Googleの「最高の上司」がチームの生産性を高めるためにしていること
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世界で最も優秀な人材が集まると言われる企業の一つ、「Google」。そんなGoogleで「最高の上司」として部下から尊敬されるのは、どのような上司なのでしょうか。
Googleで人材育成やリーダーシップ開発に携わり、現在は独立しその手法を世に広めようとしているのが、モティファイ株式会社取締役で『0秒リーダーシップ』『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか グーグルの個人・チームで成果を上げる方法』の著者であるピョートル・フェリークス・グジバチさんです。
Googleにおける最高の上司の役割、部下とのコミュニケーション手法、そのレベルに近づくために必要なマインドセットについて、ピョートルさんにお話を伺いました。
ポーランド生まれ。2000年に来日。ベルリッツ、モルガン・スタンレーを経て、2011年Googleに入社。アジアパシフィックにおけるピープルディベロップメント、2014年からグローバルでのラーニング・ストラテジーに携わり、人材育成と組織開発、リーダーシップ開発などの分野で活躍。現在は独立し、モティファイ株式会社で新しい働き方と良い会社作りを支援する人事ソフトを開発・提供。『0秒リーダーシップ』『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか グーグルの個人・チームで成果を上げる方法』著者
データが導き出したGoogleの「最高の上司」
—Googleが考える「最高の上司」とはどのような人でしょうか。
前提として、私やGoogler(グーグラー、Google社員のこと)は「上司」という言い方が好きではありません。
たしかに多くの企業はピラミッド型組織で、命令は上から下へと伝わるようになっています。実際、下部の人のほうが権限は弱くなっているでしょう。
しかしこれからの時代は、一人ひとりがリーダーシップを発揮し、さらにフォロワーシップを持ってサポートし合うことが重要だと考えているからです。
実際、Googleでは現場のエンジニアたちにとっての上司である、マネジャー職を一時的になくしたこともあるんですよ。
創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、起業するまで会社組織に属したことがなく、自分たちの会社を出身校のスタンフォード大学のような、自由闊達な雰囲気にしたかった。
エンジニアには伸び伸びと働いてほしい。だとすれば、彼らを「管理する存在」は邪魔なだけなのではないか、と考えたからです。
しかし、2009年に実施した「Project Oxygen(プロジェクト・オキシジェン)」と呼ばれる大規模調査をきっかけに、Googleはマネジャー職を復活させました。
1万人以上の社員が参加した調査結果をGoogleらしくデータ解析したところ、「その人がいたほうが組織全体のパフォーマンスが高まる上司像」というものが導き出されたのです。
データに基づいた結果でしたから、ペイジとブリンも納得せざるを得なかったんですね。その調査で導き出された上司像は、以下のようなものでした。
- 専門知識を持った良いコーチである
- チームを勢いづけ、マイクロマネジメントをしない
- 部下が健康で過ごし、成果を挙げることに関心を払う
- 生産的かつ成果主義である
- チームの良き聞き手であり、コミュニケーションを活発に取る
- 部下のキャリア形成を手助けする
- 明確なビジョンと戦略を持つ
- チームにアドバイスできる技術的な専門知識を持つ
「Googleにおける最高の上司」を一言で表すなら、自分自身が直接的にパフォーマンスを発揮する人ではなく、「部下が最大の成果を挙げるための場作りができる人」。
革新的なプロダクトは、一人の突出した上司がいるチームではなく、同じスキルレベルを持った部下たちが相互に刺激し合うチームから生まれやすいという研究結果もあります。
Googleの上司は部下と「質の高い雑談」をしている
—Googleの上司は、メンバーのための場作りにどのように取り組んでいるのでしょうか。
彼らは、多くの会社に共通するピラミッド型の会社の組織図を「逆さま」にして捉えています。つまり、自分はチームの部下たちを「下」から支えている、と。
彼らがよく口にするのは、”I work for her.(私は彼女=部下のために働いている)“ という言葉。自分の役割は部下のサポート役だと自覚しているのです。
そのために最も心血を注いでいるのが「心理的安全」の構築です。チームが一つの目的に向かえるよう、部下たちに自分を素直にさらけ出させ、感情的な衝突をなくすのです。
多くの企業の上司は、オフィスに来たら心理的安全はともかく、仕事モードに切り替えてすぐに目標やタスクの話をしようとします。それではコンフリクトしか生まれません。
「心理的安全」についてよく誤解されるのが、部下たちに職場で素をさらけ出してもらうために、上司から指示や厳しいことは極力言わないほうがいいというもの。これは的外れです。
ある実験で、上司から何も指示を与えられないチームと、すべて指示通りに動くチームとでは、前者のほうが圧倒的にパフォーマンスが低いという結果もあるんですよ。
Googleの上司が、チームにおける心理的安全と目的達成を両立させるために行っているのが、個人とチームの「OKR」を定めるための「1on1ミーティング」です。
OKRとは「Objective & Key Result(目標と結果)」のこと。しかしこの目標は、同じチームの部下に一律したものではなく、個人の信念や価値観に基づいて変化するものです。
しかも、社長、上司、部下… どのレベルの対話であっても「あなたのOKRはなんですか?」と常に問いかけます。そのたびに説明するので、自己認識度がおのずと高まります。
部下のOKRを決めるためには、上司は個人の信念や価値観を知る必要があります。そこで彼らが行っているのが、「質の高い雑談」です。
例えば・・・「好きな食べ物は何?」「新鮮なお魚です」「どうして?」「海が近い場所で生まれ育って、小さいころからよく食べていたんです」。
なんてことのない会話から、部下の人格を形成してきたそれまでの環境もそうですし、部下が喜ぶものという使える情報も手に入れることができました。
信念や価値観により直結する会話では、
- 「あなたは今どんな業務を担当していますか?」
- 「あなたにとって今取り組んでいる仕事はどんな意味がありますか?」
どちらのほうが、部下により深い思考を促すでしょうか。後者ですね。こうした部下の人生を変えるかもしれない質問を、1on1ミーティングで繰り返し投げかけます。
「雑談はチームの生産性を低くする」という見方もあるかもしれません。しかし、上司は「あなたという人に好奇心があります」という姿勢を部下に見せ、耳を傾けるべきなのです。
それでも、始めは部下は本音を話してくれないでしょう。ステレオタイプな上司に対する先入観があるからです。ですから、まずは上司から「自己開示」を行うことが大切です。
例えば、「週末、子どもと一緒に公園で走り回って、今日は筋肉痛がひどいんだよね…」と言えば、「お子さん、何歳ですか? うちは何歳です」と部下も話してくれるかもしれません。
心理的安全をチームのパフォーマンスにつなげる「質問」
—心理的安全を築いた上で、チームのパフォーマンスを高めるために取り組むべきことは。
Googleの上司は部下の信念や価値観を引き出し、心理的安全を築いた上で、本人を大きく飛躍させるための質問をします。
Googleの中でも自動運転カーなど特にイノベーティブなプロダクトを開発している子会社「X」の上司は、部下のプレゼンに対して質問「しか」しません。
それは現実的に着地させるための質問だけでなく、「予算や納期などの制限がなかったら?」「10倍のリソースがあれば?」など、可能性を最大限に広げるような質問を投げかける。
心理的安全が築かれているから、部下は自分の野心を素直に語ってくれる。そうすることで、上司自身のアイデアに誘導するのではなく、チームの集合知の価値を高めていくのです。
部下がミスをおかしたときのフィードバックの仕方にも、心理的安全を築ける上司とそうでない上司との間には、はっきりと差が出ます。
「それはダメだ」「間違っている」と否定するばかりでは、部下のアイデアだけでなく、「改善したい」というマインドセットまでも潰してしまう。
もし部下に何か足りない要素があれば、「もう少し説明してくれる?」「具体的にどうしたい?」「もしそうするならこんな選択肢もあるけど」と、促すような質問を行います。
私は日本人が、部下のための場作りや心理的安全を築くのが下手だとは思いません。「日本企業」が下手なのです。
ある人が上司としての役割を果たせているか、正確に測れる企業はほとんどありません。それならまだしも、「上司」の役割を明確にすることすらできていない企業もあります。
「1on1ミーティング」を導入しましょうとなったとき、「部下と何を話せばいいですか?」という質問が出てきたら、終わりです。上司の役割を根本的に理解していない証拠ですから。
チームの一つの目的に向かわせるために、部下の信念や価値観に基づいた目標を設定する。それを引き出すために、心理的安全を築くことから始めていただければ。
それができるGoogleの上司は、部下からこう言われます。”My manager treats me as a person.(私の上司は自分を一人の人間として見てくれる)”、と。
[取材・文] 大矢幸世、岡徳之
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