米国Amazon本社で活躍する日本人事業部長・竹崎孝二さんに聞く、多様性の時代に日本人が求められる能力とは?

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米国シアトルのAmazon本社で事業部長として活躍する竹崎孝二さんは、2019年、2020年と2年連続で年間MVPを受賞した優秀なマネジャーです。

竹崎さんによれば、現在の世界の潮流は「日本人に追い風」。もっと多くの日本人に入社してもらいたいと考えている海外企業が増えているといいます。

その背景にはなにがあるのでしょうか? また、実際にAmazonのような企業で活躍するためには、どのような能力が求められるのでしょうか?

事業部長は「個人事業主」

―Amazonにはいつ入社されましたか?

まず、アマゾンジャパンに入社したのが2018年9月ですね。その後、2020年2月に米国の本社に転籍しました。それ以前は、日系電機メーカーの米国法人で、現地社員として勤務していました。日本の家電を米国の小売業に卸す仕事をしていて、当時の取引先のひとつがAmazonでした。

―Amazon本社でのお仕事内容は?

私が属しているのは「Amazon.com」を通じた小売事業です。主に米国の消費者に対して、スポーツ・アウトドア用品を提供しています。

商品の数が何十万点以上、かつ取引先の数も何万社とある中で、お客さまがお求めになりやすい価格で早く提供するために、取引先メーカーとともに商品の手配や価格設定を考えることが私の職責です。

「事業部長」としての役割は、自分が担当する事業の収益、つまり売上だけでなく原価や配送コストなど、営業利益を出す上で関わるすべてに責任を負うというものです。「経営者」もしくは「個人事業主」の感覚に近いと思います。

また、外部の取引先に加え、社内のマーケティングやファイナンスなど様々なステークホルダーと連携する役割も担っています。

―社内では部門をまたいだ「横の連携」が結構あるんですか?

日常的に連携しています。例えば、各事業部門の専門家が毎週決まった時間に「オフィスアワー」を設定して、お互いになにか気になることがある場合に気軽に立ち寄れる環境を作っています。そこで、自分とは違う役割を担当している人と意見交換や情報交換をしていますね。

昨年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、私が担当するある商品の原材料や物流配送のコストに影響が出ました。この現象が一部の事業だけなのか、全体で起きているのかが私一人では分からなかったので、配送コストに詳しいメンバーに全体を見てもらったところ、全事業でほぼまんべんなく起きていることが分かりました。

さらに、データを詳細に見ながら1個1個の商品の配送ルートや金額的インパクトを分析すると、米国内の配送センター2カ所ではなく、3カ所にそれぞれ、例えば100個ずつ在庫があれば、1個あたりの配送コストを数ドル下げられたはずだ、ということが分かったんですね。

その後は、全事業部長がそのデータを使って、自分たちの担当分野で意思決定をすることができます。下からの提案を受け、上からデータを全体に広げるということです。

「自分の問題」は「全社の問題」

―現場から提案やデータが吸い上げられ、横や斜めの連携が起こっているのはすばらしいですね。

背景には、Amazonの行動指針の重要な項目のひとつ、「オーナーシップ」があると思います。Amazonでは、立場や入社した時期は一切関係なく、一人ひとりが「当事者」であると同時に、「リーダー」であるという考え方をしています。

なにか問題が起きたときに、役割に関係なく「自分の問題だ」として受け止める。また、自分の担当する事業だけ改善できればよいという発想ではなく、その問題は実は組織全体が抱えているものなのではないかという、より大きな視点で捉え、全体の問題を解決していくことが求められます。

だからこそ、ボトムアップで問題を解決していくことが組織全体に浸透しているのだと思います。

―オーナーシップの意識を持ちながら、問題を自分の事業だけでなく、全社の課題として捉えることができるのはなぜでしょうか?

やはり「一人ひとりがリーダーである」という考え方が根底にあるからだと思います。

例えば、私が現在担当している事業部長という役職は、あくまで今与えられている役割に過ぎない。一歩引いて見ると、私もAmazonの一人の社員であり、リーダーであるということが求められるため、立場や役割はある意味、副次的なものです。

全体を俯瞰できるリーダーを育てるために、Amazonにはローテーションを促すカルチャーもあります。

―例えば、社員が進んで手を挙げて課題を指摘するインセンティブ設計などはありますか?

インセンティブではありませんが、Amazonのカルチャーとして私がすごく面白いと思っているのは、物事を仕組みとして解決することに力を入れている点です。個人の「努力」や「才能」や「善意」で結果を出す方法は再現性が低いと考えられているため、それらに頼るのではなく、いわゆる「仕組み」を作るカルチャーです。

例えば、定価20ドルの商品を半額の10ドルで売ろうとした際に、入力ミスで1ドルと打ってしまい、会社に大損害をもたらしたとします。このようなミスが起こった場合に、Amazonでは個人の責任は問いません。なぜミスが起こったのかを追求し、既存の仕組みを改善します。

―なるほど。ミスは個人の行動ではなく、仕組みに欠陥があるためだ、と。

はい。このため、ミスをしたときに安心して「ミスしました」と言える環境があります。ミスを表に出して、全体で問題の再発を防ぐことに力点を当てています。

Amazonの「リーダーシップ・プリンシプル」の中には、なるべく簡単な仕組みを構築して、全体に普及させることを意味する「インベント&シンプリファイ」という考え方もあります。最終的には総合的な「リーダーシップ・プリンシプル」に沿って、人材がきちんと評価される仕組みがあるんです。

海外で日本人は求められている

―竹崎さんはそんな中で、2年連続で年間MVPを受賞。

私自身、驚いています。Amazon本社に入社をして以来、与えられた目標、数値、役割以外に対しても、積極的に好奇心を持って動いてきた点を評価してもらえました。結果というよりは、取り組み方などのプロセスを見て評価していただけたことがすごく嬉しかったです。

―日本のビジネスパーソンが海外の企業で事業部長として活躍されているのは心強いです。

日本のビジネスで求められる業務の量と質は、世界的に見ても極めて高水準だと思っています。日本人にとって当たり前である、「締め切りを設定して守ること」や「重要な案件を短期間で仕上げること」は、世界的には当たり前ではありません。

例えば、1日の労働時間を踏まえると対応できない業務がある場合、海外では「手をつけない」、あるいは「後回しにした結果、納期を変える」ということも多々ありますが、日本人は一度まかせると、有言実行できっちり仕事をしてくれるため、安心感があります。

かつ、日本人は一般的に、物事を長期的に、そして深く考えることがすごく得意だと思います。そして、チームワークがあってとても協調性がある。一人ひとりの感情やバックグラウンドの違いといったものを配慮することが得意な人たちだとも思います。これは世界的に見ると、実はものすごいことです。

―率直に、日本人はどうすれば海外で活躍できるのでしょうか?

海外で働くことの大きな障壁は「語学」と「ビザ」だと思いますので、海外で仕事を探すよりも、日本企業で海外駐在をするか、外資系企業の日本法人に入社して海外の本社に移る、というキャリアパスが一番確実で早いと個人的には思っています。

その際に大切なのは「ネットワーク」です。履歴書とかインタビューは二の次で、すでにそこで働いている人たちと信頼関係を構築し、「来てほしい」と思ってもらえるかどうかが最も重要なポイントです。

今は世界的な潮流が変化する中で、2つの観点から日本人は求められてきているんですよ。

―どのような観点でしょうか?

1点目がDEI(Diversity, Equity, Inclusion=多様性、公平性、包括性)の観点です。今ほど人材のDEIが求められている時代は、過去にないと思います。どのグローバル組織でも、多様な人材を受け入れ、彼らが活躍できる環境を提供していくことが経営の最重要課題になってきています。

それを考えたときに、日本人の海外でのプレゼンスが低いという状況はチャンスです。もっと日本人に入ってほしいと思っている企業は増えていますし、数多くあります。

2点目は、コロナ禍でリモートワークが浸透したことで、ディスカッションよりも書き言葉によるコミュニケーションの重要性が急激に高まっているという点です。

そのため、今までは会話が苦手な日本人に不利に働いていた語学が、読み書き中心に変わっていることでさほど不利ではなくなり、日本人が海外で活躍できる状況が整ってきています。

「責任者」から「当事者」になるために

―責任をしっかり果たすことは「オーナーシップ」という言葉にも言い換えられるのかなと思ったのですが、日本人が考える「オーナーシップ」とAmazonで言われる「オーナーシップ」の質は異なるのでしょうか?

ちょっとニュアンスが違うと思います。日本人にとってのオーナーシップは、「決まったことをちゃんとやる」という責任感だと思いますが、Amazonのオーナーシップは、言われたことをきちんとやるのではなく、自分が与えられたこと以上のことを「当事者」として取り組んでいます。

例えば、自分がマネジャーとは異なる意見を持っている際に「違うと思います」と意見を表明することも、当事者意識だと思います。

―なるほど。日本人はどうすれば、もっと当事者意識を持てるでしょうか?

責任感から当事者意識へ視座を上げていくことだと思います。そのために必要なのは、1つ目には、自ら考え、賛同できない意見には異を表明する習慣を持つことです。

例えば、夜遅くまで残業した人がいた場合、「ポジティブな努力」として評価をすることは、責任感止まりだと思います。一方で当事者意識とは、定常的に残業せざるを得ない状況を組織全体にとってプラスではないと捉え、その根本的な理由がどこにあるかを考え、改善するために実行することです。

無駄な業務が発生していないか、仕事の優先順位がつけられていないのではないか、業務配分の見直しをする必要があるのではないか、といったところまでを考え、残業しなくても成果が出るようにするために状況を変えることまでができるのが、当事者意識だと思います。

―当事者意識を高めるには、異を唱えることができる環境も必要ですね。

土台としてすごく大事なのは、異なる意見を受け入れる環境を組織として作ることだと思います。いろんな意見が出てくることを前向きに受け止めて、ポジティブに評価する。

Amazonの場合はDEIを重視しており、国籍も人種も宗教も、もちろん経験も、異なるバックグラウンドを持った人たちが集まっています。だから、まったく異なる意見が出てくるのが当たり前なので、立場やバックグラウンドに関係なく、個人個人をお互いに尊重し、受け入れることを積極的に促しています。そのため、どんどん違う意見を言いやすく、受け入れやすい環境になるのです。

―そんな環境の中で、竹崎さんは今後どういうキャリアや人生設計を考えていますか?

僕は日本のものづくりを信じています。そして、日本の良いものを自分自身がリードしながら世界中に広めていきたい、という思いを持っています。

米国にいつまでいるかは分かりません。ただ、国や文化によって働き方など求められるものが異なる中で、自分や家族の状況を考えると、例えばこのタイミングだったら日本のほうがより自己表現できるかもしれないけれど、別のタイミングだったら米国のほうが適しているかもしれない、ということがある。そういった変化に対して自然体で選べるように、流れに身を任せたいと思っています。

米国Amazon本社 シニアベンダーマネジャー(事業部長) 竹崎孝二
日本人の可能性を世界へ広げることを志向して、総務省(地方自治)、Panasonic North Americaなどを経て、2020年2月より米国シアトルのAmazon本社にてシニアベンダーマネジャー(事業部長)。Amazon本社にて2年連続、年間MVP受賞(2019年度・2020年度)。TOEFL iBT 34点(TOEIC 330点相当)からスタートの非ネイティブ。2006年東京大学経済学部卒、2014年University of California San Diego MBA修了。元ロータリー国際親善奨学生、Seattle 4 Rotary Club所属。

[取材] 岡徳之 [構成] 山本直子

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