会社は真面目に経営されるほど「学習しない組織」になってしまう
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世界的な大企業、いわゆるビジョナリーと言われる企業では、この30年ほど「学習する組織」をどのようにして創るかということが、大きなテーマとして扱われ続けてきました。
生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである(チャールズ・ダーウィン)
変化が激しい時代において、「企業や組織に集う人同士が学び、変化し続けることこそ重要である」という認識は多くの人が賛同するものではないでしょうか。
ところが、この点を多くの現役ビジネスパーソンや経営者と議論していくと、実は下図に示すようないつも慣れ親しんだ企業の運営体制こそが、実は「学習しない組織」にとても陥りやすいという衝撃的な指摘が相次ぎました。
本記事では、実はこのように運営される組織こそが「学習しない組織」に陥りやすいという点について、さまざまな組織ではたらくビジネスパーソン、経営者の声を基にご紹介します。
今回のアウトラインです。
それでは本文です。
学習する組織の3つの要諦
「学習する組織」の3つの柱は、以下の通りです。
- 内発的な動機で仕事に取り組む
- 無意識に根底にある考え方(メンタルモデル)を自覚し、オープンに会話する
- 複雑な状況をシステム的に理解する
これらがどのようにして「学習する組織」につながっていくのか、順を追ってご紹介します。
1. 内発的な動機で仕事に取り組む
内発的動機とは、金銭を与えられなくても、誰かに「やれ」と指示されたり依頼されたりしなくても、自分からいくらでも何かに取り組みたいと感じる気持ちのことを指します。最近の脳神経科学の研究では、この内発的動機に基づいた取り組みは、「喜び」や「楽しさ」といった感情を呼び起こし、学習効果が極めて高くなることが知られています。
逆に、いわゆる「外発的動機」、やらされるという感覚は、「恐怖」「不安」といった感情につながり、これは人を特定の方向に向かわせることはできるが、学習効果が期待できないことが解明されつつあります。
いやいや勉強させられる小学生と、自分が心から好きな勉強内容に惹かれ、誰に言われるでもなく没頭して勉強する小学生、どちらがより勉強ができるようになるか? という問いに対する答えがこれにつながります。
明らかに、後者の「自分で没頭する」小学生のほうが伸びますよというのが、この「内発的動機」のイメージです。
単純に「内発的動機づけ」が高くていろいろ成長している、というのは個人の学習にすぎない。「学習する組織」というのであれば、一人ひとりの社員が持っている内発的動機が、企業・組織が掲げている目標・最上位概念との間で十分にすり合い、その結果、組織として人が学習することが蓄積されていくことが大切なのではないかと思います(50代・男性・元大手組織コンサルティングファーム日本代表)
この指摘にあるように、個人の「内発的動機」が、組織の掲げるミッションとすり合っていることにより、組織全体に学習が拡がることが期待できます。ビジュアルでイメージすると、次のように「社会」「企業」「個人」の方向性がすり合っているイメージでしょうか。
2. 無意識に根底にある考え方(メンタルモデル)を自覚し、オープンに会話する
企業が掲げるミッションと、個人の内発的動機がリンクすると、次に重要になってくるのは、社員一人ひとりが持つ「異なった視点」「異なった経験」を互いに受け入れ、その学びを組織全体に反映するという行動です。
例えば、「仕事上の公式なやりとりは、電子メールによって行うべきだ」という考え方が基本にあると(メンタルモデル)、自分の部下や若手のメンバーがLINEやFacebookで仕事のやりとりをしていると、「仕事の情報を電子メール以外でやりとりするのはけしからん」となり、それを全否定したりします。
ですが、電子メールよりもこうしたメッセンジャーを使ったやりとりは即時性がはるかに高く、最近ではかなりの場面で電子メールは使わず、やり取りのスピードを優先した仕事が増えてきています。
こういった外部環境の変化に対しては、職場の中で外部の動きに比較的敏感な若手と、これまで仕事の進め方をマネージしてきたベテランがフラットに会話を行っていけば、順次すばやく考え方を対応させることができるようになります。
このように、「互いの意見をオープンにフラットに交換し実行する」ために重要となるのは、自分が日々、無意識のうちに思い込んでいる考え方やものの見方(これをメンタルモデルと呼びます)を自分自身で客観視することです。
自分自身のメンタルモデルを把握していれば、ついつい「これは自分の考え方にはマッチしない、排除しよう」と無意識でしてしまいそうになったとき、「いかんいかん、これが自分のメンタルモデルだった…」と冷静になり、オープンな会話を続けやすくなります。
3. 複雑な状況をシステム的に理解する
短期的な成果や、目に見える事象にだけ対処していると、長期的には良くない結果につながったり、思わぬ副作用によって、よかれと思って行ったことが裏目に出たりといったことが発生します。
特にこれは、変化のスピードが早く、ちょっとしたことで目先の状況が変わっていく環境において、深刻な長期的ダメージを生むことがあります。
例えば、ある新しい組織で「営業をとにかく頑張って、どんどん受注を集めていこう!」というように取り組みを行っていくと、初期には受注量が増え、それによってメンバーのモチベーションが上がり、さらに営業量が増え、受注が増え・・・ という勢いが生まれます。
一方で、受注量が増えていくにつれ、それに伴う付帯業務などが増えていき、だんだんとメンバーの余力・余剰時間が削られていき、それが時間遅れでモチベーションを低下させていきます。
これが発動すると、今度は「モチベーション低下」「営業量が減る」「受注量が減る」「さらにモチベーションが低下する」という負のスパイラルが発生し、一気に状況が悪化してしまいます。
こうした状況の因果関係を把握し、相互の影響を把握することを「システム的に理解する」と言います。
このように、物事をシステム的に理解すると、短期・目先のことだけに集中するのではなく、その周辺を取り巻く環境、将来起きる長期的なこと、自分の業務に直結していること以外に目を向け、抜本的な打ち手を考えられるようになります。
以上のように、
- 社員同士が持つ内発的動機が組織の方向性とすり合い、高い学習意欲が生まれ
- 互いに自分の思い込み(メンタルモデル)を自覚し、オープンな会話が可能になり、物事がさまざまな角度で理解できるようになり
- システム的な理解により、長期的・抜本的な打ち手にたどり着けるようになる
というのが、「学習する組織」のシンプルなイメージとなります。
一般的な組織は「学習しない組織」の構造になりがち
「学習する組織」の3つの柱に対して、冒頭にご紹介したような一般的な企業の運営体制がそれぞれどのような影響を与えるのかについて、ここでは深掘りします。
1. 外発的な動機づけが行われている
一般的な組織の運営体制について、どのような動機でメンバーがはたらくかを見ていくと、この図のハイライト部分のようになります。
まず、組織・経営陣が定めた大きな「目標」を元に自分に与えられる「目標」が、行うべきことのベースとなります。そして、その与えられた「目標」を達成することができれば「よくやった」ということで、報酬を受け取ることができ、もしそれを達成できなかった場合には、「できなかったな」ということで報酬が減額されたり、受け取れなかったりということが起きます。
これは、典型的な「外発的動機づけ」となっており、所属するメンバーは与えられ、押し付けられた力によって仕事をしていくこととなります。
2. 専門性に紐付く「個人の成長に関するレビュー」がメンタルモデルを増強してしまう
次に、この組織運営体制で起きがちなのは、下記にハイライトされている部分による、「メンタルモデル」の強化・固執化と、メンバー同士・社員同士での相互学習が阻害されるという状況です。
まず、一定の期間が終わると、この組織運営体制では「個人の成長に関するレビュー」が行われます。
これは、「この仕事、役割を与えられたら、こういう仕事の仕方をすべきである」というパターンを叩き込まれることから仕事がスタートし、それができたかどうかを評価することで、個人が成長したかどうかを測定するという流れで発生します。
例えば、ある営業組織では、
- とにかく、お客さまへの来訪回数を少しでも増やすべき
- 来訪回数を増やすためには、その手前でアポ取りのTEL回数を増やすべき
といった行動が大切とされていたとします。
このとき、「個人の成長に関するレビュー」として、上司から「来訪回数をもっと増やす」「そのためのアポ取りを頑張る」といったことができているかを評価され、振り返ることとなります。
こうした繰り返しにより、この組織ではいつしか「とにかく来訪回数を増やすのが基本」「そのためのアポ取りこそが王道」といった思考が染み付きすぎてしまい、メンタルモデルが強固になり続けていきます。
その結果、上記の状況が変化し、「これからは、ネット上で個人の情報発信・記事への露出を増やし、それによって企業も問い合わせを増やしてくる」といったトレンドが発生したとしても、「それは営業の仕事じゃない」といったように、過去のやり方が変わりづらいといったことが起きます。
そして、ここから生み出されるメンタルモデルは、個人目標を設定したときに与えられる「あなたの仕事上の専門性(上記でいえば “営業” という専門性)」ごとに細分化されるため、同一企業内であっても、専門性ごとに異なるメンタルモデルが生まれ、組織内でのオープンな会話を大きく阻害することとなります。
営業部門が「とにかくうちは、製品が魅力的でない! 僕らは訪問回数を頑張っているのに」と不満を漏らし、開発部門が「うちの営業は、薄っぺらい訴求ばかりをお客さんに行っている! 僕らは本質的な製品力を磨いているのに」と嘆く構造が、まさにこれに該当します。
3. 短期成果にとらわれて全体システムを見失う
この組織運営体制では、短期のKPI管理により、「今週はどれだけ受注が増加したか」「想定していた露出は確保できたか」といった目先の指標の動きに着目します。こうした動きはダイナミックであり、メンバーはその動きに一喜一憂しながら、どのようにすればその数字が伸びるかに注目します。
その結果、施策の中心となり、日々の仕事の中で主に意識するのは、こうした短期的な成果、直接的に目にする動きといったところになっていきます。
「このまま受注が増えていったら、仕事の分量が増えて、営業が鈍化するか」「新しい営業を育てるのは、採用も教育も手間がかかる。どこかでそのうち手を打とう」といった、長期に渡って影響が発生し、早めに手を打っておくべき点についても、どうしても日々めまぐるしく変動するKPIに目を奪われてしまい、後手後手にまわりがちに。
さらに、それぞれの部門やチームがメインで取り組むべきことは部門・チームの専門性によって振り分けられているため、「人の不足に問題が出そう」といった問題に対しては、「それは事業部というより、人事部と相談しつつ進めるべき」と自分たちの専門領域以外の課題については、優先度が下がったり、意識が薄くなったりする傾向にあります。
もし問題の発生する要素がより複雑になると、もはや個別単体の部門・チームでその真因を探ることが困難になり、抜本的な手立てを打つことが困難になってしまいます。
「学習する組織」を導入しようとした組織の苦悩
このように、一般的な組織運営体制が「学習しない組織」に陥りがちであることを感じてか、「学習する組織」の要素を社内に取り入れようとする企業は年々増加しています。
具体的によくある取り組みとしては、
- メンバー個々人の内発的動機を、個人の求めていることを深掘りするセッションなどを通して高める
- 共有ビジョンを作り、それを組織内に浸透することで内発的動機を刺激しようとする
- システムシンキング、システムアプローチといったものを座学で学び、それを基に各事業部で分析を行う
などが挙げられます。
ですが、実際にこうした取り組みをリードしたことのある面々にヒアリングをすると、
【内発的動機づけ】
- 本業で上手くいっていない人、会社へのコミットが低い人が ”自分が個人として完結して追いかけたいテーマ” に逃げてしまい、ローパフォーマーのガス抜きになってしまう
【ビジョンの共有の場・対話の場】
- 内発的動機づけを「やらされる」ために、結局は上から提示されたビジョンを「共有させられる」イベントになってしまう
【システム思考の手法】
- システム思考は元々その素地のある最も力のある役員の力を伸ばす一方で、そうでない平凡な役員やメンバーは使いこなせず組織内格差が顕著になっていく
など多くの課題に直面し、かならずしも期待される「学習する組織」への変貌を遂げられないという実態が見えてきます。
これまで稼働してきた会社の基本的構造の中に「学習しない組織」としての要素が多分に組み込まれている中で、部分的に「学習する組織」の要素を経営陣からトップダウンで下ろそうとしても、日々の仕事の中で「学習しない構造」が大半の時間を占めていれば、浸透の難易度は高くなります。
個人で始められる「学習する組織」への第一歩
このように、組織全体としての取り組み、トップダウンでの取り組みが難しい「学習する組織」への変化は、しかし一方で、個人が起点となる取り組みとしてはいくつかの具体的な入り口が存在します。
今回はこうした中で、具体的に今日からでも取り組めるアプローチを3つご紹介します。
アプローチ1:仕事に対する内発的動機を語る機会を作る
自分がなぜ今の仕事をしているのか? それはどういう個人的な原体験や動機と結びついていて、どのように会社の方向性、会社を通して貢献できることと結びついているのか?
こうした点を、自分以外の誰かに語る機会を作るのが、最初のアプローチとなります。仕事上でこれを最も行いやすいのが自社の採用活動に関わること。
入社を検討している学生や転職を検討している方々に自分自身が自社ではたらく動機を語る場面は、まさに自分自身の内発的な動機を整理し、語ってみる最高の機会となります。
実際にこれを行ってみる、語ってみると、「ああ、自分には今、しっくりくる内発的動機があまり存在しないな・・・」といったことが実感できるようになります。
もしも採用に直接関わるような機会がない場合には、他社に勤務する友人同士数人で集まり、そこから伝わってくる熱意を互いに5段階で採点してみるという方法が手軽です。
下記のようなフォームを用意し、互いに採点を行い、平均点などを後で評価することで、自分自身の内発的動機を確かめ、再度考えるきっかけとなります。
アプローチ2:利害関係のない者同士で互いの仕事を振り返る機会を作る
2つ目のアプローチは、異なる会社ではたらく友人・知人同士で、自分の過去半年〜1年を振り返る「振り返り会」を開催するという方法です。
この方法を行うと、互いに自分の会社・仕事で起きたことについて、その状況をまったく知らず、前提となる考え方にも染まっていない面々同士でやりとりすることになるため、互いに自分が普段無意識に持っている「メンタルモデル」をとても鮮明に指摘し合い、実感できるようになります。
具体的な流れは、下図に示すように、
- 1年間の流れを語る
- 周囲による深掘り質問
- 発表者からの質問
- 発表者によるまとめ
- 他の3人からのコメント
といった手順となります。
こちらの方法の詳細は、下記のURLの記事にて公開していますので、ご興味のある方はぜひともお試しください。
▼互いのメンタルモデルが把握できるようになる「振り返り会」の運営方法
https://doda-x.jp/article/240/
アプローチ3:システム思考を使って自分の仕事をシステム的に捉えてみる
3つ目の方法は、「システム思考」をテキストなどで学び、実際に自分の仕事をシステム図と呼ばれる構造に落としてみるアプローチです。
それほど複雑なものでなくとも、先ほどご紹介した下図のような「システム図」に自分の仕事を再整理してみることで、「長期的な影響」「さまざまな関係要因」を捉え、意識を向けるきっかけを得ることができます。
この方法については、下記のような書籍で学ぶことができます。
▼システム図の描き方に関する書籍
https://www.amazon.co.jp/dp/4820740156
そして、これら3つのアプローチなどにより、個人として「学習する組織」に参画し仕掛ける素地ができたなら、次に行うべきは周囲を巻き込んで「個人の学習」を「組織の学習」へと昇華させていくことかもしれません。
戦略系コンサルファーム、組織系事業会社の役員を経て、現在はBOLBOP社代表を務める茂木崇史氏は、この個人から組織への「学習」の昇華について、次のように語ります。
自分個人と組織と、そして社会とをつなげて考えるときは、あまりに捉え方が広すぎると俯瞰的、評論家的になってしまい、(学習の)当事者になれなくなってしまうんですよね。適切なサイズ、自分が対象とすることを限定的に捉え、それを徐々に拡げていくというアプローチだとどんどん大きくなり、最終的に「個人」「組織」「社会」がつながっていく気がします。対象が企業ではありませんが、例えば、東日本大震災の復興支援に取り組むならば、いきなり震災全体を考えると大きすぎますが、自分が直接関わる2,000人規模の町にフォーカスすると、(自分の内発的動機とのつながりという側面で)「何でここに取り組むのか?」が明確になりやすいと思います。
いかがでしたか? 日々、当たり前のように過ごしている仕事を見据えつつ、個人としての「学習する組織」への準備、そして徐々にその対象を拡げていくというアプローチへのチャレンジもまた、これからの変化の激しい時代において重要なのかもしれません。
[編集・構成]doda X編集部
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