「世界一集中できるオフィス」に学ぶ、ハイパフォーマンスな職場の作り方
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会社に一体感や自由な雰囲気を醸し出そうと、「頻繁な席替え」や「フリーアドレス制」など社内コミュニケーションの活性を後押しする施策を採り入れる会社が増えています。
確かに、所属する部署では得られない「人とのつながり」「知識やアイデア」が刺激をもたらし、新たな事業や働くモチベーションの維持・向上が期待できそうです。しかし・・・
「そうした施策だけで、新しいビジネスや付加価値は本当に生まれるでしょうか? 社員同士の交流を促そうとするあまり、仕事で大切な『知の深化』を阻害しているように、私には思えます」
こう指摘するのは、「世界一集中できるオフィス」がコンセプトのワーキングスペース「Think Lab」を今年12月に開設するアイウエアブランド大手、ジンズの井上一鷹さんです。
井上さんいわく、ビジネスで付加価値を生み出すためには「知の探求」と「知の深化」の両方が必要。しかし、後者に適した「集中」できる職場が不足しているのではないか、という課題感から「Think Lab」を着想しました。
そんな井上さんに、新たな付加価値を生み出す職場の条件、働く人が最大限に集中するための環境の作り方について、お話を伺いました。
PROFILE
- 井上一鷹
株式会社ジンズ JINS MEMEグループ マネジャー - 1983年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、アーサー・D・リトルに入社。大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事。2012年ジンズに入社。社長室、商品企画グループマネジャーを経て現職。学生時代に算数オリンピックアジア4位、数学オリンピック日本最終選考に進んだ経験がある
東京で働く人の多くは「集中に飢えた難民」
—12月オープン予定の「Think Lab」についてお教えいただけますか。
ジンズはこれまで、人の集中力を測るメガネ型ウェアラブルデバイス「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」の開発を通じて、「働く人が集中できる環境」の研究にとことん取り組んできました。
「Think Lab」の開発もその研究の一環で、「世界一集中できるオフィス」「集中をサイエンスするワークスペース」を目指す当社の新オフィスであり、コワーキングスペースです。
—そもそも、ジンズはなぜ「集中」の重要性に着目しているのでしょうか。
ビジネスの付加価値、イノベーションを生み出す上で不可欠だからです。早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄さんが紹介されている、「両利きの経営」という概念があります。
イノベーションの本質は「知と知の組み合わせ」。「知の探索」と「知の深化」とのバランスが取れた経営こそがイノベーションを生み出す、というもの。集中は、後者の「深化」に大きく関わるのですが。
「知の探索」とは、人と出会って、知らないことや想定外のものに触れ、あれこれと考えをめぐらすこと。組み合わせる知と知の「距離」が離れているほど、セレンディピティが起こり、イノベーションが生み出されやすいと考えられています。
「知の深化」とは、探索して得られた知を自分の中で解釈し、突き詰めて考えることです。批判をおそれずに言えば、深化、つまり突き詰めて考えることをしない人がいくら人と出会って刺激を受けたとしても、何も生まれないということです。
そして、後者、「知の深化」は基本的に一人で行う作業ですから、良質な「集中」が不可欠ということなのです。
—ジンズのこれまでのオフィスは「集中」には向いていなかった、ということでしょうか。
当社のオフィスは、過去に「日経ニューオフィス賞・ニューオフィス推進賞<経済産業大臣賞>」を受賞したこともあり、「十分に優れたオフィス環境だ」という自負がありました。
しかし、それはあくまで「知の探索」のためのコミュニケーションの活性化にフォーカスしたものだったのです。
みんな向かい合って座るので、社員が全員を見渡すことができた。気軽に話しかけられるという点では優れているものの、いざ「集中しよう」となると、わざわざカフェなど外出して仕事をしたり、集中できる環境を探したりしている社員が多かった。
—コミュニケーションが活発な分、なかなか集中しづらい環境だった、と。
はい。これは当社にかぎらず、多くの人が抱える悩みかもしれません。
というのも、人が深い集中状態に入るには平均「23分」かかると言われています。けれども、平均11分に1回はメールや電話、あるいは上司や同僚に話しかけられてしまっているのです。
これではなかなか集中できなくても仕方ありません。特に日本人は、その場の空気を読むために、常に周囲に気をかけようとする習慣がからだに染みついていますから。
言ってしまえば「東京」という都市自体、集中するのに不向きな街なのです。視界のあちこちに看板や広告が掲げられ、集中するためにカフェに行くけれど、どこも人で溢れかえっている。
今どき自宅に一人でこもれる書斎がある人も少ないでしょうから、数百万人単位の「集中難民」が、平日の日中、集中できる環境を求めて右往左往しているのではないでしょうか。
「Think Lab」では、「週に1回は集中して、電話もメールも切って、自分だけで考える時間を作りませんか」という提案をしていきたいのです。
「禅寺」に学んだ、「世界一集中できるオフィス」の仕掛け
—「Think Lab」はどのようにして「世界一集中できる環境」を作っているのですか。
実は、「禅寺」と同じような設計になっています。禅寺は、人が集中するための要素を「全部盛り」で「最適な順序」に並べているのです。
「Think Lab」のプロジェクトは、予防医学研究者の石川善樹さんの説く「人が集中できる環境」と、妙心寺春光院の副住職でマインドフルネス講師の川上全龍さんの説く集中するための「神社仏閣の仕組み」に、井上さんが共通点を発見したことが発端。設計は著名建築家の藤本壮介さんが担当。
まず、エントランスから20メートルほどの暗闇の石畳の回廊を、自分の足音を感じながら歩きます。この環境で、脳にとって適度なストレスをかけることが、集中するための始めのステップです。
その暗闇を抜けると、先ほどまでとは一転して、空と緑が融合した開放的な空間に出ます。このときのストレスとリラックスのギャップが大きいほど、良質な集中状態となるのです。
禅寺も、僧たちが本堂の奥で集中して瞑想できるよう、薄暗い参道を進み、途中で後戻りしたり回遊したりしないよう、適切な順路が用意されています。それと同じです。
他にもさまざまな集中できる要素が用意されていて、一つは「緑視率」。緑視率とは、視界にどれだけ植物が入っているか、その割合を表すもの。ストレス軽減や知的生産性の向上などに最適な緑視率は、10〜15%であるという研究結果があります。緑が多すぎても、逆効果。
そして、「光マネジメント」。体内時計は太陽光の影響を受けていると言われていますが、オフィス内でも朝から昼過ぎにかけては白く明るい光、夕方になると暖かい暗めの光・・・と、自然光に近い光量に照明を変化させることで体内時計を整えます。
「椅子」も、欧米人と日本人では骨格や筋肉のつき方が異なるため、日本人に合った特製のもの。さらに、目的に応じた椅子を各種用意しています。
—「目的に応じた椅子」というものがあるのですか。
はい。クリエイティブワークにおいては、「収束思考(ロジックチェック)」と「発散思考(アイデア創出)」を行き来することが重要なのですが、「視線の角度」によってどちらの思考に入りやすくなるか、変化することが分かっています。
例えば、どんどんポジティブなアイデアを生み出したいときには、視線を少し上へ向けるほうが適しているのです。そのときは上を向いて座りやすい椅子を選んでもらい、逆もまたしかり。
これは余談になりますけど、会議で上司にあまり詰められたくないようだったら、紙の資料を配るのではなく、スライドを投影して目線を上げさせたほうがいいんです(笑)
椅子の他にも、朝・昼・夜で移り変わる「自然音」をハイレゾ音源で再生したり、血糖値マネジメントで集中しやすい脳の状態を作り出すために「間食」を用意したり、「アクティブレスト(攻めの休息)」と呼ばれる脳の活性を生むジムプログラムを提供したり・・・適度にリラックスするために「ビール」も用意します。
—「ビール」も集中を促すということでしょうか。
ビールは「翌日の集中」を促すためです。アルコールは、良質な睡眠を得るために寝る「4時間前」までに飲み終えることが望ましいんです。
であれば、帰宅途中に飲み屋に行ったり、寝がけに1杯飲んだりするよりも、仕事が終わった瞬間に「オフィスで」飲むほうが、実は理にかなっているのです。
「今日は頑張るぞ」と、アルコールではなくエナジードリンクを飲む人も多いですけど、その効果が切れ、血糖値がグッと下がるとかえってダルくなってしまうこともあります。
「そのとき集中すること」も確かに重要ですが、ビジネスパーソンが「その日1日だけ頑張ればあとはなんとかなる」なんてことはそうそうありません。
「継続的に」パフォーマンスを出し続けるため、という観点に立って環境を考えています。
集中しやすい職場を自分で作るための「第一歩」
—読者が自分が働く職場を集中しやすい環境にする上で、どんなことから取り組めばよいでしょうか。
人の集中の土台となっているものは、
- 集中しやすい「環境」
- 集中しやすい「取り組み方」
- その日や普段の「体調」
- その人に備わる「潜在能力」
の4つだと考えています。
人の集中を高める場というものは一概には語れませんが、まずは今の環境、取り組み方の「振り返り」から始め、PDCAを回してみてはいかがでしょうか。
例えば、「Gメール」に「セールスフォース」に「Facebookメッセージ」に・・・社内のコミュニケーションツールがバラバラ。導入したフリーアドレス制が、チームの目指すカルチャーやメンバーが集中しやすい環境作りに適っているのか、と。
テレワークやフリーアドレス制など今のトレンドを採り入れることは、一つひとつの方法としては間違っていないのです。けれども、きちんと検証せず、「何となくいいのでは」という暗黙知で続けていたのでは、組織に学びとして蓄積されていかない。
それでは、数年経って経営者やマネジャーが変わった途端、うまく機能していたはずの環境や取り組み方が新任者の独断で変わってしまう・・・ということも起こり得る。
組織である以上、人が変わっても共有できる形式知にしていくためにも、振り返りは必要。「ToDoリスト」は作っても、「Doneリスト」を振り返らないようではダメなのです。
マネジャーの仕事は、「チームとして」付加価値やイノベーションの創出など最大限の成果を挙げること。そのためには、今チームが置かれている「場の振り返り」をして、部下の集中を阻害する要因や不安要素を取り除くことも、大切な仕事のはずです。
井上一鷹さんの過去のインタビュー記事『チームの生産性を高めたいなら、部下の「超集中時間」を削り出せ』
[取材・文] 大矢幸世、岡徳之
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