睡眠は技術だ。明日のパフォーマンスを劇的に高める「4つの習慣」
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生きていくために欠かすことのできない「睡眠」。生活の質だけではなく、働き方、ひいては企業の業績にも大きな影響を与えることが、昨今意識されるようになっています。
個人の問題ととらえがちな睡眠を、あえて組織の視点から考え、膨大なデータをもとに睡眠改善ソリューションを提供する企業が「ニューロスペース」。
代表取締役の小林さんに「睡眠と組織マネジメントの関係性」「質の良い睡眠の取り方」などを伺いしました。
PROFILE
- 小林孝徳
株式会社ニューロスペース代表取締役 - 1987年生まれ、新潟大学理学部素粒⼦物理学卒。自⾝の睡眠障害の経験をきっかけに2013年にニューロスペースを設立。大学および都内医療機関と連携して、最先端の睡眠科学技術と睡眠ビッグデータに基づいて法人向け睡眠改善プログラム「Sommnie」を開発。多くの企業で採用され、従業員の睡眠改善に寄与している
睡眠の質低下は「人を責めるコミュニケーション」を増長させる
ー近年、ビジネスパーソンの「睡眠」に注目が集まっている理由は何だと思われますか。
従業員の健康を「経営資源」ととらえ、健康経営や働き方改革などを経営方針に取り入れている企業が増えているからだと思います。時代の流れですね。
企業は社会的責任(CSR)を果たしながらも、効率の良い働き方、生産性を上げて売上を伸ばす方策を考え、さらにコスト削減、リスク軽減に努めなければなりません。
そのような中、人手とタスクのバランスが悪く、今いる人材で仕事をまわさなくてはならず、忙しすぎて睡眠不足になるという悪循環に陥っている企業も少なくないと思います。
実際、睡眠に問題を抱える従業員が減るどころか、むしろ増えています。睡眠に悩む人口は国内で「3,000万人以上」、睡眠障害による経済損失は「年間15兆円」に上ると2016年に算出されました。この額は「GDPの約3%」に相当します。
ー睡眠の問題が、個人だけでなく組織の課題として捉えられ始めているということですね。
はい。不眠症が続くと、脳にある扁桃体が過剰反応するようになります。扁桃体は自分におよぼされるかもしれない害を排除しようとする部位です。
ここが過剰に反応するようになると、自分におよびそうな害を徹底的に排除したり、他人の悪いところばかりが目につくようになったり、怒りっぽくなったり、責任逃れをしたりします。
さらに不眠や睡眠不足が続くと、頭頂葉が鈍くなり、数字など事実に基づいた判断ができなくなったり、ケアレスミスが起きたりします。また、過去の経験に基づいて判断しようとしたりすることも。
このような行動が組織内で起こると、同じミスを繰り返す同僚や部下を非難するという「人を責めるコミュニケーション」に偏る危険性があります。
責められた部下も、ミスを繰り返す理由が分からずつらくなる。原因は睡眠不足かもしれないのに、「気合が足りない」などの根性論になってしまうかもしれない。あるいは間違った人事評価によって離職率が増加するかもしれません。
ミスが許されない管理業務などはさておき、新しい事業にチャレンジしたい人の芽を摘むことにもなりかねません。
ーなぜ、睡眠に悩まされる人が増えているのでしょうか。
根本の原因は「資本主義」にあるのではないかと。哺乳類動物を見ているとそう思ったりします。
彼らには「時間」の観念がない。時間という概念の中に生き、かぎられた時間で最大限の利益を上げるという価値観で生きているのは人間くらいです。その価値観は資本主義そのものです。
日本にいながらアメリカ時間に合わせて仕事をするグローバル企業や、24時間営業のショップなど、1日中利益を最大化できる体制が整ってしまっているのも問題でしょう。
理想は8時間? ネットはデタラメが多い・・・重要なのは個人差
ー不眠症や睡眠不足は長期的にどんな障害を引き起こすのでしょうか。
個人差はありますが、決断力がなくなったり、メンタルが落ち込んだり、記憶力が低下したりします。文献などでも前立腺癌の発症率が2倍ほど高くなるといったことが言われています。
例えば、3時間睡眠を10年間続けると、脳に不可逆的な影響を与えてしまい、50代以降の第2の人生を楽しめなかったり、認知症を発症したりする危険があります。
子どものころにどのような睡眠を取っていたかも関係してきます。子どものころの質の悪い睡眠が脳に与える影響は、大人になっても残ってしまうのです。
しかし、睡眠の問題で一番怖いところは「目に見えないこと」です。ダイエットは体重計に乗れば判断できるし、病気は症状が見た目に現れやすい。ですが、睡眠不足は間接的にしか現れません。
現れた症状と睡眠の関連性は複雑で、専門知識がない人にとって判断するのは難しい。睡眠に関してはさまざまな本や知識が出まわっていますし、ネットにはデタラメな情報があふれています。
例えば、
- 「ノンレム睡眠」は長いほうがよい
- 寝る前の「ホットミルク」が安眠を促す
- 夜10時~2時に睡眠を取ると肌によいという「美容のゴールデンタイム」
など、このような情報はすべて間違いです。
他にも「8時間睡眠が理想」「アメリカの一流経営者は4時起き」など、絶対法則や答えを求める人も多いようですね。睡眠時間は「個人差」があるのが大前提。寝る時間帯や睡眠時間を決めつけるのもどうかと思います。
ー最適な睡眠の質、量には個人差があるのですね。
そうです。よい眠りを得たかどうかは「起きてから4時間以内に眠気が来ない」というのが一つの指標となりますが、睡眠時間は人によってそれぞれ。7時間が理想とも言われますが、10時間必要な人もいます。その人にとってのベストな睡眠時間は、遺伝子や働き方などによっても変わってくるのです。
それに、生まれた後、育つ過程での脳の使い方によって、レム睡眠とノンレム睡眠の必要な割合が変化したり、同じ人でも年齢によってベストな睡眠時間が変わることも。例えば、10代の中ごろから後半は8〜10時間、40〜50代になると4〜5時間といった具合に。
「夜型よりも朝型、早寝早起きがいい」とよく言われますが、そんなこともないのです。「夜型なのに早寝早起きしなさい」なんて迷惑な話。
正直なところ、夜型の人は会社の日勤スタイルにあっていません。でも、社会がそもそも人間に最適化された形で設計されていないから仕方ないとも言えるのですが。
リーダーたちに実践してほしい、睡眠の質を上げる「4つの技術」
ー個人差が大きい上に安眠が難しい現代社会。睡眠の質を上げるコツなどはあるでしょうか?
睡眠は体質だから仕方ない、シフト勤務で働いている以上無理だと諦めたりすることはありません。光、体温、自律神経などに知識を持ち、コントロールする技術を身につければ、たとえかぎられた4時間の睡眠でも質は上げることはできます。
- 体温をコントロールする
深部体温が下がっていないといい眠りはおとずれません。お風呂に入るタイミングやストレッチ、温かいものを摂るなどして、寝る一時間前にいったん体温を上げ、寝る時間に下がるようにするといいでしょう。
- 光をコントロールする
寝る前には白色光は浴びないようにします。白色光は「睡眠ホルモン」とも呼ばれる、体内時計に働きかけ自然な眠気を促すメラトニンの分泌量を減らしてしまうからです。起床時には太陽の光を浴びることで体の一定のリズムを取れるようになります。
- 自律神経を鍛える
自律神経は交感神経、副交感神経の2つがあります。緊張状態にあるときは交感神経が優位になり、リラックスしているときには副交感神経が優位になります。日中活動しているときは状況に応じて切り替わっていますが、この切り替えをコントロールできれば安眠が得やすくなります。
定期的な運動が最適ですが、血管が収縮するときには交感神経が働き、拡張するときには副交感神経が働くことを利用して、お風呂に入っているときに膝下に水をかけたり、サウナに入ったりして、人為的に交感神経、副交感神経を切り替えることで自律神経が鍛えられます。
- ベッドには何も持ち込まない
ベッドで本を読んだり、スマホを見たりすると、「ベッドは情報をインプットする場所」として体が反応するようになってしまいます。ベッドでは睡眠に関係にないことはしないようにしましょう。
私が安眠のために個人的にやっていることは、リビングの照明の色を時間帯によって変えたり、お風呂から上がってもすぐにベッドに入らないようにすること。
また、寝る直前に炭水化物を摂ると消化への負担がかかるし、内臓の温度も上がってしまうので、次の日の起きる時間から逆算してその10時間の間に食事を終わらせるようにしています。食べるのが遅くなった日は、消化に負担のかからないフルーツなどを食べています。
ー最後に、組織を動かす経営者やマネジャーたちに一言。
睡眠と売上、業績の相関関係を単純に示すことは難しいですが、「起きるのが楽になった」とか「眠りの質が上がった気がする」といった声が、企業の現場からは挙がってきています。
従業員やチームメンバーの健康を考える経営者、マネジャーの方々には、ぜひ睡眠に目を向けてほしいと思います。そして、「睡眠は技術なのです」とお伝えしたいですね。
[取材・文] 水迫尚子、大矢幸世、岡徳之
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