正しい怒りならパワハラにはならない。溜め込んでしまう上司のための「正しく怒る技術」
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感情をあまり表に出さないと言われている日本人。近頃はパワハラを怖れたり、リモートワークで距離が生まれたりと、ますます部下に対して怒りにくくなったと感じている人が増えているようです。
そんな中、効果的な怒り方を提唱するのが「アンガーマネジメント」の専門家、安藤俊介さん。ムダに怒ることは避けたいものの、怒りはプラスに活かすことができると言います。
そもそもどんな場面で怒るべきなのか、そしてどうすればそれを建設的なものにできるのか、安藤さんに「上手な怒り方」を伺いました。
「気軽に」怒れなくなった
最近、部下を怒れない上司が増えているようですね。
そうですね、コンプライアンスがしっかりしている企業ほど、上司が怒れなくなっている傾向にあります。
昨年「パワハラ規制法」が施行され、パワハラに対して意識が高まったというのは喜ばしいことではあるのですが、一方で、「怒ったらパワハラになってしまうんじゃないか」といった誤解が広がって、怒ることを躊躇する人が増えてしまった。
もともと日本人は溜め込んでしまう人が多く、私が10年前にアンガーマネジメントを始めた当初から「怒れない」という人はある一定数いたんですが、パワハラ規制法にからんでより如実になった、というのはありますね。
リモートワークへのシフトも影響していますか?
オンラインになって、ネガティブなフィードバックがしづらくなったという声はすごく増えています。
リアルの場であれば気軽に話しかけて、「これさ、悪いんだけどさ……」って言えるようなことが、オンラインだといちいち、「Zoomで10時からね」と、セッティングしないとできなくなった。
かしこまった状態でネガティブなフィードバックをすると、「改まって怒られた」になるんですよ。「ちょっとこれ、おかしくない?」みたいな簡単な指摘が、「オフィシャルな怒り」になってしまうので、怒る側も怒られる側も戸惑っているということはありますね。
さらに、怒った後のフォローも難しいんですよね。リアルであれば、「さっきの件だけど……」というフォローがまた気軽にできるけれど、オンラインの場合はまたミーティングをセッティングして、改まったフォローになるという。
チャットなど、文字を通してのコミュニケーションになると、怒るのはもっと難しくなりそうですね。
基本的に怒るってすごく難しいものですが、文章になるとさらに難しいですね。文章の場合は相手の反応が見えないですから。
面と向かっていれば、相手の表情を見ながら「あ、もう少し言うとダメかな…… きつすぎるかな……」みたいなニュアンスが分かりますが、メールもチャットも一方通行で、剛速球投げるだけになっちゃうんですよね。
怒りの効果とは?
そもそもどんなときに怒っていいんでしょうか?
まず、なんのために怒るかですよね。それは例えば、自分の真剣さを伝えるためです。
怒りというのは「防衛感情」とも言われているのですが、自分が守りたいものが侵害されたときにそれを守る、という役割があるんですね。なので、怒るというのは「なにが大切なのか」を伝える一つのサインなんです。
例えば今、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんはめちゃくちゃ怒ってるじゃないですか。彼女たちがトーンを柔らくしてやる方法もあると思うのですが、怒ることでどれくらいなにかを成し遂げたいかが表現されている。怒るからこそ、真剣さを主張するメッセージになるわけなので。
それが破壊的な方向に行ったらよくないのですが、建設的な方向で怒りを向けられるのであれば、それはすごくいいことですよね。
なるほど。「大切なことを伝える」という風に捉えると、怒ることへの苦手意識が薄まりそうですね。
「怒る」って怒鳴ったり、強く言ったりすることではないんですよ。静かに怒ることも全然できるので。僕が怒るときも、口調とか全然変わらないです。
怒るということは「リクエストを伝えること」。強く言って相手をへこますとか、反省させるというのが目的ではない。リクエストを聞いてもらうのがゴールなんですね。
なので結局、「怒るのがうまい人」って「リクエストがうまく出せる人」なんです。そこでリクエストをどうやって出すかと言ったら、「具体的に、分かるように」。相手が今すぐ行動できるように伝えられるか、という話なんですね。
逆に怒るのがヘタな人というのは、リクエストの伝え方が悪いと。
そうですね、そもそもリクエストがなかったり、無茶な内容だったりするんです。
例えば、リクエストがない人は、「どうすればいいかを考えるのがお前の仕事だろ?」となってしまう。「それぐらい分かれよ!」というのも無茶なリクエストなんですね。そこを変えるだけで、怒りって伝えられるようになるんです。
怒りの基準はいつもブレない
具体的に怒りでリクエストを伝えるために大事なことは?
まずは怒る基準がいつも同じかどうか、がとても大事です。いつでもどこでも誰に対してでも、同じ基準で怒れるか?
一番ダメなのは、同じことをしてもある日は怒るけど、ある日は怒らない。この人がやっても許すけど、こいつがやったら許せない。基準がズレるというのは、怒られる側からするとフェアじゃないんです。
逆に言えば、「ここを超えたら怒るよ」っていうのが分かっていれば、お互いにやりやすくなる。この線引きができているかどうかですね。
その「線引き」ができていないことがとても多いのではないかと思います。
みんな苦手ですよね。しかもみんな「線を引く」という意識がそもそもない。結局、機嫌で怒ってますよね。機嫌がよければ許すし、機嫌が悪ければ怒るんです。
簡単な例として、「時間を守る」というルールを考えたときに、「10時集合」の場合、10時までに来たならOKなのかどうか。
ある日は「会議5分前には着席するべき」と怒ったのに、ある日は会議1分後でも全然怒らなかったとすると、「時間を守る」という線引きをそもそもしていないことになる。
どこに線を引くかという正解はないです。ただ組織として、人として、「時間を守る」ということに関してはここに線がある、というのは部下に伝えないと、彼らも分からないですよね。
マネジャーはまず線引きをして、それを怒る基準にすると。
そうです。気に入らないから怒るのではなく、線を超えたから怒るわけです。そこがまさにマネジメントができるか、ですね。
「事実」だけを怒る
線を超えた場合に怒る際、怒り方の鉄則はありますか?
はい、鉄則は「事実だけを怒る」。怒った内容が第三者から見ても事実であるかどうか、です。逆に「性格」とか「人格」とか「能力」とか、そういうものに関しては言ってはいけません。
例えば、誰が見ても遅刻した状況では怒ってもいいんです。一方で、「だらしがないから遅刻したんだよ」と言った場合に、「だらしがない」のが事実なのかどうか。もしかしたら多くの人がだらしないと思うかもしれないですが、それは「性格」であって、別に「事実」ではないんですよね。
「生意気だ」とか、「態度が大きい」とか、そういったものも事実ではありません。それから、「能力がない」とか、「やる気がないんじゃないの?」とかも言ってはダメですよね。
例えば「とても大事な提出物が遅れた」というような場合、つい性格や能力に言及したくなりますが、改善を促したいときにどのように怒ればいいでしょうか?
「次はどうやったら締め切りを守れるか?」です。「なんでできない?」「なんでやらない?」じゃなくて、「どうしたらできるようになる?」と怒るほうが正解ですね。
性格や能力を怒って直そうというのは、横暴な話。今の時代、それはもう通用しないです。
価値観をアップデートしないといけないんですね。
年齢を重ねれば重ねるほど、価値観をアップデートしないと本当に時代に取り残されます。特に真剣に考えてほしいのは、「人権ってなんだろうな?」ということですね。
自分と同じように人を大切だと思えるか。「能力がない」とか「性格が悪い」とか言われて、単純に自分がどう思うか、ですよ。「なんでそんなこと言われる筋合いがあるんだろう?」と思いますよね。それを今まで良しとしてきた文化に慣れてしまっている。
なので私はよく、「20歳年下の人たちと付き合いなさい」と言います。自分の考え方がいかに歪んでるか、いかに使えないか…… 20歳ぐらい下の人たちと話をすると、価値観が違うことに結構気づくんですよね。
基本は人間関係
こうした鉄則を踏まえた上でも、相手がどう出るかが読み切れないところが怖いという上司がいそうですが…。
それがパワハラを警戒して怒れない人の心理ですよね。私は厚労省のパワハラ検討会の委員だったのですが、正しい知識を持っていないと、そういう躊躇が起きてしまうんですよね。
でも、上司が必要なことを必要に応じて、適切な物言いで伝えて、それで部下がへこんでしまったとします。その場合はパワハラではないし、上司が問題なわけでもありません。
しかし時には相手の受け止め方を想像して、怒り方を変えたりする必要もあるのでしょうか?
それはあるでしょうね。今の20代の人たちを昭和時代のような強い口調で怒っても、部下たちはついてこないでしょう。
結局、キャッチボールなので。相手がどれぐらいのボールを取れるか分からないのに、自分の加減だけで投げている人って、キャッチボール下手な人ですよね。
うまい人って相手のどこに、どれぐらいの加減で投げたら取れるかを考えて投げますから。
なるほど。相手との距離を考えながら、言いたい事を正しい怒り方で伝えると。
相手との距離を掴めるかは、やっぱり普段その人に対して興味を持って見ているかどうか、でしょうね。つまり、普段の人間関係です。
人間関係のある人から怒られたら聞けるんですよ。実は怒る前提条件として、普段の人間関係が良好かどうか、がある。良くも悪くもお互いに言いたいことが言える雰囲気をつくるためには、より密なコミュニケーションが必要です。
でも、まだそこまで関係性ができていない部下との間でも、「怒る基準が明確である」「事実だけを怒る」「どうすればいいか解決策を聞く」ということができていれば、その怒りは建設的だと思いますよ。
怒りに関する正しい理解は、上司と部下の心理的安全性を築くためにもすごく大事なポイントになると思います。
アンガーマネジメントコンサルタント/一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事 安藤俊介
怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」の日本の第一人者。アンガーマネジメントの理論、技術をアメリカから導入し、日本の考え方、慣習、文化に合うようにローカライズする。教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行っている。1971年群馬県生まれ。東海大学教養学部国際学科卒業。『なぜ日本人は怒りやすくなったのか?』(秀和システム2022年)、『アンガーマネジメントをはじめよう』(大和書房2021年)、『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版2016年)など、著書多数。
[取材・編集] 岡徳之 [構成] 山本直子 [写真] 伊藤圭
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