「自分を変えるために新しい挑戦や逆境は必要ない」マインドフルネス第一人者が断言する理由

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「自分を変えたい」と、頭では分かっていても行動が伴わず、焦りが募ることは誰にでもあるでしょう。

「そんなとき、必要なのは新しい挑戦でもこれから立ち向かうべき苦しい逆境でもありません。必要なのは『自己認識力』を高めること」。そう語るのは、マインドフル・リーダーシップ開発の第一人者である荻野淳也さん。

そもそも人が変わるとはどういうことか、変わるのに必要な自己認識力とは何か、自己認識力を高めるにはどうすればよいかーー荻野さんにお話を伺いました。

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事、株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役 荻野淳也

PROFILE

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事、株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役 荻野淳也
荻野淳也
一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事、株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役
マインドフルリーダーシップの概念をいち早く日本に紹介し、グーグルも採用するリーダーシップ開発プログラム「Search Inside Yourself」を日本初開催する。マインドフルネス、脳科学、ストーリーテリングなどの概念、手法を取り入れ、組織・リーダーの成長、変容を支援し、企業全体の変革を図っている。『サーチ・インサイド・ユアセルフ』(英治出版)の監訳も務めた

「自分を変えられる力」はこれからの必須スキル

ー「変わりたい」と、頭では分かっていても行動が伴わず、焦りが募ることがあります。

人がポジティブな方向に「変わる」のには、2種類あります。「成長」と「変容」です。

  • 「成長」は、「こんなふうになりたい」と目標を設定し、予定調和的に変わっていくこと。
  • 「変容」は、根本的な自分自身が変わること。芋虫がサナギになって蝶になるように、バージョン1.0から2.0へ、2.0から3.0へと大きな変化を遂げることです。

前者の「成長」は子どもから学生時代まで、そして現在は仕事でも求められるため多くの人がイメージをしやすいでしょう。しかし、後者の「変容」は、

  • 順調に続けてきた大企業での仕事に見切りをつけ、リスクを取って転職や起業をする
  • 都会での年収や社会的地位といった成功を捨て、自分や家族のためにIターン就職する

というケースのときに起こっている人生における大きな価値観の変化であり、自分自身の内側のあり方が一変するような、本質的な内面の変化です。大きな変化であるからこそ、一歩踏み出すことに難しさを感じる人は多いかもしれません。一人、例をあげましょう。

とある銀行で働く40代の男性から、相談を受けたことがあります。「もうそろそろ他の会社に出向させられてしまう。これからの人生をどう生きていけばいいのか」、と。

たしか支店長か部長レベルの偉い方だったんですが、今まで上司からの印象や人事査定のような『他人からの評価』を大事にしてやってきて、だけど出向させされてしまえば、それがもう頭打ち。

他人からの評価に代わる「新しい何か」を生きがいに感じられる自分に変わらなければいけないけれど、それが見つからず苦しい・・・という状況でした。

ーまさに、大きな「変容」が求められている状況ですね。

しかし、人間はそもそも、自分を変えることに対して「本能的に」恐怖を感じる生き物なんです。

「変わればいいじゃん」と切り捨てたくなる人もいるかもしれませんが、おそらくそういう人はすでに過去に一度でも、その恐怖を克服したことがある人なんでしょう。

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事、株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役 荻野淳也

ただ・・・ 厳しいことにこれからの時代は変化が激しく、答えのない問いが降りかかってくる「VUCA時代」。恐れていても、どんどん環境は変わっていってしまう。

その変化に合わせていかないと、気づけば自分が「時代遅れ」な存在になり、多様な価値観についていけず幸せではなくなってしまう。だとすれば、受け身でせざる得ない変容ではなく、「主体的」「積極的」に変容することはこれからの必須スキルになると思うんです。

自分を変えられる力の核となるもの「自己認識力」

―どうすれば自分の「変容」を促せるでしょうか。

必要なのは、「自己認識力」を高めることです。なぜなら、そうすることで、

  • 自分の「内発的動機の源泉」に気づき、
  • 「本来の自分でないもの」を手放せるようになるからです。

内発的動機の源泉とはポジティブな感情の源泉でもあり、自分の軸、つまり、人生における価値観やビジョン、ミッションのこと。一方、本来の自分でないものとはネガティブな感情の源泉でもあり、メンタルブロックやインナーチャイルドと言われるもの。例えば、私の場合・・・

昔から「母親の期待に応えて生きる」というパターンがありました。幼少のころは「いい子」と言われるような振る舞いをし、中学校ではいい成績を取り、いい高校に行き、優秀と言われる大学に入学、有名な会社に入ってコンサルになって、未上場の会社で上場プロジェクトを担当し、業界を牽引するスタートアップ企業の役員に就任して、と。

世間的に言えば「いいキャリアですね」と言われるかもしれないけれど、要は「評価軸が他者」なわけですよね。初めは母親、で学校、先生、先輩、社会・・・と。

だけど、それをずっとやっていった結果、私はある日ふと気づいたんですね。「自分はずっとこういうパターンでやってきたんだ。だけど、それは本来の自分ではないものだ」、と。それはとてつもない衝撃の事実でした(笑)

―何があって、本来の自分でないものに気づき、手放せたんでしょうか。

「リストラ」です。あるベンチャー企業で役員をしていたときに、リストラせざるを得なくなった。

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事、株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役 荻野淳也

それで社内の雰囲気が悪くなり、カルチャーが壊れかけたとき、ある役員会議で「原因はあなたにある。あなたはこの会社をどうしたいのか」と糾弾されたんです。

その会社に参画したときは、その会社の社員、お客さま、パートナーみんなが幸せになる会社を創っていきたいというビジョンがあったはずなのに、そのときには「この会社をどうしたいのか」という問いに答えられなかった。そのこと自体がショックで、「自分自身がなくなっていたこと」に気づいたんですね。

失意のまま帰る道すがら、「今までの人生、ずっと他人軸で来たこと」に気がついた。役割と責任だけで仕事をしてきた。収入とか役職を伸ばしていけば幸せになれるだろうと思っていたら、そうではないという事実に気づき、それが転機となりました。

―自己認識力が高い人というのはどれほどいるものなのでしょうか。

これまで何千人もの研修をしてきましたが、多くの日本人は「何となく」の感覚にしたがって人生の選択をしています。感覚的には・・・

  • 自分の価値観が明確にあり、日常の中で意識できている人が1割
  • なんとなく無意識のうちに価値観に沿って行動してきた人が2~3割
  • 残りが他者の承認に無自覚のうちに応じて行動してきた人たち

です。

今の30代後半から50代の人たちには、以前の私のように「価値観クライシス」に陥っている人が多いように感じます。会社に入って出世していけば幸せになれると思っていたけれど、実はそうじゃなかった・・・という方が圧倒的に多いんじゃないでしょうか。

自己認識力を高める「ライフグラフ&ジャーナリング」

ーどうすれば、自己認識力を高めていけるでしょうか。

2つ、具体的なワークを紹介したいと思います。1つは、ライフグラフやライフチャートを使って、今までの人生を振り返ってみることです。

ライフグラフ

生まれたときから今までを振り返ってみて、どういうアップダウンがあったかとか、人生でよかったとき、そうじゃなかったときを振り返ってみて、その山谷を作ってみてください、と。

端的に言うと、多くの場合、以下のようなパターンが見えてきます。

  • 山のときは、自分の価値観に沿った生き方をしているとき
  • 谷のときは、自分の価値観と離れた生き方をしているとき

その振り返りをするときに大切なのが、「事実」だけではなく、そのときに味わった「感情」も振り返るということです。

ライフグラフ

「振り返り」と聞くと、とかく左脳だけで論理的に考えてしまい、他人から見たら「この時期はよかったな、悪かった」と振り返りがちですが、大事なのは「自分の奥深くに存在する内側の感情」。

自分が本当にワクワクしていたか、軽やかな足取りで会社に向かえていたか。一方で、「もう仕事行きたくないな」とか「もうやだな」とか、内側から湧いてくる感情が大事だったりします。

ジャーナリング

もう一つのワークが「ジャーナリング」です。これは、例えば「本当に自分にとって価値のあることは?」というテーマについて、5〜10分、時間を決めてずっと書き続け、そのあと見直してみる。

他のテーマとしては、1日の振り返りとして、「今日ワクワクしたこと、良かったこと」を書き出してみる。そうすると、自分が何にワクワクするのか、しないのかが見えてくるんです。

もしそれで、自分が今、自分の価値観と離れた生き方をしていることに気づいたなら、それまでのパターンや行動は、徐々に手放していく。

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事、株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役 荻野淳也

でも、「結婚しているし、子どもも2人いるし、住宅ローンも組んでいるし、会社でも今そこそこいいポジションで・・・」だとすると、「今さらこれを手放すの?」などと転職や起業、結婚や離婚といった人生の転機に踏み出すときにやっぱり「恐怖」が出てくるわけですよね。

手放すという行為は恐怖や不安を伴い、それを乗り越えていくということ。視野を広げてそうした経験をした先輩や友人に話を聞いてみるというのも、助けになるかもしれません。

本質的には、そうした恐怖や不安といった自分のダークサイドに向き合い、その原因となっている自分自身の過度な思い込みや執着を探求することが必要になってくるでしょう。だからこそ、マインドフルネス(今ここに意識を向けることで、思考、感情がクリアになっている状態)が必要なのです。

ーありがとうございます。さっそくやってみたいと思います。

だけど、あまり気負ってはやらないようにしてください。こうしたワークは「自分の準備が整ったとき」「心からやりたいとき」にやるのがいいんです。

ずっと人材開発に携わり思うのは、人は心の底から「変わりたい」「変わらなきゃいけない」と思わないと変わりません。

いくら上司とか先輩社員が「お前はこうしたほうがいいのではないか。これが必要ではないか」と言ってアドバイスをしたり、環境を整えてあげても、他者が本質的に変えることは基本的にはできない。その人の内側からの欲求じゃないと変わらないんです。

だけどこの記事を読んで、「自分のことだ」と思う人は結構いらっしゃると思っていて。その人はたぶんピンと来て、やっていただけるのではないかな、と思います。

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事、株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役 荻野淳也

[参考図書] 『「手で書くこと」が知性を引き出す 心を整え、思考を解き放つ新習慣「ジャーナリング」入門』『サーチ・インサイド・ユアセルフ――仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法

[取材・文] 大矢幸世、山本直子、岡徳之

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