トップを支える「No.2の心得」 若き区長を支える渋谷区の参謀、澤田副区長に聞く

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直江兼続、黒田官兵衛など、近年の大河ドラマでは歴史に名を残す軍師・参謀が主役としてよく取り上げられます。成功する組織にはトップを影から支える優れた「No.2」がいるというのは、洋の東西を問わぬ通説のようです。同じことはビジネスの世界でも言えるように思えますが、こうした参謀役にはどのような心構えが求められるのでしょうか。
渋谷区の澤田伸副区長は、長谷部健区長と同じ博報堂の出身で、東京二十三区として初めて民間から副区長に登用された人物。しかしメディアに登場する機会の多い長谷部区長と比べると、No.2である澤田さんの言葉を耳にする機会は当然ながらそれほど多くありません。
澤田さんは普段、どんなことを考えて長谷部区長を支えているのでしょうか。トップを支える「No.2の心得」を聞きました。
PROFILE

- 澤田伸
渋谷区副区長 - 1959年大阪市生まれ。1984年立教大学経済学部卒業後、飲料メーカーのマーケティング部門を経て、1992年より広告会社博報堂にて流通、情報通信、テーマパーク、キャラクターライセンス、金融クライアントなどを担当し、マーケティング・コミュニケーション全域のアカウントプランニング業務に数多く携わる。その後、2008年外資系アセットマネジメント企業において事業再生部門のマーケティングディレクター、2012年共通ポイントサービス企業のマーケティングサービス事業部門の執行責任者を経て、2015年10月より渋谷区副区長に就任。
新人の長谷部区長とは、前職時代の上司・部下
―長谷部区長と澤田さんはともに博報堂のご出身ですが、当時から接点があったのでしょうか?
長谷部とは博報堂時代の上司・部下の間柄です。彼が新人として会社に入った時、たまたま配属されたのが私の営業チームだったんです。今思うと、本当に不思議な縁でした。
一緒にいた期間としては3年間くらいですが、その後も一緒に野球を見に行ったり、ゴルフに行ったりと親交は続きました。博報堂を辞める時も、区議会議員になる時も、彼の方から連絡をくれました。
こういう間柄なので、今でも2人でいる時は「長谷部」と呼んでいます。私の方が先輩なので(笑) 第三者がいる時にはもちろん「区長」と呼んでいます。

―強い信頼関係が伺えますね。副区長になられた経緯についても教えてください。
2015年4月の区長選当選後、彼から「副区長になってくれないか」と相談がありました。ただ、一度はそのオファーを断ったんですよ。というのも、当時の私は民間企業の役員をしていて、組織を率い部下も予算もある立場。それを途中で放り出すわけにはいかなかったのです。
しかしその翌月に突然、妻が他界し人生について改めて考えるようになりました。それまでは家族というものを人生のベースに置いていたけれど、娘もすでに大人になっていたし、これからはもっと広義の意味で社会のために人生の時間を使うべきではないか、と。そう思って、半年遅れですが引き受けさせてもらうことにしたんです。

区長のアイデアに口は挟まない。どう実現するかに注力する
―副区長のお仕事はどういったものですか?
副区長というのは事務方のトップです。国政に例えるなら、各省庁の大臣の下にいる事務次官のような役割ですね。トップがいくらビジョンや政策を掲げたところで、行政組織をまとめ、一体感を醸成していかなければ、それを実現することはできません。
ビジョンを掲げるのが区長だとすると、副区長というのは行政組織をまとめて、それを実現する役割と言えます。今の渋谷区では私以外にもう一人、行政出身(渋谷区)の副区長がいて、2名体制で区長を支えています。
―No.2として区長である長谷部さんをサポートする上で、気をつけたり工夫したりしていることはありますか?
まずは未来のあるべき姿を常に共有しておくことが大切なので、よく対話するようにしています。ただ一方で、その際に彼のアイデアや創造性には極力、口を挟まないようにしています。

―それはなぜですか?
彼と私とでは、役割も違うし、資質も違うと思っているからです。経営者としての彼の能力は、その経験値という観点においてはまだまだこれからのところがあるのも事実です。ただ、彼の渋谷に対する思いは誰よりも強い。
彼はこの街で生まれ育ち、この街の人の役に立ちたいと思って、NPOを立ち上げてゴミ拾いを始めたり、さらには区議会議員に立候補したりしてきました。そういう彼だからこそ見える景色というものがあるようで、彼と話していると、次々に「今はまだないもの」のアイデアが湧き出てきます。私は彼のことをソーシャルイノベーションを起こしうる数少ない人材ではないかと思っているんです。
一方の私は、今の仕事に就いて初めて渋谷に住むようになった「よそ者」です。この点については区長には敵いようがない。ただ、私には彼にはない、大きな組織を率い、人を育成し、その成長を組織力に変えてきた経験が少なからずありますから、それを生かして、組織を動かすことに注力するということです。

仕事を楽しむ・楽しませることが、ビジョン実現へのエネルギーを生む
―澤田さんは民間から登用された二十三区初の副区長になるわけですが、民間と行政とで、No.2に求められるあり方に違いはありますか?
「民間と行政の違い」というのはよく聞かれるテーマですが、仕事というのは、民間でも行政でもNPOでも、なんらかの課題を解決するところに本質があるという点では変わりないと思っています。
ただし、民間と行政とでは、仕事を進める上でのルールが違います。今日決めたアイデアをスピード感を持って明日にも実行できる民間は、QB(クォーターバック)がいきなり前線にボールを投げられるアメフトに似ています。一方で、議会制民主主義という不変のプロセスがある行政は、何を実行するのにも時間をかけてじっくりと進める。例えるなら、後ろにしかパスができないラグビーといったところでしょうか。
―そうした「ルールの違い」に困惑することはなかったですか?
それはなかったですね。行政に来たからには、じっくりと対話しながら仕事を進めるという行政のやり方を楽しもうという姿勢でいますから。
私はこの「楽しんでやる」というのが、どんな仕事においてもとても大切なことだと考えているんです。それが大きなエネルギーを生み、ひいてはトップのビジョンを実現することにもつながるからです。

人はやりたいことをやっている時には、時間のことなど考えません。最近はよく「ワークライフバランス」ということが言われますが、私に言わせれば、ワークとライフのバランスが気になるのは、本人のやりたいこととやっている仕事が重なっておらず、夢中になりきれていないからでしょう。大事なのは本人のWillです。
ところが、行政職員は、「仕事は楽しむものである」ということを、これまで教わってきていないように感じます。だから部署と部署の間にある仕事を譲り合ってしまったりする。それではいくらすばらしいビジョンを掲げたところで、それを実現するようなエネルギーはなかなか生まれません。
職員一人ひとりのWillを覚醒させ、全員が本当にやりたい仕事に就けるようにインフラを整えるのも、No.2たる私の役割だと考えています。

トップがいて、参謀がいて…は本当に理想的な組織?
―職員一人ひとりがいかに主体性を持って仕事に取り組めるかが、トップのビジョンを実現する上でとても大切になってくる。そのためのインフラを整えたり、最適な配置をしたりというのも、No.2に求められる役割ということですね。
そうです。もちろん決裁などのガバナンスに資する手続き等は、ヒエラルキーが当然ながら必要ですが、それ以外はフラットだよ、と職員にもよく言っているんです。1年目でも2年目でも、課題解決に向かうための議論は対等な立場で話すべきなんだよ、と。
長く同じ組織文化の中で働いていたことで生まれる価値観は良い部分もありますが、その価値観が変化を拒むエネルギーを生みがちになります。ですから同じ価値観の人間で構成されている会議って、面白くないんですよね。むしろ若者のアイデアが聞きたいんですよ。よく言うじゃないですか。「大きな変革は、よそ者、若者、馬鹿者から起こる」って。

だから、今回の取材テーマは「トップがいて、それを支えるNo.2がいて」という組織の形が前提になってますけども、本来は「逆ピラミッド」が理想ですよ。まずお客さまがいて、その人と接するフロント業務の人がいて、それを支える管理職やバックオフィスがいて…と続いて、最後に副区長、区長がいるというような。
昨年、われわれは「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」という基本構想を打ち出し、「YOU MAKE SHIBUYA」というキャンペーンを展開しています。それは、渋谷というブランドを創っているのは、この街に暮らしたり、働いていたり、学びに来ていたり、遊びにくる人、一人ひとりなんだよというメッセージです。当然のことながら、これは職員についても言えることです。
自分ごととして腹落ちしてなければ、ビジョンや政策なんて実現できないんですよ。

[取材・文] 鈴木陸夫
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