複業解禁の今こそ知りたい、個の弱みを補完する「ギルド型組織」とは
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複業・副業を“解禁”する企業が増え、会社の看板に頼らず個人の名前で活躍のフィールドを広げるビジネスパーソンが現れ始めています。けれども、個として活動することには個ならではの弱みがあるのも確か。病気を患って仕事に穴を開ければ、その代償はダイレクトに自分に返ってきますし、大組織と比べてプレゼンスの小さい個人が受けられる仕事の大きさには限界がある、というように。
そうした個の弱みを補完する目的で生まれたのが「ギルド型」と呼ばれる新しい組織です。2013年にできたTHE GUILDは、その先駆けとしてWeb業界では知られた存在。
メンバーの多くはデザイナーですが、代表の深津貴之さんがコンテンツプラットフォーム『note』を運営するピースオブケイクのCXOに就任するなど、今では単なるデザインに終わらないレイヤーにまで仕事の幅を広げています。
複業をする個人にとってギルド型組織に参画することにはどのようなメリットがあり、実際にどのような仕組みで個の弱みを補完しているのでしょうか。また、そうした組織で活躍できる人の条件とは--。THE GUILDの共同創業者の一人で、動画配信サービス『U-NEXT』の技術顧問を長く務めるUXデザイナー・安藤剛さんに話を聞きました。
PROFILE
- 安藤剛
THE GUILD 共同創業者/UXデザイナー - 大手SIerにて大規模システムの提案・構築、海外事業開発などを歴任後、検索エンジンベンチャーの設立に参画。2012年よりMobile and Designとしてモバイルアプリを中心に企画・製作・コンサルティング・映像制作などの領域で活動中。代表作にAppStore総合1位を獲得した「Staccal」がある。
社会との接点減、機会損失・・・ フリーになって感じた悩み
―最初にTHE GUILDを立ち上げるに至った経緯というか、背景にあった課題意識について伺いたいんですが、安藤さんはもともと大手のSIerに勤めていたそうですね。
はい。新卒から4年間はエンジニアとして、航空会社のCRMやメーカーの顧客管理などの大規模な業務用のシステムを扱っていました。ただ、エンジニアではあったんですが、同時にフロントのデザインもまかされていて。装飾的なデザインがなくても、機能的に整っていればそれだけで美しい・・・今につながるそうした感覚を持つようになったのは、そのころからです。
―なるほど。
その後はSIerの社内で事業企画部に異動し、海外でポテンシャルのある製品を見つけて日本で展開する仕事に携わりました。3年間でいくつかのプロダクトを日本に持ち帰り、実際に製品化することができたのですが、ひとつだけ社内で通らなかった製品がありまして。その製品にすごく思い入れを持ったことで、独立してそれを扱うための会社を立ち上げることになりました。この会社は最終的にIBMさんに買収されてなくなってしまうんですけど、ちょうどそのころ、世の中にiPhoneが登場しまして。
―iPhone登場というと、2007年ごろですね。
手に取った瞬間、「なんてすごいものなんだ!」と衝撃が走り、あの中で動くプロダクトを作ってみたいと思うようになりました。それでMacを買ってアプリ開発を開始して。ここからフリーランスとしてのキャリアが始まりました。
それまで扱っていた企業向けの製品であれば、まずパッケージ化して、宣伝のための商材を作り、さらにそれを扱ってくれるパートナーを見つけて流通に載せなければマーケットには広がっていきません。ところが、アプリはApp Storeに出しただけで流通に乗ってしまう。その点も当時の自分にとっては衝撃的で・・・。どんどんのめり込んで、どうしてもタイトルになるものを取りたいと思うようになって。いろいろと試行錯誤を重ねた末に、最終的にApp Storeで総合1位を獲得することができました。
―それがカレンダーアプリの『Staccal』ですか。
そうです。このころには「フリーランスになったからにはいろんなコミュニティと接点を持たなければ」と思い、当時盛んになり始めていたデベロッパーの勉強会などにも顔を出すようになっていて。そこで知り合ったのが、のちに一緒にTHE GUILDを立ち上げることになる深津でした。彼も同時期にクリエイティブの制作会社から独立してアプリのデベロッパーをやっていたので、似た境遇にありました。
当時の私はというと、アプリのビジネス自体はそこそこうまく回っていたのですが、フリーランスになってすべてが一人で完結するぶん、社会との接点が少なくなってしまう点に悩みを抱えていました。また、アプリで知名度が上がったことでいろんな会社さんからお声がけいただくのですが、一人では受けきれない規模の仕事も多く、お断りせざるを得ないケースが結構あった。さらに、身体を壊すとすぐにビジネスが滞るという、フリーランスに共通した悩みもありました。
―ええ。
こうした問題をなんとかしたいと思っていた時に、深津が「同じような悩みを抱えたフリーランスが集まって組織を作ったらどうか?」と言い出したんです。そんな経緯で2013年、フリーランスのデザイナーばかり6人が集まって創業したのが、このTHE GUILDというわけです。
ノルマもない、コミットも求めない。それでもTHE GUILDがうまくいく理由
―では、ここからはTHE GUILDがどういう組織なのかを教えていただきたいのですが、THE GUILDのメンバーは今も全員がフリーランスなんですか?
今年から新しい試みとして社員2人を採用しましたが、基本的にはみなフリーランスです。経営に関わる「ボードメンバー」が6人、経営には関わらないけれども一緒にビジネスをする「パートナー」が20人くらいいます。
―実際、どんな働き方をしているんでしょう?
これはTHE GUILDができた理由の一つでもあるのですが、フリーランス個人がマーケットでプレゼンスを発揮するのって難しいじゃないですか。でも、そうしたフリーランスが一つに集まればスケールメリットを出せるはず。これまでは個人にバラバラに積み上がっていたケーススタディをTHE GUILDというブランドに集約し、なおかつ企業からお仕事をいただく窓口も一つにまとめています。そのほうが個人で仕事を待つより大きな仕事を受けられるだろう、と考えて。
窓口に問い合わせをいただいたら、まずは誰かしらが話を聞きに行きます。そして案件に応じて、完遂するのに必要なスキルを持った人をアサインし、チームアップします。そしてそれぞれに必要な作業量を割り出し、それらすべてを合算したものを最終的な見積もりとしてクライアント側に提案する。これが大まかな仕事の流れです。
―ということは、さまざまな案件に対応するにはデザイン以外のスキルを持った人も必要ですよね。THE GUILDにはデザイナー以外のメンバーも?
7、8割がデザインスキルを持った人間ですが、ひとくちにデザイナーと言っても同時にプログラミングもできるとか、ビジネスに深い理解があるとか、スキルを掛け合わせた人材が多くいるので、世間一般で言われるいわゆるデザイナーとは少し違ったりもします。あとはエンジニアリング専門の者もいたりとか。今年に入ってからはデータ分析専門の者も加わりました。
THE GUILDができた当初は「このアプリを作りたい」といった制作フェーズだけのお仕事をいただくことが多かったのですが、最近はコンサルティングに近いお仕事も増えてきていて。コンサルティングを含め、サービスの企画から開発まで請け負い、その後のグロースまで一気通貫でできるのは私たちのユニークなところなのかなと思っています。
とはいえ、いつもTHE GUILD内のメンバーだけで仕事をしているかというと、そういうわけでもありません。それぞれがフリーランスとして活動していて、業界内でのネットワークも広いので。THE GUILDに所属しているパートナーに限らず、いろんな制作会社さんや他のフリーランスの方と組んでプロジェクトを進めることも多いです。
―週何時間働くとか、売り上げをどれくらい上げるとか、そうしたノルマみたいなものは?
ノルマはありませんし、THE GUILDに対して等しくコミットを求めるということもありません。フリーランスなので、もちろん出社の義務もありません。
―それで組織としてうまく回りますか? 例えば、THE GUILDに名を連ねてはいるものの、幽霊部員のようになって全くコミットしない人は出てこないんですか?
そうですね・・・個人的には、昨年の1月に今のオフィスに引っ越してきてからうまく回るようになった気がします。私自身もよく顔を出すようになったのは、実はこっちに移ってきてからで。「場所が重要」というのはちょっとした気づきでした。
最初のオフィスは渋谷の狭い雑居ビルにあったんですよ。作業するのに快適じゃないし、置き場所に困るから新たなツールを購入するのも躊躇してしまう。仕切りのある部屋もなかったから、ミーティングするにしても筒抜けの状態で。あまり積極的に人を呼ぶ気にもならなかったんです。
―なるほど。
こちらに引っ越してきてからは勉強会とか、勉強会じゃなくても人を呼んできてちょっと喋ったりとか、そういう交流がすごく増えました。個人的にはそのことがうまく回り出したきっかけなのかなと思っています。
こういうギルド型組織は場所がなくても成立すると言う人も中にはいらっしゃるんですが、私は場所が重要かなと思っていて。先ほども触れましたけど、フリーランスの悩みの一つには、自分の家なりオフィスなりにこもってしまうと、視野がすごく狭くなってしまうことがあるんですよね。やっぱり人と会って話してこそ新たな発見があるし、視野が開けるんだと思うんですよ。
学び続け、それをシェアするGIVERでなければプレゼンスが落ちていく
―「平等にコミットは求めない」ということは、逆に言えば、メンバーの中でひっきりなしに仕事が入る人と、あまり声がかからない人とで格差が生じてしまう問題はないんですか? また、その差はどこから来るのでしょうか?
仕事が集中して極めて忙しい人と、そうではない人の差は確かにありますね。これはTHE GUILDに限らないとは思いますが、継続的に自分の価値を高めていけているかどうかのような気がしますね。というのも、求められるスキルって時代とともに変わっていくと思うんです。ということは、今いる位置にずっと居続けようと思ったら、学び続けていないといけないことになります。そのキャッチアップをしている人はやはりチャンスも多くなるんだろうと。
THE GUILDの中でも忙しい人というのは、常に新しいことを学び続けて、なおかつそれを他のメンバーに教えていたりする人だと思います。そうしているとやっぱり、何かニーズが生まれた時には「ぜひこの人に」ということになりますよね。
―ただ単に向上心を持ち続けるだけでなく、学んだことを周りにシェアする必要がある?
誤解を恐れずに言えば、大企業であれば仕事って必ず与えてもらえるところがあると思うんです。でも、こういうノルマがない組織だと、自分の価値をうまく伝えることができないと組織の中でのプレゼンスが落ちてきて、やっぱり仕事が減ってしまう。
なんというか、GIVE&TAKEの関係なのではないかと。何かしらGIVEしてくれる人の価値が高い。例えば「最近こういうプロジェクトをやっていて、そこからこんなことを学んだので、勉強会を開いてみんなにシェアします」とか。これはTHE GUILDに限らず世の中どこでもそうかもしれませんが、TAKEしかしない人というのは仕事がなくなってしまうのではないかと思います。
―分かります。ただ、大企業だとそれでも一定数は組織に依存するような人が出てくると思うんですよね・・・。そこは雇用に守られている会社員と、フリーランスの違いなんでしょうか。新たなメンバーを入れるかどうかはどうやって決めているんですか?
明示的な基準は特になくてですね。今のところは誰かしらが連れてきた人と一緒にプロジェクトをやってみて、他のメンバーとのコミュニケーションも円滑にできて、うまくいきそうだとなったらオファーを出すケースが多いです。
THE GUILDのパートナーに名を連ねている人と、そうではなくてプロジェクト単位でご一緒する外部の人とで何が違うかというと、実はそこまで変わらないんです。とはいえ、THE GUILDのパートナーになることでいくらか個人のプレゼンスが高まるというメリットはあると思うので、そのぶん何かしらのGIVEをしてくださいとはお願いしています。
先ほど「コミットは求めない」と申し上げたんですけど、それは「ビジネス上のコミット」という意味で。パートナーになったけど全然顔を出さないとか、他の人と全然交流しないというのはやめてくださいということです。
―何かそうした交流を促すような仕組みづくりや工夫をされていたら教えてください。
いかに情報を流通させるか、には重きを置いてますね。
―情報というのは、先ほどおっしゃっていた学びなのか、あるいは「こんな仕事があります」とか?
もちろんそういうこともありますし、他にも業界としてどういう方向に今向かっているのか、とか。メンバーそれぞれ得意な産業があるので、「この業界は今こうなってますよ」といった情報は頻繁に交換していますね。
具体的な取り組みとしては、週に1回の定例の部会を設けています。一つはデザイナーが参加するデザイン部会。もう一つは私と今年入社したデータアナリストが中心となってやっているデータ部会。デザイン部会であれば、今どんなデザインをしていて、どんな悩みがあるのか、そうしたことを2時間くらい話し合いますし、データ部会のほうにはこれからデータを学びたいというメンバーにも参加してもらって、データ分析とはどういうものなのか、テーマを決めて実際にリサーチしてみましょう、といったことをやっています。
―人によってはGIVEしたくてもできるものがないみたいな人はいないんですか? 例えばすごく若い人、あまり経験がない人、とか。
確かに、自分からメンバーを募って「勉強会をしましょう」という人は一部に限られるんですが、データ部会みたいな定期的に開催される集まりで「今こういうことをやっていて、こういう悩みを持ってます」という問題意識を共有すると、それを指摘する人の学びにもなるんです。
だから、GIVEというのは何かを教えることだけを指すのではなくて。いかに情報を流通させるか、学びの機会を作れるかに関わっているのかなと思います。
必要なのは、自分の現在地を自分で知ることができるメタ認知能力
―ところで、今年になって初めて社員を採用したとおっしゃっていましたけど、その狙いはどこにあったんでしょうか。
一人はデザイナーで、もう一人はフロントのエンジニア兼デザイナーなので、役割としてはこれまでのパートナーとそれほど大きく変わらないのですが、フルタイムでTHE GUILDの仕事をやるという契約ですね。
その狙いは二つあって、一つはTHE GUILDとして100%コミットしてもらえるリソースを確保したいということ。もう一つは、フリーランスになってみたいけど、いきなりは躊躇があるという人はやはり一定数いてですね。そういう人が企業を離れていわゆるフリーランスになる途中の段階を設けてもいいんじゃないかということで、今年から取り組んでみました。
実際、みんながみんなフリーランスになれるかというと、やっぱり適性があると思っていて。大企業で力を発揮する人と、フリーランスとして動いて力を発揮する人では適性が違うところもあると思うんです。
―はい。
だから、最近複業が “解禁” になって、大企業にも定時後にスタートアップのお手伝いをする方のお話を伺ったりもするのですが、それはすごくいいことだなと思っていて。というのも、適性って実際にやってみるまでは分からないからですね。
―そうですね。大企業でしか働いた経験がないから大企業で働き続けているけれど、実はフリーランスだったらもっと活躍できる可能性があるかもしれない。
そう。仕事ができる・できないというのは、条件にすごく依存していると思っていて。大企業で仕事ができないという人でも、単にその環境に合ってないだけであって、他の条件になればすごく力を発揮するケースってあると思うんです。もちろんその逆も。今THE GUILDですごい力を発揮しているけれど、大企業に行ったら全然ダメだった、とか。なので、会社にいるうちにいろんな機会に触れて、どの環境が自分に一番マッチしているのかを試すのはいいことだなと思います。
―そういうことがしやすい世の中になっていくといいですよね。
そう思います。だって、企業のステージによっても必要な人材って違いますよね。創業期に活躍した人間が拡大期に同じ価値を発揮するかというと必ずしもそうじゃなくて、別の人の力が必要な場合もある。そういう人はまた別の企業へ移ったほうが、また同じ価値を発揮できる可能性があって。だから人材っていうのは、どうしても流動的にならないといけない。
その際に、「解雇」となると、する側にもされる側にもすごく感情が伴うじゃないですか。「捨てられる」とか、「クビを斬らなきゃ」とか。難しいですが、そこにあまり感情が伴わないような流動性ができると、いろんな人の幸福が最大化できるのではないかと思っています。
―この先、全ての組織がギルド型になるかどうかは分かりませんが、複業・副業が当たり前の時代になった時、ビジネスパーソンが個人として備えておくべき重要なことってなんだと思いますか?
そうですね・・・改めて自分のキャリアを振り返ってみると、急に視野が開けたのは、やっぱり会社外との接点を持つようになった時だったと思います。大企業にいた時はあまり社外のコミュニティと接する機会はなくて、企業内にこもってしまっていたので。だから、フリーになって社会に出た時のギャップはすごく大きかったです。
今はデザインにせよプログラミングにせよ、小さいコミュニティがたくさんあるので、大企業に居つつもそういうところに積極的に参加して所属するコミュニティを会社以外にもいくつも持つことで、いろんな気づきがあると思います。
―最初にフリーになった時には戸惑いもありました?
どちらかというと、SIerを辞めてベンチャーを立ち上げた時のほうがギャップは大きかったですね。というのも、自分を評価してくれる人が急にいなくなってしまったので。自分がやることを自分で評価しなくてはいけない立場に変わったことはすごく大きかったです。どうやったら自分の価値を相対的に評価できるのかということは常に考えていましたね。
―確かにそうですね。誰かが評価と給料を決めてくれることとのギャップ・・・。
そう考えるとやはり、自分で何かを作って、発信して、それに対して人からフィードバックをもらうことは大切な気がします。それは以前よりずっとやりやすくなっているはずですし。例えば絵を描いてツイッターにアップするだけでも、いろんな人に何か言ってもらえると思うんですよ。そういうことを積み重ねていくと、だいたい自分はどこらへんの位置にいるのかというのが相対的に分かってくるんじゃないでしょうか。
―発信することはもともとお好きだったんですか?
そうでもないですね。ベンチャーを始めたころに趣味のブログを書き始めて。それでいっときのめり込んだことがあったんです。「ああ、こういう構成の記事を書くと響くんだ」とか、「こういう写真だとこういう反応があるのか」とか、試行錯誤してPVを増やすみたいなことをやっていました。アプリ開発というのは、その延長のような気もします。
―どこに問題があったのかとか、そういうことを考えて次の改善につなげられるのが大事ってことですよね。
そうですね。フリーランスは特にそうですけど、そのメタ認知の能力が低いと致命傷になってしまうので。それは自分で意識して身につけていかないといけない能力なんじゃないかなと思いますね。
[取材・文] 鈴木陸夫 [撮影] 伊藤圭
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