今知っておくべき「個人のレジリエンス」5つのポイント
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「レジリエンス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 世界中の政財界の要人が集う2013年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で中心的なテーマとしてあつかわれて以来、多くの分野で使われているキーワードです。
もともとは精神医学の分野でよく使われていたレジリエンスという言葉。ダホス会議後は、「レジリエンスがある国家づくり、共同体づくり、都市づくり」という文脈で登場する場面が増え、大きな外乱・天災・想定外の変化が起きたときに、国家・共同体・都市が破壊されてしまうのではなく、その変化に耐え、それを礎としてさらに成長する力という意味合いで用いられています。
この「レジリエンス」という言葉、最近では国家や都市といった大規模なものだけでなく、「個人」に対しても頻繁に使われるようになってきました。
例えば、
- 「レジリエンスの高い社員は、メンタルヘルスを損ないにくい」
- 「これからの不安定な世の中では、キャリアにおいてレジリエンスを発揮できるようでなければならない」
といった具合に、ビジネス上の会話で登場することも多くなっています。
そこで本記事では、ビジネスの最前線で活躍する大企業・ベンチャーのビジネスパーソン40名による議論を通して、「レジリエンスが最高に発揮された状態」とはどのようなことを指すのか、深掘りしました。
本記事ではその内容を踏まえ、これからの変化の激しい時代のキーワードである「レジリエンス ✕ 個人」について、さっそく今日から仕事に活かせる観点をご紹介します。
今回のアウトラインです。
- INDEX読了時間:6分
レジリエントでない人のイメージ:失敗で脆くも崩れる「レンガ」
最初の論点に挙がったのは、「レジリエントではない」個人のイメージです。参加者から出たイメージは以下のようなものでした:
- 失敗経験が乏しく、何かの拍子に一度行き詰まってしまうとガタガタと崩れてしまう
- 何かを失うこと、未知や成果が不透明な取り組みへの恐怖心が強く、成功パターンばかりを繰り返す
- 新しい環境に置かれると、何をしていいか分からず右往左往してしまう
これらのイメージを図式化すると、以下のような状態が「レジリエントでない人」の仕事の取り組み方と言えます。
仕事で直面する状況について、「この場合はこうすればいい」「あの場合についてはこうしてきた前例があるから、こうするといい」と、すべて想定内として業務を管理できる「勝ちパターン」を持っており、それを状況に適用していくことで安定的に成果を上げる。このような人は「レジリエントではない」と、参加者たちは指摘しました。
こうした仕事の進め方をする人は、投下した時間量に比例して成果を積み上げていくことができます。
ところが、状況が変化し、過去に成功したパターンがあてはまらなくなると、いくら時間を投入しても成果が突然上がらなくなってしまいます。
そして、ひとたび成功パターンを失ってしまうと、新たな成功パターンを発掘することは難しく一気に追い込まれてしまうというのが、典型的な「レジリエントでない」人の像です。
この状況について、任天堂の元社員で「Wii」の企画開発を担当した玉樹真一郎氏は、
キャリアの中で常に成果が積み上がっていくことを前提としており、もしもそれが崩れてしまって後退をしたら、それはそのまま失敗を意味するという意味で、まるでカチコチの “レンガ” のようなものですね。
と評しています。
レジリエントな人のイメージ:「ゴムまり」のように外乱で変形し成長する
これに対して、レジリエントな個人のイメージについては以下のような発言がありました。
- 多くの失敗体験をしており、失敗することをおそれていない
- 想定とは異なって起きることから新たな学びを得て、次に活かせる
- そもそもの世界観、独特の世の中の捉え方を持っており、それを常にアップデートしている
こうした話をまとめていくと、「レジリエントな人」の仕事の取り組み方は以下のようなイメージとなります。
先ほどの「レジリエントでない人」は、一つひとつの状況に対して自分が知っている成功パターンを当てはめるのに対し、「レジリエントな人」はさまざまな状況を経験しています。
また、それらの状況を眺めた上で「なるほど、この領域における業界構造はこういうふうになっているのか」「最近急速に起きているマクロ変化(例えば、SNSの普及など)はこういうふうに影響をおよぼしているのだな」と、状況を抽象化して捉えます。
そして、「もし全体の構造がこうなっているのなら、こういう打ち手が有効なはず」と仮説を作り実行します。
その結果が想定どおりであれば、その打ち手とそこで構築した抽象化された考えをベースとし、次の新たな一手を仕掛けていきます。
結果が想定とは異なってしまった場合でも、自分が考えていた抽象化された捉え方を修正、作り直し、その上で新たな打ち手を実験し続けていきます。
この営みを繰り返すと、成果は以下のような推移をたどることになります。
行動に移してしばらくの間は、新しい環境・状況に対する試行錯誤の日々が続きます。また、たとえその環境に対する勝ちパターンがすでに存在していたとしても、独自に抽象化を行い、自分の世界観に沿った打ち手を試し、実際にそれが成果に結びつくまで試行錯誤を続けます。
この作業によって、他の人と同じ状況に置かれていても、独自の抽象化を行い、また次の場面で応用が効くようになっていきます。
また次にその領域で新たな変化が起きた場合、特にその変化が大きい場合には、「その変化がどのような影響をおよぼしつつあるか」を想定しながら、新しい実験へと着手します。
この試行錯誤の過程では、以前に比べて大幅な成果の低下が少なからず発生します。しかし、レジリエントな人は、一時的に成果が下がったとしてもそれに臆することなく、さまざまなパターンを試し続けます。
そして、試行錯誤の末、最終的に大きな成果を出す新たな打ち手が見つかり、それまでを凌駕する成果を上げるにいたります。
こうしたレジリエントな人に特徴的なのは、新しく成果そのものが上がるようになった時点で、外部環境の大きな変化を加味した、自分なりの新たな世界観やモデルが頭の中にできあがっていることです。
つまり、実験を繰り返しているときもただ闇雲に成功パターンを探しているわけではなく、新たな世界が過去と比べてどのように景色が変わったのかを深掘りする、探求のプロセスになっているということです。
以上のようなプロセスを経ていくと、外からの刺激、衝撃があるたびに、大きくそのエネルギーを蓄え、内部の構造を変え、そして最後に羽ばたくというまさに「ゴムまり」のようなイメージがレジリエントな人物像には合致します。
一般化できない事象と対峙したときのメンタルの置き方(マインドフルネス)や身の振り方(学習して発展する)の総称が、個人のレジリエンスだと私は思います。逆説的ではありますが、ストレスフリーな状況ではレジリエンスを発揮しようがないので、私自身はいかにしてコンフォートゾーンから出るか、理由の分からない刺激をあえて受けに行くかを考えています。そうして、自分自身の思考、五感が何か反応するのを待ちます(蛭間芳樹氏)
レジリエントかどうかを見分ける5つのポイント
では、自分自身が果たしてレジリエントなのかをチェックする観点を5つご紹介します。
1:仕事をするほどにお客さま・市場・技術などの構造が鮮明になっているか?
もしもあなたがレジリエントであるならば、一つひとつの仕事上での仕掛けは、常に新しい世界観が自分の仮説と合致しているかを探る実験となっているはずです。いくら仕事をしていても見える景色が一向に変わらないのであれば、それは実験でなく、単なる成功パターンの繰り返しになってしまっているかもしれません。
2:仕事に影響を与える主なマクロトレンドを把握しているか?
多くの場合、インパクト大の変化をもたらすのは、人口動態の変化、ドローンなど新技術の浸透など、誰でも知ることができるマクロなトレンド変化です。こうしたものの中で特に自分が注目すべきものが明確になっていないということは、変化に伴う世界の変化について自分が仮説を持っていないことを意味します。
3:前例のない取り組みを仕事の中で行っているか?
新しい世界、新しい領域を認知するためには、深海探査の潜水艦のようにこれまで誰も試したことのないことに取り組み、その結果を観測することが不可欠です。もしもあなたがすでに誰かが取り組んだことのある仕事だけをしているとしたら、新しい世界の仮説づくりにあなた自身は汗をかいていないことを意味します。
4:社会・市場・仕事内容の構造的な変化について、直接一緒に仕事をしていない人たちと議論をしているか?
ダイナミックな変化は、常に多面的な要素を内包します。財務・マーケット心理・法制度・テクノロジーなど。これらの変化について、個人の感覚ですべてをカバーすることは不可能です。自分が所属する組織に限定されず、自分と異なる観点・専門・興味関心を持つ多彩な人とじっくり議論するレーダーのような機能があってはじめて、新しい仮説・新しい世界観を認知することができます。
5:自分オリジナルで描いたお客さま・市場・技術などの仮説を公開しているか?
自分がオリジナルで捉えている世界観は、ユニークであると同時に、本当に完全な構造を持っているのか? そこに矛盾はないのか? というチェックをくぐり抜ける必要があります。もしもあなたが、そうした自分の世界観・捉え方についてまとまった文章やレポート、あるいはWeb上でのコンテンツや書籍といった形にとりまとめるという作業をしていないのなら、それは都合のよい断片だけを切り合わせた妄想にすぎないかもしれません。
まとまった形にし、他者が認知・フィードバック可能なものにしてはじめて、あなたの世界観は新たな状況での指針となりうる構造を獲得できます。
いかがでしたか? 本当の意味で「レジリエントな個人」であることは、単に精神的にタフで環境の変化に鈍感であることを指すのではなく、誰よりも新たな世界の出現と変化に対して敏感であり、強い好奇心と飽くなき追求の連鎖を意味しているのではないでしょうか?
[編集・構成]doda X編集部 [編集協力] 蛭間芳樹
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