「世界一ダイバーシティな会社」アクセンチュアに聞く、居心地よく・成果を挙げるチームの作りかた

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多様なバックグラウンドを持つ社員が、独自の視点、アイデア、経験を企業に持ち込むことで、問題に対するイノベーティブな解決法が生まれたり、効率的な経営が可能になったりするメリットが指摘されています。

そんな中、ダイバーシティな人材採用、組織開発を通じて成果を上げているのが、コンサルティング会社のアクセンチュアです。リフィニティブ社が算出する「ダイバーシティ&インクルージョン・インデックス」で2年連続、世界第一位に輝きました。

多様な人材を惹きつけ、活躍してもらうためには、どんな心構えが必要なのでしょうか――アクセンチュアで「インクルージョン&ダイバーシティ」の推進に携わる執行役員の堀江章子さんにお話を伺いました(写真は2020年1月15日撮影)。

「機会均等」と「正当な評価」がカギ

―昨年9月にリフィニティブ社が発表した「ダイバーシティ&インクルージョン・インデックス」に基づく「企業ランキング・トップ100」で、御社は2年連続トップになりました。

そもそもグローバル企業なので、さまざまな文化的背景を持った人がいますし、昨年9月にはジュリー・スウィートという女性がCEOに就任したほか、障害者やLGBTの方もいる中、誰もが自分らしく働ける職場環境づくりに注力しています。

私たちのコアバリューには「Respect for individual(個人の尊重)」というのがあって、性別や障害の有無、あるいは新卒入社か経験者採用かといった違いに関係なく、「一人ひとりを尊重する」という姿勢を大切にしています。

グローバルだけでなく、日本のアクセンチュアでも「インクルージョン&ダイバーシティ」の推進に向けた目標を設定し、社員の多様化に向けた取り組みを進めています。

新しい取り組みの例を挙げれば、ロジカル思考に長けたコンサルタントと、顧客体験を設計するのが得意な広告会社出身のデザイナーが一緒にチームを組んでお客さまにサービスを提供するなど、異なる強みを持った社員がコラボレーションして新たな価値を産み出す機会が増えています。

20年前のようなコスト削減や業務効率化などを主眼とした純然たるコンサルティングからは業務内容も変わってきており、今はAI(人工知能)やIoT、デザイン思考などを活用し、お客さまと一緒に今までにない製品やサービスの創出を目指すことも多くなっています。そのためには多様な人材を受け入れながらビジネスに生かしていくことが必要になってきているんです。

―事業的なニーズが多様化する中で、明確な目標を持って「インクルージョン&ダイバーシティ」を推進してきた、と。

毎年12月には国連が定める「国際障がい者デー」に合わせ、国内の各拠点で働く障がいのある社員を集め、相互理解やネットワークを目的としたイベントを開催
毎年12月には国連が定める「国際障がい者デー」に合わせ、国内の各拠点で働く障がいのある社員を集め、相互理解やネットワークを目的としたイベントを開催

アクセンチュアの取り組みの前提にあるのが、前CEOのピエール・ナンテルムが提唱した「getting to equal(平等になること)」という、どんな立場の人にも同じ機会を与えることを目指す考え方です。

そのうえで、例えば男女については「そもそも、世の中には男女の数が半々なのだから、管理職の比率も半々を目指すべきでしょう」という、日本の現状からするとかなりハードルの高い目標をグローバルレベルで設定し、日本でも掛け声倒れにならないように取り組みを進めています。

そのために、同じように仕事ができて、同じように成果を挙げている男性と女性がいたときに、女性のほうが昇進のタイミングが遅れるというようなことがないようにしているほか、同じようなスキルを求められるときに、「女性だから任せられない」といったようなことがないよう、同じ実力の人同士が平等な機会を得られるように努めています。

例えば、出産などのライフイベントによって、どのぐらい育休を取得するかは個人によって異なりますが、アクセンチュアでは仮に育休などで長期間不在にしていたからといって、復職時に一つ下のポジションの仕事を任せることはありません。また、一定の評価基準を満たしているのに、長期間休んだことを理由に昇進できないということもないようにしています。ライフイベントは男女ともにあり得るし、男性でも育休を取る人はいます。これは女性に限った話ではありません。

さらに、育休明けに時短勤務を希望する場合も、働いている時間が短いから評価がマイナスになるということはありません。役職を問わず、短い時間で3倍の成果を出す人もいるので、あくまで単位当たりの業務の品質を見るようにしています。

とはいえ、実際に上司の主観だけで判断されることのないよう、「評価会議」という場を設けて各人のパフォーマンスを丁寧に評価するようにしています。

アクセンチュアでは「タレントディスカッション」と呼ばれている形式で、評価者(上司)が集まって議論します。直接一緒に仕事をする上司と、長期的なキャリア構築をサポートするカウンセラーが2人でインプットしますが、2人のインプットにずれがあった場合、「現場ではこうだった」とか、「この人の長期的なポテンシャルはこうだ」とか、いろんな事情を考慮して、みんなで総合的に考えます。

評価は数値に現れる部分と品質に現れる部分があり、絶対評価ではありますが、評価者によって揺れが生じないように心がけています。例えば、「AプロジェクトのAさんとBプロジェクトのBさんは同じ仕事をしているけど、どちらの内容が難しいか」・・・・・・などの観点からも検討しながら、それぞれの評価をきちんと精査します。

「モノカルチャー」は成長を阻害する

―一方、日本企業の中には多様化が進まないところもあるようです。

性別に関することでいうと、例えば、組織内で「女性の管理職候補を増やしましょう」という議論になったときに、「女性にそんな難しい仕事を無理にやらせなくてもいいんじゃない?」といった反対意見が出ることがあります。たとえ発言者本人は、相手を思いやった優しさから出た言葉だと思い込んでいても、これは「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」から出た発言であり、こうしたことを取り除くことが欠かせません。

そのために必要なのは、誰もが持っている無意識の偏見をなくすことではなく、まず自分にも無意識の偏見があるということを認識させる機会をつくることです。自分と同様に、相手もその人なりの物差しを持っているーーそうした前提を相互に認識し、受け入れることが必要です。

アクセンチュアでは管理職向けに「アンコンシャス・バイアス」の研修を実施していますが、最近は大企業を中心にそうした取り組みを進める会社も増えてきたようで、日本企業にも多様性を受け入れる土壌ができつつあるように思います。このほか、女性の管理職を増やすには、経営陣の男性が変わらなければなりません。「女性の活躍を推進するのだから、女性が頑張ってよ」という女性任せの態度では、うまくいかないと思います。

アクセンチュアにも経営陣の意識を変えるための「過渡期」はあったんですよ。昔、グローバルの外国人女性管理職が日本オフィスに来訪したとき、日本の経営陣が「女性の幹部候補がいないんだ」と嘆いたところ、「それはあなたたちの頭が固いからだ」と、意識変革を強く求められたことがあったと聞いています。

今ではどこの部門にも女性のマネジング・ディレクターがいますし、責任ある立場の女性で、成果を挙げている人はたくさんいます。「女性が活躍することによってメリットがある」と思えるかどうか、というのは大きいと思いますね。

コンサル業界はフルタイムでバリバリに働いてきた人が上に上がる、体力勝負の世界というイメージを持たれますが、男性社員の中には、「昔だったら自分は育休を取れなかったけど、今だったら育休を取っている・・・・・・」といった人も増えてきていますよ。

今はAIなども導入しながら効率的に成果を上げられるようになっているので、ハードワークじゃないと偉くなれないということはありません。テクノロジーの導入によって、例えば調査作業にかかる時間や効率は、昔と今では全然違いますね。

―「単一の目的をスピード感を持って達成するには、モノカルチャー(単一の組織文化)のほうが速くてコストがかからない」という見方もあります。

考え方はいろいろあるでしょう。でも、多様性に「制約」を置くことによって、会社の成長に上限が設けられてしまうのではないでしょうか。

高度経済成長期の「専業主婦と働く夫と子供2人」で構成される家庭が多かった時代では、似たような価値観を共有した男性社員がひたすら働き、同じ目標に向かって突き進むような「モノカルチャーの会社が成長する」ということがあったかもしれませんが、今の時代は単身の人もいれば、ご夫婦でも子供がいないケースもあるし、社会全体の多様化が進んでいます。

そんななかでは、異なる価値観や才能を持った人びとに働いてもらうことによって、多様でスケールのある仕事ができると思います。実際、アクセンチュアが2019年に発表した調査でも、多様性と平等の両方を備えた企業のほうがイノベーション創出に前向きな社員が多いことが分かっています。逆に、組織における多様性を狭めてしまえば、そうした優秀な人材から「選ばれる会社」になれませんし、結果として会社の成長にも制約がかかってしまうかもしれません。

ダイバーシティは「管理職にとっても居心地がいい」

―「多様性を認めなさい」という風潮の強い世の中で、どんな人にも対応できなければならない・・・・・・とプレッシャーを感じている管理職の方もいるようです。

「自分とは合わない」「嫌なものは嫌だ」と個人では思うのは自由ですが、仕事でチームとして動く場合は、あえてそうした発言を表に出さないですよね。それを口に出してしまうと、インクルーシブじゃなくなって、誰もが働きやすいカルチャーではなくなってしまいます。

会社によっては「ダイバーシティ&インクルージョン」と言っていますが、アクセンチュアでは「インクルージョン&ダイバーシティ」と言っていて、「インクルージョン」のカルチャーを特に大切にしています。みんな違うのは当たり前と認め、受け入れた上で、その違いを活かしていく、ということ。

身体的特徴やその人の属性・主義主張に関わることで相手を傷つけても構わない・・・・・・というのは公平ではありません。そうした違いには触れずに、「そんな考え方もあるね」と、仕事とは別の話として認識しながら、「インクルーシブにやりましょうね」というマインドセットは大事だと思います。

アクセンチュアはグローバルで社員が約50万人いるので、考え方も50万通りです。だけど、それを許容して一つのチームとしてやろう、ということですね。

―その考え方は上司・部下間のコミュニケーションにも表れますか?

そうですね。違う者同士、「〇〇さん」と呼び合って、フラットな感じで仕事をしています。

それに、オープンディスカッションもすごくします。「Talk Straight(率直に話す)」というのがアクセンチュアのベースカルチャーにあり、立場に関わらず「これどうなんですか?」と率直に聞ける土壌があります。聞かれたほうは、たとえ初歩的な質問であっても、「こんなことも知らないのはおかしい」というような対応はせず、質問にしっかりと向き合い、答えることが求められています。

また、相手をリスペクトするのが基本なので、ダイバーシティだからといって好き勝手にやっていいというわけではありません。フェアネス(公平)とか正当性があるかは常に意識していて、人によって与えられる権利が違うような状況は絶対に作らないようにしています。

―他の企業の人が、御社のような「インクルーシブ」で「フラット」で「フェアネス」な文化やマインドを育むためのポイントはなんだと思われますか?

そうですね、社員目線で言えば、「違い」として目に見えるのは氷山の一角で、価値観やキャリアに対する考え方、家庭の事情など、むしろ目に見えない違いの方がずっと多いということをまず理解することです。その上で、「自分自身もダイバーシティを構成する一員である」というマインドセットを一人ひとりが持つことが大事ではないかと思います。

また、経営目線で言えば、「平等で多様性のある企業文化を作り上げることは、企業やそこで働くすべての人にメリットをもたらす」ということを経営層自らが正しく理解し、経営層自らが組織風土をよりオープンに変えていくことが大切です。アクセンチュアがこのほど世界28カ国で実施した調査レポートによると、「カルチャー・メーカー」とよばれる職場での平等実現に取り組んでいる経営層がリーダーシップを発揮している企業では、女性社員の採用や定着が進んでいることが分かっています。

また、この調査では、こうした「カルチャー・メーカー」になる経営層には、以下の3つ資質が大事だと提唱しています。

  1. リーダーとしての強い信念と覚悟:経営層は企業文化の重要性を信じ、覚悟を持って最優先で取り組むこと
  2. 理解に根ざした言動:社員の生の声を丁寧に拾うコミュニケーションを推進すること
  3. 誰もが活躍できる環境づくり:社員を励まし、次世代のリーダーにチャンスを与えながら若手を育成すること

アクセンチュアでも、特に経験者採用で入った管理職の社員にとっては「ダイバーシティ、ダイバーシティ」と言われると、初めは戸惑いを覚えることもあるようです。しかし、組織に馴染むにつれて、ダイバーシティが豊かであることは管理職にとっても意外と居心地がいいことが理解されると思いますね。

まず自分がチームにスムーズに入っていけるし、自分が今までやってきたことも許容されることが分かってきます。そうすると、自分も「ダイバーシティ」を担う一部として、インクルージョン、受け入れられていると感じられれば、より活躍できるのではないでしょうか。

その結果として、「会社が楽しい」と感じてもらい、社員一人ひとりが会社に帰属意識を持てると、組織はより強くなれます。ダイバーシティの推進を通じ、誰にとっても居心地のいい職場環境を作ることができれば、みんながさらに活躍し、イノベーションや成長を加速することができると信じています。

アクセンチュア株式会社 インクルージョン&ダイバーシティ統括 執行役員 堀江章子
1993年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、アクセンチュア入社。1999年にマネジャー、2007年にマネジング・ディレクターに就任。金融各社の業務管理システムの構築、事業拡大・営業強化の支援などを担当。2016年よりアジア・パシフィック地域の証券グループを統括。2014年からはインクルージョン&ダイバーシティ統括 執行役員を兼任。能力や年齢、国籍や宗教、性別、LGBTなどの背景に関係無く多様な人材がリーダーとして最大限の力を発揮できる組織作りに尽力している。

[取材] 大矢幸世 [文] 山本直子 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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