「権限委譲できない上司こそボトルネック」組織フェーズで使い分けるリーダーシップの4段階
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突然ですが、「理想のリーダー」と聞いてどんな存在を思い浮かべるでしょうか――。
世の中にはさまざまなリーダーシップ論があふれています。一つ言えるのは、強力なトップダウンで組織を統率する専制的なリーダーシップだけが、あるべきリーダーの姿ではないということ。では、自分が選択すべきリーダーシップ・スタイルは何なのか、企業の管理職にとって悩みは尽きません。
リーダー向けのコーチング習得プログラムを提供する株式会社コーチェット(CoachEd)代表取締役の櫻本真理さんは、「組織の規模」によって求められるリーダーシップ・スタイルは異なると指摘します。
スタートアップ初期は、高い業務執行能力を持った起業家がスピード感を持って推進するリーダーシップが有効ですが、組織拡大とともに業務執行志向性よりも権限委譲・育成力=人間関係志向性が求められるようになります。この移行で多くの起業家が失敗します
つまり、企業の創業期には「専制型リーダーシップ」が適しているものの、組織が拡大するにつれ、リーダーから部下へ権限委譲し、人材育成を進め、「相談型リーダーシップ」へ移行していく必要があるというのです。
今回は櫻本さんにこの「組織フェーズにおけるリーダーシップ・スタイル」について詳しく解説していただくとともに、企業の管理職に求められるリーダーシップとマインドセットについて検討していきます(写真は2020年4月7日撮影)。
権限委譲できないリーダーは、組織のボトルネックとなる
―櫻本さんのもとに相談を寄せる方の傾向として、マネジメントについてどういった悩みを抱えている場合が多いのでしょうか。
コーチェットではリーダーとして必要なコーチングスキルを身につけるためのプログラムを提供していますが、起業家の多くは大企業のようにマネジメント研修を受ける機会がなく、人を育てるためのコーチング的な関わり方についてきちんと学ぶ機会がありません。
彼らは若くて才能もあり、エネルギーにあふれているため、優れたサービスやプロダクト開発には能力を発揮しますが、組織拡大や人材採用といったマネジメントについても、プロダクト開発と同じように取り組んでしまいがちです。合理的に考え、データに基づいてPDCAをまわして……といったように、組織の課題と向き合ってしまう。
けれども当然、人は感情の生き物。思い通りにはいきません。「部下が期待するほど働いてくれない」「採用してもすぐに辞めてしまう」「組織崩壊を起こしてしまう」……つまり、起業家自身がプレイヤー的な役割から抜け出せず、組織のボトルネックになってしまうのです。結果としてプロダクトもサービスもクオリティレベルが上がらず、事業成長も伸び悩んでしまう。
人の力を生かし、育てることなしに組織は健全に成長することができません。組織を大きくしていくためには「育てる力」がもっと必要であると感じたタイミングで、コーチェットのコーチングプログラムを受講されることが多いようです。
―そういったリーダーが多いのはなぜでしょうか。
優秀なリーダーはやはり、最初は優秀なプレイヤーであることが多いですから、自分が成長したいという思いがあり、場合によってはその人自身の魅力が会社の魅力となり、サービスの魅力となっていることもあります。それがある種の成功体験として強固なものとなるのです。
ですから、人を採用したり育成したりするうえでも、自分と同じレベルで業務執行できる人を求めてしまう。あるいは「自分のコピー」ばかり集めてしまい、多様性に基づいた強い組織を作ることができません。自分だけの価値観に基づいて、それに合わない人材は「こいつは使えない」と判断してしまうから、なかなか権限委譲することができませんし、部下と信頼関係を築くことができないのです。
いまのように変化の大きな時代においては、新しい考え方や価値観を受容することが重要です。「これでうまくやってこれたから、これからもうまくいくはず」といった推測は通用しません。自分と異なる価値観を受け入れられず、変化しないことがリスクになるのです。
組織フェーズにおけるリーダーシップ・スタイルの4段階
―櫻本さんがTwitterで紹介されていた「組織フェーズにおけるリーダーシップ・スタイル」について、お教えいただけますか。
組織フェーズによって適切なリーダーシップ・スタイルは異なります。
- 第1段階:創設→専制型リーダーシップ
経営者、あるいは少数の創業メンバーが全権を握り、目標を共有しながら自然に協力し合う。強力に事業を推し進める専制型リーダーシップが有効。
- 第2段階:事業拡大→温情的専制型リーダーシップ
組織拡大とともに目標が全体に伝わりづらくなる。このフェーズにおいても専制型リーダーシップが有効だが、より目標を強調することが重要。
- 第3段階:プロフェッショナリゼーション(専門化)→参加型リーダーシップ
組織拡大とともにすべての意思決定を行うことが困難になり、相談型への移行が必要となる。経営者は安心して業務や権限を委譲できるマネジャーを育成する方法を学ばなければならない。
- 第4段階:コンソリデーション(整理統合)→相談型リーダーシップ
経営者の主な役割は、ビジョンや企業文化を明確にし、組織全体に広げること。意思決定の主体はマネジャーとなり、経営者はそれを踏まえて承認の判断を行う。
こちらの図解は、2001年に出版された『アントレプレナー・マネジメントブック』を参考に当社で作成したものです。
第1段階ではリーダーが意思決定を行い、他のメンバーはその意思に則り業務を遂行します。
第2段階でも基本的にはリーダーが意思決定を行いますが、あらかじめ決めた範囲内で部下に意思決定を委ねることもあります。その場合、リーダーが目標を明確に定めたうえで、部下の意思決定をサポートします。
第3段階では、重要な意思決定に部下も参加することがある。あるいは参加していると感じられるように意思決定に至るプロセスを共有して、場合によっては部下の意見を取り入れます。関連する人たちに「こうしようと思うけどどう思う?」と問いかけ、意見を集約したうえで最終的にはリーダーが意思決定を行います。
第4段階ではリーダーからマネジャーへ権限委譲が進み、意思決定の主体がマネジャーにシフトしていきます。リーダーがやるべき役割としては、ビジョンや企業文化を明確にすることで、マネジャーの意思決定がそれらに則ったものとなることです。
第1から第4段階まで、それぞれ売上高を記載していますが、これらはあくまで目安であって、どのタイミングでどのフェーズに当てはまるのかは組織や事業領域・外部環境によっても違います。
そして図表にある通り、特に第2段階から第3段階へ移行するにあたって、多くの起業家がつまずいてしまうハードルがあるのです。
―それはどういったハードルなのでしょう?
第2と第3の大きな違いとしては、意思決定のプロセスが変化し、マネジャーへの権限委譲が重要となってくる点です。
それまではリーダーが強いリーダーシップを発揮し、自らが意思決定を行ってきたか、あるいは優秀なメンバーを採用し、リーダーに匹敵するような意思決定を行ってきた組織が、このフェーズに差し掛かると、組織内で人を育てていかなければ、マネジャーの役職を埋められなくなってきます。
けれどもリーダーは自分の成長にはコミットできても、マネジャーの育て方を知りません。人が育つうえで重要なのは、試行錯誤して、失敗しながら成長していくプロセスです。ただ、強いリーダーは往々にして自分に匹敵するようなレベルを求めてしまい、失敗を許容できないのです。
一度失敗してしまうと「こいつはダメだ」と見切りをつけ、相手を信頼しなくなります。そうやって、権限委譲ができなくなってしまうのです。
「部下が仕事をしてくれない」と感じるリーダーに必要なマインドセット
―そのハードルを乗り越えるには、どうすればいいのでしょうか。
ここからは事業フェーズによらない一般論になりますが、「権限委譲ができない」問題を解決するには、自分と同じ水準を求めないこと。自分と比べないことです。部下の強みや弱みを理解し、その人の強みが生きる方法で業務に取り組んでもらうのが最もパフォーマンスも上がるはず。「自分よりもここが劣っている」と考えるのではなく、「自分とは違うこんな強みがある」と認識することが重要です。
最も避けるべきなのは、部下に権限委譲したものの、「やっぱりお前には無理だった」と仕事を取り上げ、その人だけの失敗体験にしてしまうことです。同じ失敗するにしても、最後まで任せたうえで、どんな失敗要因があったのか、何が足りなかったのかをフィードバックして再チャレンジの機会を与えたほうが、部下のリーダーに対する信頼感も上がります。
ピグマリオン効果という社会心理学の研究がある通り、上司の期待や信じる姿勢があるかどうかで、部下のパフォーマンスは違ってきます。「お前には無理だ」と声をかけ続けていると、「自分は能力が低い」「自分はできない」というセルフイメージが固定化し、「否定されるくらいなら」と、言われたことしかやらなくなってしまうのです。部下を信じて、思いきって任せる。そしてそれができるようになるまで寄り添い、支えるスタンスが重要なのです。
―とはいえ、部下に任せたものの、思ったように仕事をしてくれなかった。あるいは、やる気があるように見えず、パフォーマンスが低下していることはよくあります。それも上司として引き受けなければならないのでしょうか。
「部下が仕事をしてくれない」と感じるなら、そもそも仕事の与え方や指示の仕方、部下との関わり方が適切でない可能性があります。仕事の意味や意義を伝えておらず、部下がそれを理解していないから。あるいは本人のスキル不足や、本人の価値観に合っていないか、その人自身の心身状態が優れないかで、モチベーションが下がっているのかもしれません。
権限委譲するには、その人のレベルに合った仕事をしてもらうのが前提です。そのためには当然、部下の能力や強み、弱みを把握すること。部下のスキル、性格特性、価値観、目的意識……「相手を知る」のが重要となるのです。漠然と「部下が動いてくれない」と考えるのではなく、その状況をより具体的に考えて細かく切り分けること。
スキルが足りなければ、スキルをつけるサポートをするか、できることできないことを分けて、まずできることからお願いする。モチベーションが低く、やりがいを感じていないのなら、本人の価値観にマッチする仕事を与えるか、会社として大切な価値観を共有する。心理的なハードルを感じる障壁があるなら、それを取り除くサポートをする。モチベーションを失っているなら、目的を設定し、何のための仕事なのかを明確にする……。
そうやって、仕事ができていない状況をきちんと明らかにして、その対処策とセットで考えるべきです。
その際、重要なのは、リーダー自身が自分を知り、その価値観や考え方のクセを知っておくことです。自分だけの価値観に囚われていると、相手の考え方や行動原理を理解できず、「自分がこの年代ではこれができたから、相手もできるはず」「自分はこれでやる気が出たから、こうしよう」と、自分のやり方を押しつけてしまい、その人の良さを活かすことができないのです。
そういう意味では、最近の潮流として自分らしさを活かした「オーセンティックリーダーシップ」に注目が集まっていますが、相手の強みを活かすためにもまずは、自分の強みや弱みを理解する。「自分はこういう人間で、こういう特性がある」と、自己認識を高めることが重要です。
―ただ、そうすると「組織フェーズによって求められるリーダーシップは異なる」という考え方と矛盾が生じる気がするのですが……。
オーセンティックリーダーシップはある種のアンチテーゼというか、これまで専制型の「強いリーダーシップ」が良しとされてきた世の中の風潮に対して、その代案として広まってきたもの。ですから、リーダーシップ・スタイルの変化とも両立するものです。
例えば、第2段階から第3段階へシフトするにあたり、リーダー自身が周りに相談したり人を育成したりするのが苦手だと自己認識しているなら、それを得意とする人に任せればいいのです。何もかもを自分ひとりでやろうとする必要はありませんし、自分が変われない、自分は自分のままでいたいと思うのなら、チームとしてそれをフォローする体制を整えればいいわけです。
―確かに、「ビジョナリーなトップと、それを実務面でサポートするNo.2」のような体制はよく見られますね。
自分の足りない部分や弱みを認識していれば、チームとして適切な体制は取れるわけです。オーセンティックリーダーシップを追求しながらも、「自分のやり方を相手に押しつけない」「細かく口出しをしてマイクロマネジメントをしない」というのは、チームのパフォーマンスを高めるうえで大前提のことです。
ふさわしいリーダーシップ・スタイルを問いかけ続けることが重要
―リーダーが適切に権限移譲をするため、部下を知ることが重要となるなら、やはりそのコミュニケーションも重要ですよね。1on1に取り組む組織も増えてきましたが、その際に留意すべきことはなんでしょうか。
まずは1on1でも面談でもかまいませんが、コミュニケーションの数を増やすことは意識しておいたほうがいいでしょう。
その際重要なのは、相手の話をしっかりと聴いてその背景を想像し、受け入れるスタンスを持つことです。起こりがちなのが、1on1のような場面で相手の話を聴くのではなく、自分の持論を押し付けたり、プレッシャーをかけたりしてしまうこと。そうなると部下は上司に話を合わせてしまって、本心を伝えることができません。心理的安全性を担保したうえで、その人の苦しみや課題、悩みを安心して話せる関係性を築くことが、コミュニケーションのベースになります。
特に専制型リーダーシップに長けた人は、持論を持っているときに「それは違う」と相手をすぐ否定してしまいがちです。では、どんな前提条件が揃えば、そのやり方を正当化できるのか。部下が結論を出すにあたって、何が見えていて何が見えていないのか。「こういう考え方もあるけど、どう思う?」と問いかけることで、お互いに見えていないものが見えてくるはずです。
リーダーが相手の大切にしている価値観や考え方を尊重し、気づかなかったことに気づけると、リーダーにとっても部下にとっても可能性が広がり、可動域が広がります。それこそが人の成長というものです。
―リーダーシップ・スタイルの変化を見ていくと、そこで求められる部下の役割も大きく異なります。その点もコミュニケーションのなかで共有しておく必要がありそうですね。
当然、部下側にもマインドセットが求められます。権限委譲される側として、自分が任されているのはどんなことか、どの範囲でどういった成果を求められているのか、コミュニケーションで明らかにしておくことが大切です。そこに齟齬があると期待値のギャップが生まれますし、結果が伴いません。
そもそも、自分ができない可能性の高いことを任されていたり、能力にそぐわなかったりするのなら、きちんとそれを上司に伝える。「自分はこれが苦手で、これが得意だ」と自分を知ってもらう努力をすることで、自分に合った課題を認識してもらえるのです。
部下の多くは「上司は変わらないもの」として、自分は無力だと感じてしまいます。「言ってもしょうがない」と諦めて、不満や悪口を陰でこぼす。もちろん、上司のスタンスを変えるのは難しいことですが、自分がコントロールできることに集中するのは可能なはずです。
例えば、自分が任された仕事のうち、少なくとも自分のできることに関しては集中して結果を出す。上司との関係性がうまくいかないなら、上司以外との関係性を築いておく。受け身のまま、自分で考えるのを止めてしまえば、自分自身の可能性を狭めてしまいます。「どうせ」と思わず、自分ができることを探し、主体的に取り組む。そうすればできることも増えていきますし、キャリアの可能性も広がっていきます。
―上司の立場からすると、「自分の希望ばかり言う前に、先にこれくらいできるようになれ」と言ってしまいたくなりそうですが……。
これは上司と部下のどちらかが我慢するというより、あくまで対話の話です。会社としてやるべきこと、目指すべき目標があり、そのなかで個人がどう活躍するのか。会社やチームが目指していることと個人が目指していることをすり合わせて最大化するのが、結果としてパフォーマンスにもつながります。
上司が部下の要求や希望をすべて受け入れようとすると難しいでしょうが、会社や上司が持っている前提条件を明らかにして、「こういう条件が整えば、あなたの希望を聞きたい」と伝える。対話を通じて、会社と個人がいちばんハッピーになれる着地点を模索する。そうすればどこかで合意には至るはずです。
一つ、リーダーシップ・スタイルの移行について、大企業ならではの留意すべき点を付け加えるとすれば、組織やチームの規模だけでなく、その目的や事業領域でも考えたほうがいいということでしょうか。
例えば、目指すべき目標が明確で、着実に数字を積み上げる必要があれば、第2段階の温情的専制型リーダーシップがいいでしょうし、新商品開発や新事業の立ち上げとなると、第3段階の参加型リーダーシップがふさわしいでしょう。
あるいは、事業フェーズでも異なります。事業がどんどん成長しているときは第4段階の相談型リーダーシップで、現場に任せてスピード感を持って推進したほうがいいでしょうし、外部環境が厳しく、急激に売上が落ち込んで、立て直しを図らなければならないときは、第1段階の専制型リーダーシップで、厳しい判断や意思決定をトップダウンで行うべき場面もある。
ですから重要なのは、どの場面でどのリーダーシップを発揮すべきなのか、リーダーはつねに客観視して自覚的であろうとすることです。事業が成長フェーズなのか衰退フェーズなのか。あるいは部下がまだ未成熟なのかプロフェッショナルが多いのか。リーダー自身の適性によっても違います。
そういう意味でリーダーシップとは、置かれた状況や環境に対して、課題は何か、必要なものは何か、発揮されるべき力は何かと、常に問いつづけ、答えを紡ぎ出していく姿勢のこと。柔軟性を持って、選択肢や変数を把握したうえで、チームとしての正解を導くことなのだと思います。
株式会社コーチェット(CoachEd)代表取締役 櫻本真理
1982年生まれ、京都大学教育学部卒。モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券にて証券アナリストとして勤務、退社後複数のスタートアップやプロジェクトに携わる。2014年5月にオンラインカウンセリングサービスを運営する株式会社cotree、2020年1月に人を生かすリーダーを育てる株式会社コーチェットを設立。NPO法人Soar理事、株式会社CAMPFIRE社外取締役。
[取材・文] 大矢幸世 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭
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