これからのキャリアは「個人が主導権を握る」時代 プロティアン・キャリアで紐解く30代・40代のキャリア論

これからのキャリアは「個人が主導権を握る」時代 プロティアン・キャリアで紐解く30代・40代のキャリア論

災害や疫病など未曽有の事態が発生したり、新しいテクノロジーが日々目まぐるしく発展したりなど、近年は社会がいかに流動的で不安定な状況にあるかを改めて感じる機会が増えました。

日々変わりゆくこの世界で、今後の働き方やキャリア構築について悩む人は多いでしょう。特に30代から40代のビジネスパーソンは、管理職に就いたり、重要なポストを任されたりすることもあるかもしれません。またプライベートでも、結婚や子どもの誕生、親の介護など、ライフスタイルに大きな変化が起こる時期です。

変化を前提とした未来志向のキャリア論「プロティアン・キャリア」の考え方では、「キャリアは、組織ではなく個人が主導権を握ることが重要」と説かれています。変わりゆく社会情勢のなかで、柔軟に生き抜くためにはどうすればいいのか。プロティアン・キャリア協会代表理事の有山徹さんに伺います。

有山 徹(ありやま・とおる)

一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事               4designs株式会社代表取締役CEO/founder

大学卒業後、メーカー、コンサルティング会社を経てIT企業3社で経営企画に従事。2019年に経営・キャリア支援を行う4designs株式会社を起業。2020年3月、現代版プロティアン・キャリア提唱者で法政大学キャリアデザイン学部教授の田中研之輔氏と一般社団法人プロティアン・キャリア協会を設立。2024年時点で30万人以上にプロティアンの考え方を伝えている。著書に「新しいキャリアの見つけ方」(アスコム)。
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「成功の定義」が変わった現代社会のキャリア

――昨今、パンデミックの発生や生成AIの誕生など、社会が大きく変化する出来事が起きています。その影響を受けて、人々のキャリアに対する捉え方はどう変化していると思いますか。

昔は「何歳までにどんな役職を持つか」という、キャリアに対しての共通の価値観や目標がありました。ですので、企業に入社した社員は、横並びで一斉に努力することが正しいというような風潮があったでしょう。

一方現代は、全員が同じ価値観を持つより「AさんにはAさんの、BさんにはBさんの幸せがある」と、その人にあった幸福を追求する風潮にあります。場合によっては、役職に就くよりも、別のことに幸せを見出す人もいる。つまり、キャリアにおける「成功」の定義が変わってきた、ということです。

その結果キャリア構築の主導権は、会社という「組織」ではなく「個人」が握るようになりました。自分らしいキャリアを、自分自身の手で作れるようになったのは大きな変化です。

プロティアン・キャリアでは、目標に向かって最高の努力をするプロセスで得る感覚を「心理的成功」と呼んでいます。自分の理想像を自分で設定し、その目標に向かって努力する。そのプロセスのなかで充実感や生きがいを実感することが、現代におけるキャリアの成功のために最も大事なことなのです。

取材に答える有山氏

――目標となる「理想のキャリア」を、自分自身で定義する必要のある時代なんですね。

プロティアン・キャリアの共同代表である法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授は「歯を磨くようにキャリアを考えることが大切」と説いています。

毎日考えることは難しいかもしれませんが、2週間に1度、10分間だけでも良いので、とにかく「考えること」を習慣化するのが大切。キャリアを継続して考えることは、定期的に目標と現実を見直して、自分の進む道を軌道修正することにもつながります。

以前は、人事異動や結婚といった大きな転機を受け、その都度自分のキャリアを考え直すことが多かったと思います。しかし現代は、生成AIといった数年前にはなかった新しい仕組みが突然登場し、働き方が大きく変わってしまう社会です。変化が起きてから初めてキャリアを考える、といったペースでは追いつかない時代なのです。

――習慣的にキャリアを考えるためには、まず何から始めれば良いのでしょうか。

「5年後や10年後にどうなりたいか」という中・長期的な未来と、「今日、明日にできることは何だろう」といった短期的な目標を行き来しながら考えてみましょう。そうすれば、だんだんと将来のビジョンの解像度をバランス良く高めていくことができます。

もちろん、最初は漠然としたイメージでかまいません。例えば、10年後には小学生向けの教育事業を立ち上げたいと思ったなら、今日にでも教育に関わるセミナーに申し込んだり、関連書籍を調べて買ったりと、行動に移します。一歩でも踏み出すと、将来自分がありたい姿の解像度が上がり、「小学生向けじゃなくて、やっぱり中高生向けの事業をやりたいかも」「教育事業のなかでも起業家支援が自分に合っていそうだ」とより具体的に考えられるようになる。行動によって情報が自分の中にインプットされた結果、自分のキャリア戦略を継続的にアップデートできます。そうすることで、将来のビジョンの実現により近づけるようになるでしょう。

もちろん、環境の変化に応じて将来像も変わってくるはず。自分の年齢を具体的に思い浮かべながら、トライアンドエラーを繰り返すことが重要です。今後のキャリアについて「悩む」のではなく「考える」時間を意識的に作りましょう。

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30代・40代のキャリアは、プライベートの条件を書き出して考えてみる

――では、とくに30代・40代が自分の将来像をうまくイメージできない場合、まず何から考え始めたら良いでしょうか。

「誰のために何をしたいか」を考えると、仕事面の目標もはっきり見えてくるかもしれません。自分の心理的成功って何だろう、と考えるときは、まず一番大切な人を思い浮かべて、その人が喜ぶことを挙げてみてください。

仮にその相手がパートナーだとしましょう。生活を少々犠牲にしてでも、仕事に専念して不自由なく暮らせる金額を稼ぐほうが良いのか。それとも、稼ぎはほどほどだけど定時退社して、家で一緒に長く過ごせるほうが良いのか。そういうところから考えていくと、進むべき道が導き出せると思います。

そもそも30代・40代はプライベートで複数の要素が変化しやすい時期ですから、まずはプライベート面でどうありたいかを具体的にすることが大事です。結婚や子ども、親の介護、定住先、地元へ帰るか否か。仕事は変えられるけれど、プライベートを自分ひとりの力と意思で変えるのは難しいですから、しっかりと考えて今後についての対話を増やしていく必要があります。

取材に答える有山氏

――しかし、プライベートの目標を定めた結果、現在の状況とやりたい仕事が噛み合わなくなる場合があるかもしれません。

そうですね。突き詰めて考えていくと、プライベートの条件と自分のやりたい仕事が合わなくなることもあるでしょう。例えば、妻は教員で地元に根付いた職業だけど、自分は商社勤めで海外へ行きたい。妻と一緒にいる時間を重視するか、3年間と時間を決めて海外で仕事をするか。そういう場面では、パートナーとしっかりと話し合って決めるしかありません。

ただ、最近はプライベートな問題に対して寛容な企業も増えてきました。特に大企業では、時短勤務や各種休暇制度も、以前と比べると格段に使いやすくなっていると思います。

大きな仕事に携わることも増えると、どうしても休むことが難しくなる場合もあります。会社にも自分のプライベートな状況を隠すのではなく、適切に上司や組織、人事に伝え、しっかりと協力を仰ぎましょう。会社の制度に頼る場合は、周りの人と適切なコミュニケーションを取ることが大切です。

――個人で完結させずに周囲の力を借りながら、プライベートと仕事のバランスを取ることが大事なんですね。

プロティアン・キャリアでは「関係性」を重視しています。変化に対応するためには、個ではなくチームで戦うことが大切です。

例えば、自分が仕事に専念したい時期に、親の介護が必要になってしまったとします。そこできょうだい間の関係性が良好であれば、「自分のきょうだいに1年間だけ介護をお願いする」といった選択肢が生まれるでしょう。また、会社の人にお願いして、自分が介護に注力するため、1年間だけ業務負担を減らすようにしてもらえるかもしれない。

日本では「個人のキャリア」というと、企業は踏み込めない聖域のようなイメージを持ちがちです。しかし、その壁を自ら壊して組織との良好な関係性をつくることが、自らの働く可能性を広げるために必要となります。「自分の都合を組織に求めるなんて…」といった、いわゆる企業戦士的な考え方をする時代ではなくなったんです。

キャリアの考え方は?
キャリアの主導権を組織から個人に変える。
プライベート面でどうありたいかを明確にする。
「誰のために何をしたいか」を考えてみる。

40代は「マネジメント」or「プロフェッショナル」を決断する年代

――今後のキャリアを考えるときは、どういった指針を意識するのがいいのでしょうか?

特に大きなものだと、「管理職と専門職、どちらのキャリアを目指すのか」という選択でしょうか。40代に入ると、マネジメントを行うのか、専門性を高めてプロフェッショナルとなるのかで道が分かれます。ですので、自分はどちらの道へ進みたいのか、30代のうちから意識して考えておくことも大事だと思います。

そのときに意思決定を誤らないよう、小さい組織やプロジェクトでも良いので、できるだけ早いうちからリーダーやマネジメント業で一定の成果を出しておけると良いでしょう。そういった小さな体験の積み重ねがあると、自身のありたい姿に近づくにはどうすれば良いかの判断がしやすくなります。

――しかし、今いる会社ではやりたい仕事ができず、理想と現実にギャップを抱えるケースもあるかもしれません。

大企業であれば別の部署に移れる可能性がありますが、中小企業だとそうもいかないですよね。

その場合は、副業をうまく利用するのも一つです。あとは、アライアンスを組んでいる企業の場合だと、企業を越境して進める新規事業プロジェクトなどに手を挙げるのも良いですね。もしかしたら、まったく新しいビシネスの場で自分の能力を最大限発揮できるかもしれませんから。

そういった選択肢も考えた上で、どうしても今の職場では理想のキャリアを築くのが難しい、といった場合は、転職も有効な手段となるでしょう。

取材に答える有山氏

――30代・40代は、ほかの世代と比較して転職の進め方に違いは出てくるのでしょうか。

ほかの世代と比較しても、やることはあまり変わらないのではないかと。とはいえ30代は「管理職と専門職」の決断に加えて、パフォーマンス負荷のかかる会社を積極的に選ぶことも大事だと思います。30代はまだまだ成長しやすい時期ですからね。もし、チャレンジできる会社と安定した会社とで悩んだのなら、前者を選ぶべきかなと思います。

40代になると、企業としてもある程度のポジションに見合うような人を採用したい、という傾向が出てきます。また場合によって、40代は「新しい環境への適応力があるか」といった点を特に重視されることもあります。30代はまだまだ適応力がありますが、前職を長く勤めた40代は新たな環境への適応が難しい側面もあるでしょう。

いずれにせよ、どういう環境なら自分のスキルを発揮できるのか、自身についてしっかりと理解することが大切です。身近な人に自分のことを聞いてみるのも有効かもしれません。もし転職を検討している先が自分に合う環境ではなさそうであれば、たとえ年収などの待遇面が魅力的であっても断る。そういった潔さも持っていると良いですね。

30代・40代転職の鍵は?
管理職と専門職どちらの道へ進むかを意識する。
管理職で結果を出す経験をする。
企業選びは「スキルを発揮できる環境」かを重視する。

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自己理解を深めるキャリアの棚卸の方法

――仕事を新しく選ぶ際は、まず自分のキャリアやスキルを見直して、自己理解を深める必要があると。それは具体的に、どのようなことをすれば良いのでしょうか。

まずは、自身のスキルや、今までのキャリアなどを棚卸ししてみましょう。特にプロティアン・キャリアでは「ビジネス資本」「経済資本」「社会関係資本」の3つを棚卸しした上で、どの資本を戦略的に蓄積していくのかを継続的に見直すことを推奨しています。

「ビジネス資本」は自身の経験や知識、資格など、仕事に直結する資本のことです。「経済資本」は、自分が持っている資産や貯金などの金銭的な資本。「社会関係資本」は、今まで築いてきた人間関係のこと。

また「社会関係資本」には、「橋渡し型」と「結束型」の2種類があります。「橋渡し型」は、SNSだけでつながっているような緩いつながりのこと。「結束型」は家族や昔からの同級生などの、固いつながりのことを指します。

取材に答える有山氏

――自分が持っているスキルや資産、人とのつながりを見直す、ということですね。

プロティアン・キャリアでは、この中でも「社会関係資本」を重視しています。実のところ、資格を取って人生が劇的に変わった、という人はあまりいないんです。それよりも、誰かと出会うことで人生が変わることのほうが多い。

「社会関係資本」のキーワードは「広げる」。例えばSNSは、いわば個人の情報を発信する一つのメディアです。SNSを使って自分のやりたいことを発信していけば、考え方を理解してくれる仲間と出会えたり、仕事が舞い込んできたりする可能性も高まります。

今は誰でも発信できる時代。自分自身のキャリアの可能性を広げるために、自らのことを発信し続けることも大切です。

――転職を考える上でも、まず目の前にある「やるべきこと」をコツコツ積み上げていって、目標に向かっていくことが大切なんですね。

キャリアって積み重ねなんですよね。結果が出るまでは、スモールステップで少しずつ積んでいく必要があるんです。

「部長になりたい」「年収1000万円になりたい」といった、役職や年収という外的な基準は、あくまで自分の理想像に近づくための手段でしかありません。そこからもっと踏み込み「自分はどういう存在になりたいか」を具体的に思い描くことが大切です。

キャリアの最終地点として「自分にとっての幸せ」を具体的に考えることで、今やるべきことが見つかります。そこから副業を始めたり新規事業を立ち上げたり、はたまた転職したり。その中でビジネスにおける方向性も定まっていくでしょう。一つずつ、着実にキャリアを積み上げることが、心理的成功につながるのだと思います。

理想のキャリアを実現するには?
ビジネス資本、経済資本、社会関係資本を見直す。
スモールステップで少しずつキャリアを積み上げる。
「どういう存在になりたいか」を具体的に描く。

主体的にキャリアを捉え、選択肢を考える

自分のキャリアを継続的に考え、目標に向かって舵を取っていく。プロティアン・キャリアの考え方は、変化し続ける現代を柔軟に生き抜くためのスキルが詰まっていました。

一歩踏み出そうと決意した人の中には、「自分にとっては転職が必要だ」と感じた人もいるでしょう。

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取材・文:ゆきどっぐ アイキャッチ・図版:小峰浩美 編集:doda X編集部、中込有紀/ノオト

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