「サステナブル人材」になるには? 変化の時代に生き残るためのキャリア術。第一人者、夫馬賢治さんに聞く

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「今と同じやり方で10年後を迎えられる会社は、おそらく1割もないでしょう」――持続可能な組織を作るためのコンサルティング活動に携わる夫馬賢治さんは、警鐘を鳴らします。

実際、地球温暖化や人口減少など長期を見据えた危機感から、世界の先進企業は、自社だけでなく、人間・社会・地球環境、すべての発展を目指す取り組みを始めています。

日本でもようやく「サステナブル」という言葉が浸透し始めましたが、企業やそこで働く一般の社員には、まだまだ危機感が薄いのが現状。

では、持続可能性を自分の問題として捉え、実際の仕事に落とし込める「サステナブル人材」になるにはどうすればいいのでしょうか? 夫馬さんにお話を伺いました。

会社がつぶれる。投資家から始まった危機感

―今、なぜ「サステナビリティ」なんでしょうか?

今から数十年後も、社会構造や地球環境の状況がほとんど変わらない前提であれば、現状のままでやっていても十分に事業が成り立ちます。しかし、今なにが見えてきているかというと、今とはまったく違う世界がやってくるということなんです。

日本は「停滞の30年間」を過ごしてきました。学校現場を見ても、30年前とほとんど変わっていない。ですから、日本の人たちは「世界は変わっている」という感覚が少ないんですね。30年間続いていることは、これからの30年も続くという錯覚があると思うんです。

しかし、過去30年間、世界はあらゆるものが変わってきたし、これから長い目で見たときに、今の事業のあり方、今の仕事の仕方、今使っている技術では歯が立たない。もうわが社はいくらでも倒産リスクがありますよ、と言っているのと同じことなんです。

なにを変えればいいのかということをみんなが考えなければならなくなった、というのがこの「サステナブルな時代」の大きな背景です。

―どのようなところからアクションは始まっていますか?

「サステナブル」というのは、日本語では「持続可能な」という意味。「持続可能」ということの時間軸はものすごく長くて、「2050年」だったり、もっと長く「2100年」ぐらいまで見据えている動きもあります。

だれがいちばん、こんなにも先のことを見据えて動いているのかというと、ビジネスの世界では「年金基金」など長期投資家です。彼らを中心にしてこの影響がどんどん広がっている。

そして投資家にいちばん近いところにいる上場企業にこの波が来ている、というのが世界的な現象なんです。

―投資家の次に企業が変わってきている、と。

上場企業の人たちが投資家にせっつかれるように変化しています。今と同じやり方で10年後を迎えられる企業はおそらく1割もいない。経営者の間で、これが分かってきたんです。

持続可能性のない会社はつぶれて、持続可能性のある会社がその売り上げや雇用の受け皿になっていきます。今、アクションを取らない会社や事業には存続リスクがあるから、投資家もお金を出さない。

いちばん分かりやすいのは自動車産業です。これから消費者はどんどん電気自動車(EV)やハイブリッドを選択していきます。このままガソリン車を作り続けていたら会社が成り立たなくなることを、多くの企業が理解するようになりました。

変えていくということは、未来の収益を作っていくということ。逆に動かなければ、売れない商品を作っていくしかないので、その会社は小さくなっていくのがもう見えている。

―しかし、例えば「持続可能でないファストファッション事業は切り捨てる」のように、事業シフトすることが会社の収益縮小につながることもあり得るのでは……。

はい。ですから、考え方を変えなければいけないんです。

まずは「2030年、2050年にどういう状況になっているのか」を考える。そのタイミングで「ファストファッション」そのものが成り立たなくなっているんだとしたら、どんなに来年の売り上げが下がろうと、事業転換したものが勝ちます。

これが、先を見て事業を作っていくということ。こうした判断が今、経営者にせまられているんです。

現状維持を求める人を説得できるのがサステナブル人材

―投資家や経営者の意識の変化に、従業員は追いついているでしょうか?

ここでも自動車業界が分かりやすいですが、従業員に「これからわが社はガソリン車の生産を止めて、EVに変えるべきか?」と聞いたとします。もしかしたら「このままでいい」と言う人も出てくるでしょう。

つまり、従業員はそこまで強く求めないかもしれないけれども、経営者たちは株主から「変わらなきゃいけない」とものすごいプレッシャーをかけられている、ということ。それをいち早く理解して、うまく転換できた会社はサステナブルになっていく、と。

―ということは、「サステナブル人材」というのは、「どうして変わらなくちゃいけないんだ?」という従業員と、「変わらなくちゃいけないんだ」というプレッシャーを持つ経営者たちの間に立つ人なんですね?

そうです。「変わる」ことの転換を担う人なんです。

「サステナブル人材」が特に求められているのは企業。こうした人材はまず、長い目で見て物事を考えられるか、というのが必要な大きなスキルです。

そのうえでプロとして成り立つには、組織を動かせるかどうか。「なんでわざわざ変わらなくちゃいけないんだ」って言っている人に対して、未来を示して、理由を説明して、どう進むかという道筋を示して、転換を導ける人。

日本の組織ではサステナブルな活動が、この2年でようやく動き出したところ。しかし、実際には企業の内部はかなり混乱しています。

まず、どの部門がリーダーシップを発揮すべきかも決まらない。現状では、環境部門、経営企画部門、総務部門、法務部門、人事部門など、会社によって担当している部署は多様です。これから、サステナブル人材はたくさん求められるようになるでしょうね。

―専門家として「組織を動かす」というのはどういうことですか?

まず動かさなくちゃいけないのは、やっぱり経営者なんです。彼らに「なぜ変わる必要があるのか」ということを自分で理解をして、説明しなければなりません。

「国連や新聞がこう言っているから」と言ってもまったく説得力がない。「今、みなさんが前提としていることがことごとく崩れていきますよ」「新しい前提ですべての事業を組み立てないと、先はないですよ」ということを、組織の中の人たちが理解できる言葉で、リアルに説明する。

そして「変わろう」という気が出てきたら、今度はどのように具体的に変わっていけばいいのか、長期的な計画を作っていくというのが、次の大きなステップになります。

外部の長期予測データなどを徹底的に調べて、分析・研究して、自分たちは2030年、2050年にどういう姿になっているのか、これをかなりクリアにイメージできるところまで考えて作っていく。

長期計画ができたら、中期、3カ年計画……と、どんどん短い計画に落とし込んでいきます。

―サステナブルなものを新たに作ったり、既存事業をよりサステナブルにしていったりするには、どんなプロセスが必要なのでしょうか?

作るもの、作り方、運び方、売り方――変化はあらゆるところにおよんできます。

そこで必要なスキルを持っている人たちをどうやって採用するのか。今働いている人たちに将来も戦力になってもらうためには、なにをあらためて教育していかなくてはいけないのか。やることは本当に山積みです。

調達している材料が変わる場合などは、取引先にも変わってもらわなければならない。そうすると、取引先にも話しに行って、「なぜ変わらなければいけないのか」「変わるためにはどうすればいいのか」を伝えていかなければならないんです。

サステナブル人材の役割は、自分の組織を変えるだけでなくて、その会社を取り巻くあらゆる人たちに向けて説明することなんですね。

一般社員も長い目で見る練習を

―これまでまったくサステナビリティに携わったことのない人が多いのですが、営業や企画、人事など一般社員はなにから始めればいいんでしょうか?

やることは膨大ですが、まずは「興味のあることから」でいいんです。

サステナビリティと関わりのある分野で言えば、環境問題、労働問題、DX(デジタルトランスフォーメーション)……最初はまず自分が気になっていることからスタートして、それが2040年にどうなっているか、考えてみてほしい、と思います。

例えばDXだったら、自分の業界でデジタルテクノロジーをうまく活用して、事業の収益向上と社会的な課題の解決を両立している企業はなにから始めていて、どういうことをやっているのかということを、解像度を上げて調べてみる。

ネットで検索するだけでもある程度出てくるし、そういう本も今、わんさか出てきています。英語が苦手でない人は、ぜひ英語でも検索してみてほしいと思います。そこから知見を得て、はじめてなにをすればいいのかが分かります。

人事でも、例えば、会社や事業をサステナブルにしていくために、社員のスキル転換やリカレント教育がうまくいっている会社の事例とか、コロナ禍でも成功している事例とか、学ぶことはいっぱいあるんです。

―出発点としては、まさに「長い目で見る」ということなんですね。

それはものすごく大事ですね。長く見ないと、人は変化を感じないんです。1年1年で見ると、変化しているように感じない。だから、やり方を変えようとは思わない。

でも長い目で見て、例えば2050年に向けて日本の人口が半減することを前提にすると、「今のままではいけないな……」とはじめて考える。長い目で物事を見るためには、やっぱり「興味を持ったところから調べる」という作業をすることです。

そして、一度感覚を若返らせてほしいとも思いますね。

みんなだれしもが、小学校でできなかったことが高校生になったらできるようになった経験があると思います。でも、いつしか僕らは社会に出てから、「もう今のままなんだろうな」とか、「今から学び直してもなあ」とか、変な割り切りをしているんです。

ですから、もう一度あのころに若返って、「いや、自分次第でどんどん変わることはできる」という自信を取り戻してほしい。そういう気持ちを、30代、40代、50代の人も持つことが大事になった時代です。

―今の自分の仕事が本当に好きで、続けたいと思えていることも大事なんでしょうね。

今自分がやっている仕事を続けたいと思うかどうか。続けたいと思わないなら、あらめたてなにだったらやりたいのか。続けたいと思うなら、どうすれば持続可能にやり続けられるか。これを考え直すということが今、本当に求められていますよね。

サステナブルは「やったほうがいいですよ」というレベルをもう超えていて、本当にやれるかどうかが今、問われている。そこまで時代は変わってきているんです。

株式会社ニューラル 代表取締役CEO 夫馬賢治
サステナビリティ経営・ESG金融コンサルティング会社を2013年に創業し現職。環境省、農林水産省、厚生労働省の有識者委員会委員。Jリーグ特任理事。国内外のテレビ、ラジオ、新聞、雑誌で解説を担当。ニュースサイト「Sustainable Japan」編集長。ハーバード大学大学院修士(サステナビリティ専攻)。サンダーバードグローバル経営大学院MBA。東京大学教養学部卒。著書に『超入門カーボンニュートラル』(講談社+α新書)、『データで分かる2030年地球のすがた』(日本経済新聞出版)、『ESG思考』(講談社+α新書)など。

[取材] 岡徳之 [構成] 山本直子 [撮影] 伊藤圭

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