「嫁ブロック・夫ブロック」にどう向き合う?転職への反対の原因と対処法を解説

嫁ブロック

ミドル層は家庭を持つ人も増えて、家事や子育てとの兼ね合いなど、転職に当たって勘案しなければならないことが増えてくる年代です。そんな中、いざ転職を検討していることを配偶者に相談した際、反対されてしまうことを世間では「嫁ブロック・夫ブロック」と呼びます。

では、この配偶者によるブロックは、なぜ起きてしまうのでしょうか。その要因や未然に防ぐ方法、起きた場合の対処法について、株式会社パーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員に解説いただきました。

ミドル層が転職を考える背景と主な理由

そもそも、30代後半から40代のミドル層が転職を考える理由にはどういったものがあるのでしょうか。その理由から考えてみましょう。

転職を考えるということは、現在の会社や仕事になんらかの不満を持っていることが考えられます。実際に、「転職行動に関する意識・実態調査」によると、「会社への不満」に端を発する転職が、全体の約8割を占めていることが分かっています。

参考:パーソル総合研究所・中原淳「転職行動に関する意識・実態調査」

では、最も転職につながる不満とは何でしょうか。それは、人間関係に関するトラブルです。下記の調査結果からも分かるように、ハラスメントやコミュニケーションの不和など、いわゆる「半径5m以内の人間関係」のトラブルが原因で日本人は転職する傾向があるのです。

■転職につながりやすい不満 

1位直属の上司からのハラスメントがある
2位メンバー間でハラスメントがある
3位直属の上司の態度が高圧的だ
4位サービス残業が多い
5位組織全体の雰囲気が悪い
6位やりたい仕事やアイデアがあるが、実現できない
7位直属の上司が信頼できない
8位労働時間が長い
9位他のメンバーの考え方についていけない
10位直属の上司の指示や考えに納得できない
参考: 中原淳・小林祐児・パーソル総合研究所『働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは』KADOKAWA

逆に人間関係が良好であれば、待遇や仕事内容に多少の不満を抱えていたとしても、転職をするまでの決断に至らないケースが多いといえます。これが日本の労働流動性が上がらない理由の一つでもあります。

この事実を踏まえると、嫁ブロック・夫ブロックがなぜ起きるのかが見えてきます。

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嫁ブロック・夫ブロックはなぜ起こる?

デメリットへの恐れが反対を生む

妻にしろ夫にしろ、配偶者の転職にただやみくもに反対するわけではありません。反対するということは、配偶者の転職によるデメリットがメリットを上回り、不利益が生じると感じているわけです。

例えば、転職することで給料が下がってしまうと、家計に悪影響が出る可能性があります。そうしたデメリットを恐れる気持ちが、配偶者のブロックにつながります。

逆にいえば、デメリットを感じないポジティブな転職であれば、配偶者のブロックも起きないでしょう。安定した業績の会社で給料が上がり、残業が減り、勤務地も変わらないような場合は、反対するケースは少ないはずです。

転職の主な理由は「人間関係のトラブル」

しかし前述の通り、転職理由のほとんどは「人間関係に関するトラブル」です。職場の人間関係に悩んで急いで転職をする場合、給料や勤務地といった条件は現在より悪くなる可能性もあります。

さらに、「人間関係のトラブルは改善できる可能性がある」と見なされやすいことも配偶者からのブロックが起きる要因です。例えば、「無理に転職をしなくても、少し待てば嫌な上司が異動するかもしれない」「本人が違う部署に異動できるのではないか」というように、転職以外の選択肢があるだろうと配偶者は考えてしまうのです。

勤務地や給料、仕事内容といった今の良い条件を維持したまま、もし人間関係の問題が改善できるのなら、わざわざ望まない変化につながるかもしれない転職なんてしなくてもいいのではないか。そうした考えが、配偶者からのブロックを引き起こす要因となり得ます。

悩んでいる当事者にしてみればつらい状況ですが、実際に嫌な上司が異動したり、上司が上から注意されておとなしくなったり、自身の異動希望がかなったりする可能性もあるかもしれません。これは、どちらが正しいという話ではないのです。

調査から見えた転職に対する価値観の違い

転職を反対する理由は男女で異なる

パーソル総合研究所の調査によると、配偶者からのブロックといっても、男女で転職に対する価値観やブロックの理由などは異なります。

「男女の転職に対する価値観の違い」の図,転職を検討したものの中止した571人の男性のうち、約6.0%はその原因が妻からの反対。転職を検討したものの中止した588人の女性のうち、その原因が夫からの反対。

参考: パーソル総合研究所・中原淳「転職に関する定量調査」

転職を検討したものの中止した571人の男性のうち、約6.0%はその原因が妻からの反対となっています。また、妻が最も反対する転職理由は、「直属の上司からのハラスメント」という結果でした。

一方で、転職を検討したものの中止した588人の女性のうち、その原因が夫からの反対である率は3.6%でした。つまり、「嫁ブロック」よりも「夫ブロック」のほうが起きにくいといえます。夫が最も反対する転職理由は「嫁ブロック」とは異なり、「やりたい仕事やアイデアがあるが実現できない」となっています。

つまり、夫の転職理由が人間関係のトラブルである場合、妻が反対する率が高く、妻の転職理由がキャリアアップや自己実現の場合、夫が反対する可能性があるということです。

ライフステージで変化する意識

この違いは、男女の働き方や家庭での役割意識に左右されています。

30歳前後になると結婚する人が増加し、女性の一部は妊娠・出産というライフイベントを迎えます。このとき、女性の意識は必然的に仕事から「出産や育児のために時間をつくりたい」という方向に変わります。

そうなれば、家族を「家庭領域」と「経済(仕事)領域」に分けたとき、経済領域は一時的にでも男性に期待することになります。もちろん、そうでない女性もいますが、出産・育児の前後はそうした性別による役割分業意識の再生産が起きやすいといえます。特に、男性側が経済領域を自身のメイン領域だと考えていると、よりこうした傾向は強まるでしょう。

また、こうした嫁ブロック・夫ブロックの起きやすさは、子どもの有無でも変わります。前項の図のように、子がいると、子がいない場合に比べて嫁ブロックは3.2倍起きやすくなり、夫ブロックは2.2倍起きやすくなることが分かっています。子どもができることで、男女ともに現状の安定性を維持しようとする傾向が高くなることがうかがえます。

嫁ブロック・夫ブロックが起きたらどうする?

配偶者からのブロックが起きてしまった場合は、相手に納得してもらえるようなプレゼンテーションが必要です。転職は個人の選択ではあるものの、影響範囲は家庭全体に及びます。そもそもなぜ転職したいのか、転職した場合に家庭内への影響がどの程度なのか、影響がある場合はどうカバーしていこうと考えているのか、などをしっかりと説明しましょう。

例えば、「転職することで給料が上がるんだよ」と説明しても、「給料が上がっても残業が増えて家での時間がなくなるんじゃ意味がない」と指摘される可能性もあります。

そうならないために、「給料が上がるし、残業も今と変わらない程度だから、夜は早く帰ってこられるよ。土日も休みで時間をつくれるし、転勤もない」といったように、相手が気にする要素について十分に説明することが大切です。

また、「子どもの送り迎えや家事はどうするのか」などの疑問を相手が持つようであれば、どう分担するのかなどもお互いが納得するまで話し合う必要があります。

いずれにしても、相手が気にする点をクリアにし、経済面や家事・育児の分担についてどう取り組むのか、十分に話し合い、対策を立てることが重要です。

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嫁ブロック・夫ブロックが起きる前にできること

日常的な「自己開示」がポイント

予防策として有効なのは、日ごろからお互いに自己開示をする、「腹を割って話す」ことです。たとえ不器用でも相手に対して本心や弱みをさらけ出せるかどうかが、コミュニケーションのポイントになります。

また、自己開示が重要である理由は、そこに返報性の法則が働くからです。まず先に自分から本音を話せば、相手もおのずと「話してくれたのだから、自分も本音を話そう」と思います。

そうして日ごろから本音でのコミュニケーションが成立していれば、いざ転職について相談しても、嫁ブロックや夫ブロックが起きる可能性は少なくなるでしょう。

公私を分離し過ぎないことがカギ

裏を返せば、普段からお互いに仕事や家庭のことを話さない状態で、いきなり転職の相談をしてしまうと配偶者からのブロックが起きやすくなるでしょう。そうなってしまう根底には、「公私の分離」という考え方があります。つまり、「プライベート=家庭」と「パブリック=仕事」を分けて考えることです。

よく見られる傾向として、結婚や出産を機に男性は仕事の話を家庭に持ち込まなくなり、女性は家庭について男性からの意見を避けるようになることがあります。

特に、妊娠を機に女性が仕事を辞め、男性はキャリアを進めていくような場合だと、お互いに「この話をしても相手には分からないだろう」と考えて、コミュニケーションを避けるようになるのです。

しかし、そもそも仕事と家庭は完全に分離できるものではありません。家庭の満足度と仕事の満足度はそれぞれが影響し合います。家庭の満足度が上がると仕事のパフォーマンスも上がり、逆もまたしかりなのです。

昨今はテレワークの浸透もあり、仕事と家庭の境界がどんどん変化してきています。仕事と家庭をはっきりと分けて考えるのではなく、大いに影響し合うものと捉えて望むキャリア像を共有しコミュニケーションを取っていくことが、スムーズな転職活動につながるといえるでしょう。

まとめ

嫁ブロック・夫ブロックは、男女の意識の違いや子の有無によっても、起きる要因や確率が異なります。いずれの場合も、日ごろのコミュニケーションが解決・予防の糸口となります。

とはいえ、すぐに一人でコミュニケーションの改善に乗り出すのはハードルが高いと思う人もいることでしょう。配偶者も納得する転職がしたい、どう説得すればいいのか分からない、という方は、転職のプロに相談するのも一手です。

doda X」はハイクラス転職を目指すミドル層のリアルな悩みに対して、ヘッドハンターやキャリアアドバイザーといった転職のプロが過去の転職事例を踏まえてご相談に乗ります。ぜひ一度相談してみてください。

小林 祐児(こばやし・ゆうじ)

株式会社パーソル総合研究所 上席主任研究員

NHK放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著書に『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)など多数。

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