進む日本人ビジネスパーソンのガラパゴス化。リンクトイン村上臣にグローバル視点のキャリアアップを聞く

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日本経済の先行きが不透明な中、キャリアの選択肢を国外にも持っておきたいと考えるビジネスパーソンは増えているかもしれません。
けれども、いまのままだと日本人の多くは世界の労働市場で取り残される可能性が高い。ガラパゴス化しているのは日本製品だけじゃない。日本人ビジネスパーソンも同じなんです
そう語るのは、世界最大のビジネスSNSを運営するリンクトインの日本代表・村上臣さん。村上さんは、日本と海外とでは労働観や学び直しの考え方に大きなギャップがあり、そのことが、グローバルな視点で見た日本人のキャリアの可能性を阻んでいると指摘します。
「日本人ビジネスパーソンのガラパゴス化」とはどういうことで、そこから抜け出し、世界を舞台にキャリアアップしていくにはどうすればいいのか、詳しくお話を伺いました(写真は2018年4月11日撮影)。
入社したが最後、自分のキャリアについて考える機会がない
―「日本人ビジネスパーソンのガラパゴス化」とはどういうことでしょうか?
よく言われることですが、日本の正規雇用は伝統的にメンバーシップ型の雇用体系であり、終身雇用に近い長期労働契約に基づいて働いている人が多いです。近年は徐々に流動性が出てきていますが、それでも新卒で入社してから、平均して10年以上勤めているというデータがあります。
なにが問題なのかと言えば、まず、自分のキャリアについて考える機会が新卒の時にしかありません。
新卒の時は皆さんいい会社に入ろうと思って、自己分析をしたり業界研究をしたり、自分のキャリアのスタートについて必死に考える。でも、一度会社の中に入ってしまうと、基本的には人事のガイダンスに沿うことになり、自分の意思が反映されない。自分のキャリアが手元からポーンと離れてしまって、人まかせ、会社まかせになってしまうんです。
最近の学生の間では「配活」という言葉もあるくらいで。就活が終わると内定者で集まる機会が何度かありますが、希望する部署に配属されるために、人事に対して「わたしはこれがやりたい」とアピールするのだそうです。
でも、1年後に希望通りに配属される人もいれば、されない人もいる。もちろん、希望通りにならなかった場合にも、配属された先で頑張っていれば次のチャンスは来るでしょうが、それは早くて2、3年後。いまの時代感からすると、2、3年は長いです。特に若い人はそう思うはず。第二新卒のマーケットがこれほど大きくなっているのは、その表れと言えるでしょう。
もう一つの問題は、それぞれの会社ごとに出世コースなり育成のトラックなりがありますが、それが必ずしも市場を反映していないことです。
その会社の中でいいとされるスキルを身につけ、経験を積んでいったとして、それが市場での価値と連動していればいいのですが、往々にして社内でしか通用しないスキルがついていく。だから、いざ転職活動を始めようと思っても、市場からは全然認められないということが起こります。
これは会社からすると都合がいい。なぜかと言えば、外に出られないから。ある意味でロックインの効果が働くわけです。
まとめると、まず自分のキャリアについて自分で考える機会がない。また、外の市場と自分を比較する機会もない。この二つが「ガラパゴス」と言われていることの中身ではないでしょうか。これは昔から起きていることですし、現在進行形でも起こっているのだと思います。
―キャリアに自分の意思を込めているか、込められる環境かという点で、欧米とは異なっている?
そう思います。平均勤続年数で比較すると、日本がだいたい12年と言われるのに対して、アメリカは4、5年と3倍近い開きがあります。ただ、これはアメリカが極端に流動性が高いのであって、例えばイタリアやドイツは8〜10年。日本だけが特別に長いわけではありません。
一番の違いはやはり、ジョブ型かメンバーシップ型かという雇用体系の違いです。日本は「総合職」という言葉に象徴されるように、会社のメンバーになるという契約の仕方がまだまだ主流です。解雇規制などいろいろなものに守られていて、いきなりクビにならない反面、自分の意思を込めにくいし、合わなかった時に動きづらい。
一方、ジョブ型の場合はやることが明確だから、自分が選んだ専門職の中でキャリアを積んでいきます。そして、社内にいいポジションがなければ、類似のポジションを外に探しに行くのも当然の動きです。会社の側もそれをネガティブには捉えません。次のポジションが用意できない場合は、外に行くのはお互いにとってハッピーだという価値観になっている。
例えば、マーケティングを専門とするマネジャーが次のステップとしてシニアマーケティングマネジャーになろうと思っても、担当している地域によっては、そこまで人が必要ないというケースもあります。その場合は、同じようなポジションがほかの会社で空いていればそちらへ移り、また戻ってくるというのが普通のこと。日本のように、転職したら裏切り者、出禁という文化はまったくありません。
スキルアップしたい需要はあるが、供給との間に大きなギャップ
―キャリアアップ、キャリアチェンジするにはスキルを伸ばす必要もあります。学び直しについての意識や方法についても日本と海外とでギャップがありますか?
わたしの知る範囲なのでアメリカの話が中心になってしまいますが、アメリカには「サバティカル」と言って、学び直しのためにあるタイミングでまとまった休みをとる文化があります。もしくは転職の時に2、3カ月のバッファをとって、その間に短期のビジネススクールに行ったり、1、2週間から1カ月程度の大学の社会人向けコースを受けたりすることが一般的かと思います。
彼ら彼女らがなぜ自分のスキルをアップデートすることに積極的かと言えば、それが確実に収入アップにつながるという意識があるからです。「市場がこういうものを求めているから、これを身につければ給料は上がるはずだし、ポジションも上がるはず」。そう考えてスキルアップに取り組むのです。
対して、日本の場合はまず、大学のような教育機関が論文重視の文化なので、民間企業との距離がすごく遠い。また、ビジネススクールなどにも最低1年の週末フルコミットが前提といったコースが多いから、ハードルが高いんです。
しかも、それをやったところで本当に給料やポジションのアップにつながるという実感もない。例えば、「いまは営業職で、いずれ経営方面に行きたいからMBAを取得する」というように、完全なる異業種にチャレンジしようという人は頑張れるでしょう。それは、やれば収入が上がると分かっているから。そうでなければ、大きな時間とお金を費やして学ぼうとは思いにくい環境にあります。
我々も独自で調査をしたことがあるのですが、学びたいと思っている人自体は日本にも多いんです。スキルをつけたい、学びたいというのは、社会人としてしたいことのトップスリーに必ず入ります。需要はある。でも、供給との間に大きなギャップがある。すごくもったいない状況になっています。
一方、社内に学びの機会が十分にあるかと言えば、人材教育に投資をしている大手企業もあるにはありますが、全体で見るとそこまで一般的ではないかもしれません。スタートアップは福利厚生の一環で書籍代を出したり、外部のコースを受講するのに補助したりということをやっていますが、これは、大企業にないものを提供することで人を引っ張ってこようという戦略でしょう。
日本の大企業に根強くあるのが、「お金をかけて研修したところで、彼ら彼女らが転職してしまうのではないか」という考え方です。そこに大きなマインドシフトが必要なのではないでしょうか。
本来、社員のスキルに投資するのは当たり前のことだと思います。人材に投資しなければ、現業の生産性も上がらないし、イノベーションだって起きない。投資した先で、スキルをつけた社員が転職するかどうかは個人の自由です。企業がいいタレントをつなぎとめておきたいと思えば、努力する以外にない。組織と個人は本来、このようにフェアな関係であるべきです。
どうしても昭和の名残の「鉄の契り」というか、「勤め上げたらお前の家族共々面倒を見るから、若いうちは我慢しろ、歯を食いしばってついてこい」という考えが残っている。もちろん、終身雇用でちゃんと面倒を見切れるのであれば、これはこれで良かったのですが、いまは会社側が「それも重くて支えきれない」となっている。
だとしたら、一回フェアな形を作り直さないといけないですよね。生涯面倒を見ることが前提でできているいまの人事制度・教育制度・給与制度・評価制度などは、すべて見直す必要があるはずです。
現状は、部分的にはグローバルの真似をしながらも、別のところでは昭和のまま。デコボコしていて、ちらかっている印象が否めません。すべてをゼロベースでもう一度引き直した時、ようやくグローバル標準の形に近くなると、わたしは思っています。
動けば機会が拓けていく。まずはSNSのプロフィールを埋めてみる
―お話いただいたようなガラパゴスな環境が残る現状では、世界市場で日本人は不利な立場に立たされることになりますよね?
確かにそうなんですが、その前に、日本のビジネスパーソンの多くがどれだけ本気で外に向けてチャレンジしたいと思っているのかが、わたしにはよく分からないところがあって。案外、結構な人はいまのままでいいと思っているのでは。「いろいろと文句はあるけれども、サラリーマンである以上は仕方がない、給料は毎月振り込まれるし」というような。
ただ、これからの時代、自分が動かなくても会社が変わってしまうということが起こり得ます。一番分かりやすい例は、外資に買収されることです。自分のキャリアを自分で考える癖をつけていないと、自分の意思とは関係なくこうしたことが起きた時に、対応が遅れてしまいます。
例えば、今回のコロナの影響を受けて、当分大丈夫だと思っていた会社が突然潰れて、市場に放り出されてしまうかもしれない。あるいは外資系企業に買収されて、翌日からはグローバルスタンダードの働き方を強いられるかもしれない。そうなった時に、そのまま会社に残るのか、それとも外へ出るのか、どちらの方向に行くと自分が幸せになれるのかを判断するためには、日々そのことについて考えていないといけない。
だから、まずはそれまで会社まかせにしていた自分のキャリアについて、もう一度自分のほうに引き戻して考えてみてほしいと思います。幸か不幸か、いまは在宅勤務で時間ができた人もいるだろうから、通勤がなくなったぶん、自分自身に時間を投資してみたらいいのではないでしょうか。
―キャリアの棚卸しをしてみる、ということですね。
リンクトインのプロフィールを埋めてみるというのは、振り返りのいいチャンスになると思います。
いわゆる人材紹介会社の人と話していてよく聞くのですが、一番多い相談は「職務経歴書を書いたことがない」ことなのだそうです。「転職を考えてます」と言って相談に来た人に「じゃあ職務経歴書を持ってきてください」と言うと、「どう書けばいいんですか?」となってしまう。
だから、一回新卒時代を思い出したほうがいいんですよ。皆さん必ず一度は志望する業界の業界研究などをやっているはずで。同じことをいまやってみたらどうか、と。10年も働いていれば、自分のいる業界のいいところも悪いところも分かるはずだから。自分のいままでやってきたことを振り返ってみて、その延長線上、近未来にどういうものがあるのか想像してみる。
そのメモ代わりに、リンクトインのプロフィールをぜひ活用してもらいたいんです。我々はプロフィールに入っている経歴やスキルの情報に応じて、いろいろな情報をレコメンドしています。入っている情報が正確であればあるほど、有益な情報を提供できる可能性は高くなります。
例えば、ぼくは前職がヤフーなので、「ヤフーにいました」と入力しておくと、我々のシステムは「IT業界の経験がある人」として認識します。そうすると、「この人とつながるといいのでは?」というお勧めも、近い業界にいる人、近いスキルを持っている人、エンジニアであればエンジニア周りとくっつけようとする。そうやっていろいろなプロフェッショナルなコミュニティに参加してもらうように我々はプロダクトをつくっています。
こうして新たにつながった人が、ある種のロールモデルになります。プロフィールを見るだけならタダですから、「この人はこういう経歴を経ていまに至るのか」ということが分かりますし、それがあまりに面白ければ、メッセージを送って「話を聞かせてください」と言うこともできる。
私はいま、学生にキャリアアドバイスを求められる機会が多いのですが、学生であれば学校名を入れておけば、OBOGとつながりやすくなりますし、メッセージを送れば皆さんだいたい会ってくれます。そこから、もともとは募集のなかったインターンに入れたという人もいます。
そうやって自分で動くことで、いろいろな機会が拓けていく。社会人だって同じで、こういうやり方こそがこれから必要になるマインドセットだと思いますし、スキルだと思います。
日本人は世界でトップレベル。視野を広げれば、可能性も広がる
―そうやって意識を変えていけば、日本人にも世界で活躍できる可能性がありますか?
一般的に言えば、日本人のスキルは全然低くないと思います。エンジニアにしても、よく「シリコンバレーのエンジニアはすごいが、日本のエンジニアはダメだ」という風潮があると思うのですが、わたしの感覚だとまったくそんなことはない。レベル感としては一緒か、少し高いくらい。基本的なスキルの高さは世界でもトップレベルだと思います。唯一ネックになっているのは英語だけ。それ以外は遜色なく、どこの国でも活躍できると思いますね。
英語ができないというのも、先ほどの「どこまで本気で外に出たいと思っているか」という話に尽きると思います。日本は内需が豊かなので、皆さん、基本的には日本から出る必要性を感じないのでしょう。
一方で内需が十分にない国は、例えばイスラエルなどがいい例だと思いますが、働くために外に出る、あるいはネットを使って外から仕事を取ってこないと生きていけない。だから最初から「世界のどこで、どうやって働くか」という発想になっています。こういうマインドセットになれば、日本人だって自然と英語に取り組むでしょう。そこまでの必要性を感じていないからできないのだと思います。
―村上さんが英語を身につけたのも必要に迫られて?
わたしはもともとエンジニアだったから、英語のドキュメントを読むこと自体は、辞書を引きながらではあるものの、当時からあまり問題ないレベルでした。一方、会話に関しては、シリコンバレーのベンチャーなどとやりとりをする時も、基本的には通訳に手伝ってもらっていました。
スキルを急激に伸ばしたのは、孫さんの後継者という触れ込みでニケシュ・アローラが会長になった2014年ごろ。当時自分はモバイルの責任者だったので、毎週のように呼び出され、戦略議論に付き合わされていました。すごい応酬があるので、通訳を入れていては会話にならない。「これはやばいな」と思ってレッスンを毎週受けることにしたんです。必要に迫られて必死になって取り組んだ、この2、3年くらいでスキルがジャンプアップした経緯があります。
現状、大多数の人は仕事が日本に閉じています。日本語で、日本市場を相手に仕事をしている人が非常に多い。でも、今後は状況が変わります。
日本において起こるのは、まずはやはりインバウンド。他国に比べて内需は豊かで、GDPは3位のままだから、その市場に魅力を感じる国外の会社は引き続き多いし、日本で働きたいという人も増えてきます。
ビジネスがグローバルにつながると、日本国内で働いていたとしても、英語圏の情報に疎いことがビハインドになるということは誰にでも起こり得る。例えば、最新の経営理論はまず英語で論文が出て、それが英語で本になり、日本語化されるのは2年後です。英語で一次情報に当たれないというのは、時間という意味で2年のビハインドになるわけです。
―ただ、そうやってある日突然、必要に迫られて変化するのはしんどいですよね。
そうでもしない限り変わらないという話はありますが。その前に変わろうと思うなら、視野を広く持つことではないでしょうか。
言語の問題で言えば、日本語を話せる人は世界的にも増えています。日本に働きに来て日本語を覚える人もいるし、アジアの学生には第二外国語で日本語を取っている人も結構多い。海外に出て、彼らと日本語で仕事をするという選択肢だってある。
日本では陳腐化したけれども、外ではまだまだ通用するスキルがたくさんあります。代表的なところで言えばエレクトロニクス。国内では枯れた電子機器の技術も、隣の国の工場では活かせるかもしれない。例えばインドやバングラデシュに行けば、日本ではもはや使わないような機械を現役で使っていて、そのメンテナンスや生産ラインを設計できる人を工場長クラスで求めています。
視野を広げ、世界規模で自分のスキルをどう活かすかと考えれば、例えばそういった形でハマる可能性がいたるところにある。視野をどう持つかで、行動も変わっていくのではないでしょうか。
LinkedIn カントリーマネジャー(日本担当) 村上臣
大学在学中にITベンチャー有限会社電脳隊を設立。電脳隊がその後統合された株式会社ピー・アイ・エムとヤフー株式会社の合併に伴い、2000年8月にヤフーに入社。エンジニアとして「Yahoo!モバイル」「Yahoo!ケータイ」などの開発を担当し、同社のスマホシフトに大きく貢献。2012年より4月より執行役員兼CMO(チーフ・モバイル・オフィサー)としてヤフーのモバイル事業の企画戦略を担当し、「爆速経営」にも寄与。2017年11月にリンクトインの日本代表に就任。
[取材・文] 鈴木陸夫 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭
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