10分で分かる、いま話題の未来組織「ティール組織」

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ビジネス書の中でも、とりわけ王道なのが「マネジメント」のカテゴリー。どのように組織を運営し、上司は部下にどのように接し、会社ではどのように目標を設定するか。そして、どうすればより高い成果・業績が挙がるかについて、解説された書籍はゴマンとあります。

その内容はさまざまな切り口、さまざまな理論とともに紹介されており、どれももう出尽くしたのではないかと思われても、毎年毎年、新しい「マネジメント本」が発行されます。大ヒットは出なくとも、コンスタントに売れ続ける分野というわけです。

ところが最近、このマネジメントの分野でダントツの売上1位を記録し、一般書籍を含むランキングでも上位を席巻している本があります。『ティール組織』です。

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

2018年1月に日本語版が発行されたこの書籍。原著である『Reinventing Organizations』が出版されてから4年が経過していますが、なぜか日本での反響が極めて大きいと言われます。特に普段「マネジメント」の領域に取り組んでいるビジネスパーソンからは、圧倒的なインパクトとともに受け入れられているのです。

ーーその理由は、どこにあるのかーー。

正解は、これまでの「マネジメント」「組織運営」「上司と部下の関係」において、多くの人が当たり前だと思っていた方法、成果が実際に上がっている方法が、実は大いなる副作用をはらんでいる、という点を鋭く指摘している点にあります。

そして、こうした副作用を持つ従来の「マネジメント」の方法論を一蹴する、およそ真逆といっても過言でない、新たなマネジメントの形態として「ティール組織」というものをぶち上げている点に、多くのビジネスパーソンが衝撃を受けているのです。

本記事では、書籍『ティール組織』が指摘するこれまでのマネジメントの常識が持つ副作用と、それを打破する「ティール組織」のアプローチを、10分程度で読める内容に整理し、お伝えします。

願わくば、この記事をきっかけに多くのビジネスパーソンが『ティール組織』を穴が空くほど読み込み、それをヒントとして、今の自分の働き方、自分の会社のあり方などに新たな視点を持ち込まれることを期待します。

「達成型組織」と「ティール組織」との対比

本書では、現代の多くの民間企業が採用しているマネジメント・組織のあり方を「達成型組織」として定義しています。まずはこの「達成型組織」が高い業績や成果を生み出している理由と、そして今回のテーマである副作用について、本書の解説に沿って紹介します。

1:生存本能に訴えかけて人を動かすと【恐れ】で疲弊する

「達成型組織」の最初の特徴は、「もしも自分たちが頑張らないと、会社が滅んでしまう」というプレッシャーの掛け方です。

実際、多くの著名な経営者は、「今の業績がどんなに良くても、油断していたらあっという間にお客さまにそっぽを向かれる、競合にやられる、変化についていけなくなる。いつでも、自分たちは倒産してしまってもおかしくない」

というプレッシャーを使って社員を刺激します。多くの方も、「それはそのとおりだ」と頷く内容でしょう。

ところが、本書ではこのプレッシャーを、「恐れによるマネジメント」としてその副作用について指摘しています。

進化を「適者生存」ととらえれば、「相互進化」という側面が見えにくくなってしまう。世界は我々を滅ぼそうとしているわけでない(P.328:マーガレット・ウィートリー&マイロン・ケルナー=ロジャースからの引用文)

「世界は我々を滅ぼそうとしている」という話は、ビジネスの世界では「こちらが油断していると、ひしめく競合、あるいは新たな敵に自分たちが惨めに破れてしまう」という話につながっています。

日々、そうした「油断したら死んでしまう」という【恐れ】によって仕事をし、さらに自社以外の人たち、近い領域で仕事をしている社外の人びとが「敵」として分断されるという点が、このアプローチの副作用となります。

こうして下図のように日々仕事をしている社員たちは、同じテーブルの隅に座っている「恐れ」によって突き動かされ、生き残ること、生存すること、すなわち売上や利益の確保といったところに追い立てられることとなるのです。

社員は恐れによって生き残り競争に追い立てられる

2:役割や肩書、上下関係を作ると管理コストの増大と【恐れ】で疲弊する

「達成型組織」の2つ目の特徴は、組織図に基づいた「誰はどんな役割をするのか?」という肩書と、「上位の職種ほど多くの人・モノ・金について決定をする」という階級制度です。

これによって、社員はおおむね自分がどういったことをすべきなのかを把握できるし、課長・部長・役員・・・ といった上位者ほど、より全体を俯瞰して、人・モノ・金などを効果的に分配できるようになります。さて、これには一体どんな副作用があるのでしょうか?

本書はここに颯爽と、2つの副作用を指摘します。2つも、です。

まず1つ目の副作用は、誰は何をするべき、というふうに多くの人を説得・納得をさせる必要が出てきてしまうという、管理するための疲弊が生まれる点。

部下に新しい仕事・役割を担ってもらうにあたり、上司はそれを納得させたり、説得しなければなりません。部下からするとそれを甘んじて受け入れるのか、やっぱり自分にはフィットしていないのか、と頭を悩ませることになります。

固定された役割管理は上司・部下ともに疲弊する

2つ目の副作用は、「上位の人のほうが偉くて、下位のほうが力が劣っている」という暗黙裡の前提が生まれ、そこから「下位の者は上位の者が見張らないと、良くないことをしてしまうかもしれない」「人は、より上位になりたい。お金を稼ぐということにやはり執着する」といった捉え方につながってしまうという点。

これが起き始めると、下位のものは上位に対して、自分をよりよく見せたいというエゴが生まれてしまい、組織で個人としての生存競争に立たされ、【恐れ】によって疲弊してしまうのです。

ピラミッド構造の組織では下位は上位を恐れ、自分をよく見せようとする

3:実力主義・能力主義を推奨すると社員が本来の自分を見失い疲弊する

「達成型組織」の最後の特徴は、「仕事で成果を挙げるための能力をお互いに磨くことを目指し、個人を評価し、昇進などを行う」という点です。これによって社員は、その組織の中で、より高い業績を挙げられるように年々成長を続け、それによって組織全体の能力も大きく向上します。

こんなごくまっとうと思われる要素のどこに、副作用が潜んでいるのでしょうか。にわかには、納得できないものです。

本書が指摘する副作用は、「自分の全人格のうち、仕事で必要とされている部分だけを会社では発揮し、それ以外の自分には蓋をして、活動させない」ことにより、本人のパワーが出ないという点です。

会社での姿と本来の姿が会社で分断された人

本書ではこの部分を、

自分の一部を家に残してくるということは、そのたびに自分の可能性や創造性、情熱の一部を切り離してくることを意味する。多くの職場に生気がないと感じられるのもそのためだろう(P.239より抜粋)

と指摘します。さらには、会社の業績向上を目的として、会社での顔を磨き続けていくと、いずれは「本当のありのままの自分とは似てもにつかない、会社で求められた自分のことを、いつしか本当の自分と勘違いして帰宅する」ことにすらなってしまう。これでは元気は出ないし、精神的に疲弊していってしまう、というのが本書の指摘です。

以上、こうして「達成型組織」の屋台骨を支えている仕組みを見ていくと、ことごとく実は社員を疲弊させてしまう要素に溢れているということに気づかされます。

では、これらを踏まえて「ティール組織」では、どのようなことを目指すのでしょうか? その点について、見ていきます。

「ティール組織」の持つ3つの突破口

1:存在目的に耳を傾ける

「達成型組織」では、自社が生き残ることを目的として据え、社員を突き動かすという構造をとっていました。これに対して「ティール組織」では、自社がどんな役割を果たすために存在しているのか?という点、つまり、「存在目的」を重視し、常に社員を「その存在目的に対して貢献できますか?」というアプローチで奮い立たせます。

「達成型組織」とどう違うのか?「達成型組織」でも存在目的・ミッションという言葉はよく使うのではないか? という疑問はごもっともです。しかし、実態は、

(達成型組織では)経営陣が白熱した議論の最中に一呼吸置き、会社のミッション・ステートメントの方を見て、”当社の存在目的は、何を私たちに求めているだろうか?” と指針を求める姿など、少なくとも私は見たことがない」(P.326 より引用)

と、著者が指摘する通りでしょう。

本書で「ティール組織」のモデルとして紹介されている事例では、社員が議論する際に、空いた椅子を1つ用意しておき、その席を「組織の存在目的」という形で擬人化。

「このMTGで決定されたことは、あなた(=組織)にとっても有益か? ミーティング終了後のあなたの気分はどうか?」といった問いかけを意識して行い続けることで、「組織の存在目的」への意識を高めています。

そして、この「組織の存在目的」と、社員個々人が持つ「自分が(会社にかぎらず)何を使命とすべきか」とが重なり合ったときに、

ティール組織は途方もないエネルギーを放つことになる(P.330)

と著者は指摘します。

2:自主経営=気づいちゃった人が「助言」をベースに社内の資源を集め、推進する

「達成型組織」では、自分の役割や肩書、上長による決裁で「資源分配」や「施策への取り組みの意思決定」が行われます。しかし、「ティール組織」ではこれを下図のような「助言」をベースとしたプロセスで行っていきます。

助言をベースとした「自主経営の事業拡大プロセス」
  1. まず、組織の存在目的と、個人としての使命を考えている社員が、あるとき、あるタイミングで刺激し合い、「これだ!」と深く踏み込めるような最初の切り口・アイデア・解消すべき課題に突き当たる
  2. それが正しいかどうかは解らないので、無理にジャッジせず、実験的に取り組んでみて、その結果を、同僚らに順次共有(シェア)していき、助言を求める
  3. 助言・フィードバックを経て、そのアイデアに多くの人が集ってきたら、営みそのものが拡大していく。このとき、全体として大して重要でない件は、完全消滅することもあれば、ごく一部の人が継続的に関わる「停滞」に入る
  4. こうして、多くの賛同者を集めることができたアイデアについては、その状況に基づいてより多くの会社の資源を使うことが許可され、しかるべきお金が集まるようになる

このプロセスでは、社員同士は現在の自分の役割や、上司から与えられたものに従属的に取り組むのではありません。そうではなく、多くの人材と交流しつつ、より最適なテーマに、より最適な責任者が見つかり、より多くの関係すべき社員とのつながりやコラボレーションが生まれることとなります。

そこには、先ほどの「達成型組織」で発生していたような、管理上の疲弊や、上長から受ける暗黙裡の【恐れ】による疲弊は起きるべくもありません。

3:全体性=思い切って自分自身のすべてを職場に持ち込む

「達成型組織」は、あくまで会社の業績に直接貢献する部分しか、社員のことを見ません。それに対して「ティール組織」では、職場の心理的安全性を高め、他の人に対してありのままの自分を見せても、傷つかず受け止められるような環境作りに注力します。

同時に、「すべてをさらけ出して仕事をすると、個人の圧倒的なパワーが引き出される」「お互いにありのままの自分を発揮するために、ミーティングの運営時にはこういう点を気をつけている」といった知識付与を、会社への入社オリエンテーションなどで丁寧に行うことで、「ありのままの自分をすべてさらけだす」という流れを推進します。

こうすることで、社員はさまざまな日々の出来事、やりとりに対して、自分の全人格をもって取り組むようになるため、その都度、本当の自分に対する理解が深まっていきます。もはや、「達成型組織」での実力主義によって起きたような、「本当の自分と、職場での自分の分離」とは無縁になるのです。

本当に「ティール組織」なんて運用できるのか?

さて、ここまでの内容を押さえると、多くの人が慣れ親しんでいるであろう「達成型組織」のおよそほとんどの常識が、「実はそれ、NGです」と否定され、これまでの自分の仕事人生そのものをすら否定されている感覚にもなるのではないでしょうか?

と同時に、「そもそも、そんなふうにやって組織なんて本当に運用できるの?」という疑問が頭をもたげるのではないかと思います。

実のところ、ここに紹介した「ティール組織」としての要素をすべて兼ね備え、完璧に理想的な運営をしている組織というのは、本書の中でも紹介されていません。

「ティール組織」として紹介されている組織は、「1:存在目的」「2:自主経営」「3:全体性」のうちの一つ、または複数を多少なり、あるいはかなり徹底的にトライして、実現しつつあるところばかりです。

一方で、既存の民間企業の大半も、完全なる「達成型組織」というわけではなく、上記の1〜3の要素の片鱗を持っていたりします。例えば、私が昔在籍したP&Gという会社では、「存在目的」が極めて強力に社内に浸透しており、多くの判断基準の軸として活用されていました。

かくして私たちの多くは、「ティール組織」と「達成型組織」の間にプロットされるいずれかの企業で働いている可能性が高いです。そんなとき、「自分がどうも仕事をしていても、疲弊している感じがある」「仕事の進め方、会社の運営で、何か変化させるべき点があるんじゃないか?」と思ったら、この『ティール組織』という書籍は、その原因をつまびらかに究明するための最高の教科書になるでしょう。

そして同時に、自分たちがそれをどう変化させるべきなのか、そのヒントとなる「理想的ティール組織」の要素を教えてくれると思います。

本書でも紹介されているアインシュタインの言葉に、「どんな問題も、それを作り出したときの意識レベルのままでは解決できない」というものがあります。

ぜひ、この『ティール組織』という書籍を手に取り、熟読することで、その意識レベルを一段上げてみてはいかがでしょうか?

PROFILE
インクルージョン・ジャパン株式会社 取締役 吉沢康弘
吉沢康弘
インクルージョン・ジャパン株式会社 取締役

P&G、組織開発コンサルティングHumanValue社、および同社でのWebベンチャー創業プロジェクトを経て、ネットライフ企画(ライフネット生命保険の前身)に参画。ライフネット生命保険にてマーケティング・事業開発を担当後、ベンチャーの創業・成長を支援するインクルージョン・ジャパン株式会社を創業し、現在に至る。

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