意見をテキストで伝える「リテラルコミュニケーションスキル」は、基本的なスキルに思えるかもしれませんが、管理職になると、さらに重要性を増します。そのため、出世を目指す上で重要なスキルといえるでしょう。

周囲の人と信頼・協力関係を築くことができる

仕事で成果を上げるには、同僚や上司、取引先など、周囲の人と信頼関係・協力関係を築いておくことが大切です。管理職になると、部下の希望や意見などを尊重しながら、スキルやキャパシティなどを見極めた上で、その人に合った仕事を振ったり、モチベーションを高めたりする必要があります。そのため、協調性や共感力を発揮し、相手と誠実に向き合える人は、管理職の適性を持っているといえるでしょう。

高度なスキルや専門性を持っているにもかかわらず、周囲との関係性がうまく築けていないと感じる人は、自分の専門性を活かして周りをサポートしてみると、周囲からの評価が高まるかもしれません。

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出世から遠ざかる人の特徴・行動

反対に、出世を目指しているのに昇進につながらない人には、どのような傾向があるのでしょうか。ここでは、出世できない人に共通する主な特徴を解説します。

目の前の仕事にしか注意が向いていない

課長クラスや部長クラスへの昇進は、プレイヤーとしての優秀さだけではなく、その役職に合った役割を担えるか否かを基準に判断されます。そのため、「目の前にある仕事をこなして高い成果を上げていれば、出世できるだろう」と考えている人は、視野を広げるとともに、視座を高めていく必要があるでしょう。

出世を目指すなら、今行っている仕事だけに注意を向けるのではなく、課長や部長に求められる役割を理解し、今の業務でも活かせる部分がないか検討してみると、突破口が開けるかもしれません。

人事評価の結果だけを必要以上に気にしている

人事評価は、これまでの仕事に対する評価や、過去の行動に対する結果に過ぎません。そのため、人事評価の結果だけを必要以上に気にしてしまうことは得策ではないでしょう。

出世するためには、過去の結果だけに囚われるのではなく、「上司や周囲から求められている役割を全うできていたのか」「期待に応えられていたのか」「それを踏まえ、今後どうしていくのか」といったように、プロセスや未来にフォーカスして考えることが重要です。

不平・不満があっても改善しようとしない

会社に対する不平・不満を口にしているにもかかわらず、解消につながるアクションを自発的に起こせていない場合も、出世から遠のいている可能性があります。

会社や仕事に対して不平・不満を感じるのは、誰にでもある自然なことで、それ自体は悪いことではありません。しかし、管理職や経営層には、課題や問題に対して当事者意識を持ち、改善策を提案し、実行していく力が求められます。そのため、出世を目指すには、不満を周囲に話すだけでなく、解決できる範囲の課題であれば、課題解決をリードしようとする姿勢を示すことが重要です。

周囲の人と関係性を築けていない

出世を目指しているにも関わらず、周囲の人との関係性をうまく築けていない人、とりわけ、先輩や上司、役員などとのつながりを重視していない人は、注意が必要かもしれません。

上の階層の人と関係性を深めておくと、自らの視座を上げたり、自分のやりたいことやできることをあらかじめ伝えておいたりできるため、自然とチャンスが巡ってきやすくなります。

中には、こうした関係づくりを「社内政治」と表現し、打算的だと評価する人もいますが、役職や立場を問わず、信頼関係を広く築いておくと、組織の風通しが良くなるだけでなく、自分の仕事をスムーズに進めるきっかけになることもあるでしょう。出世のためにも、組織のためにも、「社内政治」と一言で括らず、周囲との信頼関係を築いておくことが重要です。

管理職に出世するためのポイント

出世する人、出世しない人の特徴をそれぞれ見てきましたが、ここからは出世するためのポイントを、管理職を目指す人向けと、経営層を目指す人向けに分けて整理しておきましょう。

まずは、一般社員から管理職を目指す際に押さえておくべきポイントを解説します。

会社の人事評価制度を理解する

会社における人事評価制度は、スポーツやゲームにおけるルールのようなものです。社内で出世していくためには、そのルールに該当する人事評価制度を把握し、どのような役割が期待されているのか、どうしたら評価されるのか、理解しておくことが重要です。

よかれと思ってやっていたことでも、人事評価制度に照らし合わせてみると、評価につながっていなかったという場合もあるかもしれません。まずは、会社で定められている「行動評価基準」や「人事評価基準」などを読み込んでおきましょう。その上で、管理職に求められる役割を今の業務に紐づけ、管理職の昇進基準につながるような取り組みを行っていくことが大切です。

ポータブルスキルを身につける

ポータブルスキルの中でも、コミュニケーション能力はマネジメント業務の基礎となる重要なスキルです。普段から意識して磨きをかけるようにしましょう。オーラルコミュニケーションスキル、リテラルコミュニケーションスキルの両者を総合的に高められると理想的ですが、得意なほうを伸ばしていく形でも問題ありません。

ポータブルスキルは転職しても役立つので、身につけておいて損はないでしょう。同時に、専門分野のスキルや業界知識を深めておくことも大切です。

マネジメントスキルは必要に応じて身につけよう

管理職を目指す人の中には、マネジメントスキルを持っていないことに焦りを感じている人もいるかもしれません。しかし、マネジメントと一口に言っても、管理する対象によって、その種類は多岐にわたります。

一般社員の段階で学んだとしても、スキルを実際に活かせる場面がなければ、忘れてしまう場合も少なくありません。そのため、マネジメントスキルは、管理職になってから実務に即して身につける形でも問題ないでしょう。

「実際に年間予算を組むことになったから、財務会計の勉強をする」「採用計画を提出することになったから、人材マネジメントを学ぶ」といったように、必要に応じて学んだほうが、効率的に習得でき、スキルの定着にもつながります。

知識をさまざまな角度からインプットする

日頃からさまざまな情報に触れ、知識を身につけておくことも重要です。

例えば、経営大学院の単価コースや定額制セミナー、オンライン教育などを活用すれば、ポータブルスキルを身につけながら、視野を広げることもできます。会社によっては、福利厚生として受講料の補助を出している場合もあるので、積極的に活用するとよいでしょう。

さらに手軽に勉強したい場合は、書籍や信頼できる配信者の動画などから学ぶのも一つの手です。学びのアンテナを広げる機会にもなるでしょう。いずれの場合も、発信されている情報の参考文献や一次情報にまで触れられると、なお良いでしょう。情報が芋づる式に広がっていくため、知識の体系化にもつながります。

経験やスキルを周囲に知ってもらう機会を増やす

何か新しいプロジェクトが始まるときに声をかけてもらうには、上司や周囲の人から「あの人ならできそうだ」と想起してもらう必要があります。そこで成果を上げられれば、周囲からの信頼を獲得でき、出世へのチャンスも広がるでしょう。

そのためには、自分の人柄や持っているスキル、これまでの実績などについて、周囲に知っておいてもらうことが重要です。少なくとも、前向きな評判がなければ、出世のチャンスは得られません。普段から上司や同僚と自分の仕事や強みについて話をしておくほか、社内行事など、他部署の社員や上の階層の人と接する機会があれば積極的に参加するなどして、自分の長所や強みを知ってもらう機会を意識的に増やしていくと良いでしょう。

経営層に出世するためのポイント

次に、管理職から経営層への出世を目指す際に押さえておくべきポイントを解説します。

業界の変化を見極めて行動に移す

経営層に出世できるか否かは、実際のところ、運やタイミングなど、努力や能力だけではどうすることもできない要素も大きく影響します。

ただ一つ言えるのは、経営層には、過去の業績や成果に固執せず、業界の変化を見極めながら、今求められている商品やサービスは何か、常に考え続ける姿勢や、さらにそのアイデアを実際に形にする能力が求められるということです。

出版業界を例にとると、「これからは紙媒体ではなく、デジタルが主流になっていくから、コンテンツのインフラとなるプラットフォームを創っていかないといけない」と発言するだけでなく、プラットフォームのプロトタイプを実際に作成し、経営層に提案できるような人は、会社だけでなく、変化の多い業界までもリードできる可能性があります。

考えや意見を述べるのは簡単ですが、それらを実行に移して成果を出せる人は、決して多くはありません。経営層を目指すなら、業界の変化に合わせて柔軟に意思決定を行い、新しい価値を自ら生み出していくことが重要です。

小規模でも良いので自分で事業を始めてみる

経営というのは、実際にやってみないと分からない部分も多くあります。そこで試してほしいのが、自分で小規模の法人をつくり、実際に経営してみる方法です。

法人をつくるといっても、必ずしも事業の成功や会社としての拡張を目指す必要はありません。実際に法人をつくってみると、経営層に求められる役割を理解するきっかけになります。例えば、事業存続が危ぶまれる場面に直面すれば、経営の基本となる、損益計算書と貸借対照表の関係性を肌感覚として理解できるようになるでしょう。

こうした知識や感覚は、勉強しているだけではなかなか身につきません。資本金自体は1円からでも始められるので、経営層を目指している人は、一度試してみるのも一つの手です。

なお、会社によっては副業や起業を禁止している場合もあるので、事前に就業規則を確認しておきましょう。

会社内で出世する以外のキャリアの実現方法

現代では、キャリアの描き方が多様化しています。会社内での昇進を目指すだけでなく、転職や起業によって自身のキャリアプランをかなえる人も少なくありません。ここでは、それぞれの選択肢について詳しく解説します。

転職する

現代では、ベンチャー企業のように、出世が早い企業もあれば、昇進のタイミングが年功序列で決まっている企業もあり、出世の時期は一概に語ることはできません。

だからこそ、今の会社で思うように出世できていないと感じているなら、一つの選択肢として、転職を視野に入れてみるのも良いでしょう。転職活動をしてみると、自分の客観的な市場価値を知る機会になります。実際の求人を確認したり、カジュアル面談を受けたりするだけでも、新しい視点を得られるかもしれません。

近年ではIT化が進み、各業界も大きく変化しているため、別の業界の知識やスキルを持った40代の幹部クラスを中途で採用したいという企業も増えています。そうした動向を知っておくと、転職のチャンスも増えるでしょう。

転職活動を行う際は、結論を急がず、自分が安定を求めているのか、地位や影響力を求めているのか、出世するならどんなポジションまで出世したいのかを見極めた上で判断することが重要です。

起業する

起業も、出世の一つの形といえます。特に、高度なスキルや能力を持っていて、目指している目標が明確にあるけれど、協調性に自信がないという人は、起業が向いているかもしれません。

もちろんリスクもありますが、自分の思い描く理想のビジネスプランやキャリアプランを自分の裁量でかなえるチャンスにもなります。今の会社では管理職や経営層への出世は難しいと感じている人は、起業を視野に入れてみても良いかもしれません。

視座を高く持つことが出世への近道

社内で出世するためには、視座を一段高めて、次のポジションで求められる役割を意識しながら、日々の業務に取り組むことが重要です。また、常に俯瞰的な視点を持ち、出世したいと思う動機や仕事を通じて達成したいことなどを明確にできると、社内での昇進だけにとらわれず、キャリアを主体的に切り開いていけるでしょう。

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平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役社長

アクセンチュア、アーサー・アンダーセン、日本総合研究所を経て、セレクションアンドバリエーション株式会社代表取締役。人事・組織分野のコンサルタントとして、大手電機メーカー、大手楽器メーカーへの役割等級制度導入を皮切りに、200社以上の人事制度設計・運用支援を率いる。現在も、従業員数千人規模の大企業から中堅中小企業まで、業種を問わず人事制度改革を支援。著書や寄稿も多数。