SNSで話題「パワポ芸人」に聞く“オンラインでも伝わる”プレゼン資料の作り方

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新型コロナウイルス感染拡大防止のため、企業の間でリモートワークが浸透してきています。しかし、対面できなくなったことで、特にクライアントなどへの提案=「プレゼンテーション」において、「伝わりづらい」「コミュニケーションが取りづらい」「先方の反応が分かりづらい」など、苦戦している方は多いはず。

そこで今回は、「もし桃太郎がイヌ・サル・キジにお供になってくれるようプレゼンしたら」、いわゆる「桃太郎パワポ」などがツイッターで大きな話題となった、SNSで大人気の「パワポ芸人」、トヨマネさんに、PowerPointを使った「オンラインプレゼン術」の極意を伺います。

対面ではないオンラインプレゼンでは、PowerPointの作り方やデザインはどう変わるのか。また、”オンラインでも伝わる” 資料作成術を身につけるのはどうすればよいのか。トヨマネさんに、資料作りで大切にしている考え、具体的な手順、明日からでもすぐに真似できるヒントを伺いました。

トヨマネ|パワポ芸人 豊間根青地
1994年東京都生まれ。東京大学工学部卒。サントリーで通販事業のCRM・広告などを担当する傍ら、趣味のPowerPointで作成したスライドがTwitterで大きな反響を呼び、8万人以上のフォロワーを集める。斜め上の切り口から物事を捉えた、シンプルで分かりやすいスライドが特徴。「くだらないけど、ためになる」をモットーに、スライド作成に役立つノウハウやネタ画像などを各種SNSで日々発信している。社内外で自身のノウハウを伝える活動に取り組んでおり、企業セミナー・講演会多数。Twitter:@toyomane

資料作成の罠「スライデュメント」を回避する

ここ数年オンラインプレゼンの機会が増えてきました。オンラインプレゼンにおけるプレゼン資料の作り方のコツはなんでしょうか?

セミナーをやっていると、そうした質問をいただくことがあります。ただ、この企画自体をひっくり返してしまうかもしれませんが、個人的には、オンラインもオフラインも資料作りの本質は変わらないと思っています。

「プレゼンテーションはプレゼント」とよく言われるように、プレゼンは聞き手が求めている情報を受け取りやすく渡すことが基本。オンラインプレゼンも、環境が変わるだけなので、本質的な部分は共通すると思っています。

なるほど。では、トヨマネさんが考えるプレゼンの本質を教えてください。

まず、資料には「読んでもらう資料」と「見てもらう資料」があると考えています。前者は講義のレジュメのように、テキストが多めのいわば「読むため」の資料。後者はスティーブ・ジョブズのプレゼン資料のように、写真や短文のみで構成されている、いわば「見るため」の資料です。

本来は、相手や使用シーンによって作り替えられるとよいのですが、忙しいビジネスパーソンにとってそうした時間は取りづらい。そこで、僕は「読んでも、見ても理解できる」資料が必要だと考えています。

ただ、こういう話をすると「それは“スライデュメント”だよ」と言われることがあります。「スライデュメント」とは「スライド」と「ドキュメント」を合わせた造語で、読むのにも見るのにも中途半端な資料のこと。一般的に日本人はこのスライデュメントを作りがちだと言われているのですが、その罠に陥らないよう、ちょうどいいバランスの「いいとこどり」を作成することが大切です。

どうすれば「スライドュメント」を避けられますか?

ケースバイケースですが、スライドの王道の型として、資料上部に「キーメッセージ」、その下に「補足情報2つ」というのをオススメしています。

キーメッセージとは、そのスライドで言いたいことを一文で短く書いたもの。プレゼンを聞いた相手が、その上司に資料だけを渡したとしても、そこだけ追って読めば上司も大枠のストーリーが掴めるような、最低限の情報を載せるイメージです。

仕事柄、さまざまな資料を見ていますが、キーメッセージが5行くらい記載されているものもあります。きっと、伝えたいことを絞り込めなかったのでしょう。キーメッセージ単体を考えても絞り込めない場合は、全体の「ストーリー」を整理し直して、どの順番でなにを伝えるかを明確にする必要があります。

キーメッセージを過不足なく絞り込むには、全体のストーリーを整理したほうがいい、と。ストーリーを組み立てるコツはありますか?

僕は日頃から「パワポを開く前に、紙とペンでストーリーを整理しよう」と話しています。手書きだと思考がまとまりますし、パソコンよりも修正や順番の入れ替えなどの作業が容易だからです。「ストーリー作りに全体の7割の時間を割く」という心構えでいます。

でも実際は紙とペンを取り出す「前に」やっていることがあるんです。それは「だれもいない壁に向かってプレゼンをしてみる」ことです

内容はおぼろげでもいいので、営業ロープレのように「◯◯さんが困っているのはここですね。だったらこういうアイデアがいいと思います」と、一人で話してみる。すると説明の順番や構成が見えてくるんです。試してみることをオススメします。

ユニークな方法ですね。最終的なアウトプットからプレゼンの内容をイメージするのは有効かもしれません。最初にロープレをして、次に構成を紙に手書きして、そこからキーメッセージを意識して作っていく、と。資料の完成後は、どんな工夫をされてますか?

よく、「一度作って少し寝かせることで、客観的に見直せる」と言いますよね。僕も意図的ではないですが、気分が乗っている時に一気に作成して、一晩寝てから見直すことはあります。

ただ、作成途中でも客観的に見たい場合もある。そうした時は、ショートカットキーの「Shift+F5→G(Windowsの場合)」を利用して、資料を一覧表示にします。すると、全体の流れをひと目で確認できる。

この方法にはもう一つの利点があります。一覧表示で小さくなったパワポの画面は、プレゼンの聞き手から見た資料の見え方に近いんです。画家も絵を描いている途中に、時々キャンバスから離れて絵を眺めますが、それと同じようなものです。

これを意識するようになったのは、ツイッターでスライドを投稿するようになってからです。小さなスマホ画面でも、内容が一瞬で伝わり、興味を惹きつけるようなスライドにしないと”バズり”ません。見てすぐ理解できる資料作りのために、物理的に画面を小さくしてみるのは、意外と効果があるんです。

オンラインでも聞き手の「集中力」が途切れない資料の作り方

オンラインとオフラインで共通する本質について、資料作成の心構え、具体的な作成手順、「キーメッセージ」や「ストーリー」を作り込むコツを話していただきました。そのうえで、オンラインプレゼンだからこそ、意識されていることはありますか?

オンラインプレゼンの難しさは、聞いている側の集中力が続きにくいことではないでしょうか。体感的には、パソコン画面で資料を見ながら話を聞くと、オフラインのプレゼンに比べて、50%くらい集中力が落ちるような気がします。それは、そのまま脳が処理できる情報量の差ともいえる。

つまり、オンラインプレゼンの場合は、意図的に、資料1枚に入れ込む情報を減らすことが有効です。オフラインのプレゼンでは、資料1枚に収めていた情報を、2枚に分割してあげるなどの工夫をしてあげるといいかもしれません。

また、プレゼン中、相手がずっと話を聞いているともかぎらないので、先ほど話した「キーメッセージ」の重要性は増すでしょう。聞きそびれた情報を、すぐにキャッチアップできるスライドになっていると、聞き手を置き去りにせずにすみます。

たしかにプレゼンを受けている途中に他の通知が気になったり、意識が違うところに向いてしまうことはありそうですね。

はい。そして、「全体像」「現在地」「振り返り」の3要素も重要だと思います。

冒頭に、これからどういう話をするかという「全体像」、今どの部分を話しているかという「現在地」、時々それまでに話した内容を再確認する「振り返り」。この3つを適切に入れることが、聞き手の集中力を持続させるコツです。

よく「相手の反応が見えなくて不安」と相談されます。その場合は、プレゼンを区切りながら、「ここまでの内容はご理解いただけましたか?」と問いかけをして、相手の状況を把握するといいでしょう。

なるほど。トヨマネさんの作成されるスライドには「笑い」の要素も入っていますよね。これも集中力を続かせるポイントでしょうか?

たしかに、ツイッターで投稿しているパワポにはネタ要素を盛り込んでます。でも、ビジネスシーンでは真面目な資料を作りますよ(笑)。仕事の中に「笑い」を入れるのは難易度が高い。だけど、「リズムを意識する」のはいいんじゃないでしょうか。

例えば、資料の中に時々、白一色や黒一色のスライドを入れたりしています。視覚的に分かりやすく一区切りつけることで、聞き手が集中力を緩めてもいい時間を、意図的に作るんです。

集中力を続かせることがやはり大切なんですね。そのための演出面のコツは他にもありますか?

まず、資料のアスペクト比は「16:9」をオススメしています。細かい話ですが、最近のパソコン画面のアスペクト比は、どんどん横広になっていて。既存設定の「4:3」では、画面の左右に余白が生まれてしまい、スペースがもったいないんです。

また、画面共有やミュート解除など、細かな作業のショートカットキーを覚えるといいと思います。せっかく良い資料を作っても、見せる際にもたついてしまうともったいない。地味に思われるかもしれませんが、大切なポイントです。

あとは、性能のいいマイクとカメラを購入するのも一つの手ですね。マイクなら5,000円程度、カメラも1万円程度のWebカメラをそろえるだけで、相手に与える印象が違ってきます。聞き手のストレスを軽減し、いい印象を与える手段として、マイクとカメラは十分コスパのいい投資だと思います。

高校時代から続けた習慣が「パワポ芸人」の土台に

すぐに実現できそうなヒントをたくさんいただきました。お話を聞いていると、細部へのこだわりと言いますか、トヨマネさんのプレゼンに対する情熱を強く感じます。なぜ、「パワポ芸人」として活動されるようになったんですか?

高校生のころから、ツイッターに「ウケ狙い」の投稿を載せていました。他の人がクスッと笑って「いいね」をつけてくれる方法を、日頃から考えていたんです。この習慣は社会人になっても続けていて。ある日、テキストでは伝えられることに限界があると思って、画像の投稿を始めたんです。

最初は全然反応もなく、ひっそりとくだらない作品を次々作っていたんですが、3カ月目くらいに「桃太郎パワポ」がバズりました。それを機に本格的に「パワポ芸人」と名乗り、パワポ資料作りをスタート。ちなみに、パワポを利用するようになったのは、イラレ(Illustrator)のサブスク料金が高かったからです(笑)。

活動を始めて3カ月で早くも大きな反響があったんですね。スライド作りの技術はどのように学んだんですか?

最初に資料を作る経験を積んだのは、大学の授業です。都市工学を学んでいて、デザインや設計についてプレゼンする時間がありました。そこでウケわなくてもいいタイミングでしれっとネタ要素を盛り込んだプレゼンをしたら、まわりの友人が笑ってくれて。それが「パワポ芸人(仮)」誕生の瞬間です。

ビジネスで使う資料を作り始めたのは、社会人になってから。実務経験を積んだり、経験豊富な上司からのフィードバックをもらったりしながら、5年間かけて、今のスタイルが確立しました。

昨年には書籍も出版されましたね。

はい。書く前には想像もしていなかった方々、例えば、お医者さんや教師の方たちからも「参考になりました」とメッセージをいただきました。やはり、世の中のさまざまなシーンで、資料作りの技術は求められているんだと感じました。

好きこそ物の上手なれ。まずはスライド作りを楽しむことから

業界によっても求められるスライドは変わってきそうですよね。ビジネスシーンを具体的に想像してみると、複数人で資料を作成する機会もあると思います。そうした場合のコツはありますか?

「あなたはこのページの資料を作って」と役割分担するだけだと、どうしても全体感が見えず、ズレが生じる場合があります。まずはテキストベースで、全体のストーリーと構成を合意してから、役割分担に入ることが重要です。

また、機能性の高いテンプレートを利用すると、各人が作成したスライドのデザインや文字の配置などをそろえる工数が削減されるのでオススメしています。

テンプレートは重要ですね。

そうなんです。ただ、パワポに元から入っているテンプレートは、用途不明な斜め線があったりして、使いにくいんですよ。ネット上にあるテンプレートも、必要以上にオシャレでビジネスシーンには向かないことも多い。

いろいろと調べてみると、「ビジネスで使いやすいテンプレートは意外と少ない」ことが分かりました。作り手が迷わず作成できて、聞き手もすぐに理解しやすい。そんな新しいテンプレートが必要だと思います。今、各企業に合わせて最適な資料テンプレートを開発・提供する事業を立ち上げようと考えているところです。

それでは最後に、忙しいビジネスパーソンが明日から真似できる、資料作成を上達させる方法を教えてください。

当たり前に聞こえるかもしれませんが、「まわりの上手い人を真似る」ことがやはり近道だと思います。僕も同じ部署に資料作りが上手い人がいて、日頃からかなり影響を受けているんです。

もし、身近でそうした人が見つからない場合は、ベンチャー起業の経営計画をまとめた「成長可能性に関する資料」を検索してみてください。企業のビジネスモデルや事例、取り組みが分かりやすくまとめられていて、「読んでもらう資料」と「見てもらう資料」の中間くらいの、汎用性が高い資料が並んでいます。

最後に、もう一つお伝えするとすれば、それは「好きこそ物の上手なれ」ですね。資料作りが面倒で苦手だと感じる方も、前述したコツを1つでも試してもらえれば、ちょっとだけ楽しく思えるかもしれない。過程を楽しむことから始めてもらえれば、自ずと資料作成は上達すると思います。

 

[取材・文] 佐藤史紹 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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