“天才”だけを採用、外国人比率75%の急成長ベンチャーに聞く「外国人が働きたくなる職場づくり」

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グローバル競争が激しくなる中、国境を越えていい人材を確保することは、各国・各社の大きな課題です。

しかし、英金融大手HSBCホールディングスの調査で、日本は「外国人が働きたくない国ランキング」で最下位から2番目になりました。シンガポールなどとの比較で賃金が低いうえ、労働時間の長さなどがマイナス点として指摘されています。

そんな中でも優秀な外国人を積極的に採用し、成長しているのがAIベンチャーの「シナモン」。外国人比率は75%AIリサーチャーの9割はトップ大学を卒業したベトナム人だといいます。彼らはなぜ、外国人に不人気なはずの日本企業を選んだのでしょうか?

海外から優秀な人材を惹きつけ、成果を生むための仕組みやマインドセットとは――同社代表取締役の平野未来さんに、「外国人が働きたくなる職場づくり」のヒントを伺いました。

数学の天才” だけを採用

―日本は「外国人が働きなくない国」としてクローズアップされていますが、御社では多くの外国人を採用されていますね。

海外拠点を含めた全社200人のうち150人が外国人、日本のオフィスでも社員の20%が外国人ですね。中国人、ベトナム人、スペイン人、イラン人……と、いろんな国の人がいます。母集団を広くしたほうがいい方に出会えるということで、シナモンは採用の際に「国籍不問」にしています。

海外の都市、例えばベトナムではハノイ、ホーチミン、ダナンに拠点を置いていて、社員はほとんどがAIリサーチャーです。ハノイ工科大学やホーチミン工科大学などでコンピュータサイエンスのバックグラウンドを持つ “数学の天才” を見つけて採用しています。

―「数学の天才」とはすごいですね。

ベトナム拠点で活躍する社員のみなさん

会社としては人数がほしくなる時もあるのですが、そこは妥協しないようにしています。

もともとベトナムに開発拠点をつくったきっかけが、ここには数学の天才が多いと思ったことなんです。7年前、別の会社を経営していた時、プログラマー向けの採用試験で正答率が6%以下というアルゴリズムの難問があったのですが、ベトナム人4人が、この問題を一瞬で解いてきて。

そういう東大みたいなトップの大学から本当に優秀な人だけを厳選して採用しているので、「シナモンは数学の天才しか行けない」みたいに認識されています。10数年前の「東大卒でもグーグルに採用されない」……みたいな感じで。

ベトナムでシナモンは実は有名なんです。天才を見つけて、半年間AIのトレーニングする会社だということで、コンピューターサイエンス系の人はおそらく全員が知っているんじゃないでしょうか。会社の公用語は英語だし、数学なので日本語が分からなくても大丈夫。

彼らはたしかに数学の天才ですが、最初から全員がAIを完全に理解しているわけではないので、「給料をもらいながらAIのことを学べる」というのはメリットなんだろうと思います。トレーニングを受けるうちに、「シナモンってこういうビジネスをやっているんだ」と、ビジョンへの共感も生まれているのかなと。

日本のオフィスでも、日本在住の外国人を採用するケースもありますし、日本に住みたいという海外在住の方を採用するケースもあります。はじめは漫画やアニメなどの日本文化から入って、日本に住みたいと思うケースが多いですね。

ですから、漫画とかアニメとかはありがたい存在です(笑)。日本は文化のイメージはいいのですが、働く環境のイメージが悪いのはもったいないと思います。

多様な人は多様な場でないと惹かれない

―それでも御社に外国からの人材が集まる理由は?

まず、英語を話せる人が日本のオフィスでも社内の7~8割を占めていること。それもあって、他のベンチャーと比較しても入社の障壁が低く、チームにも馴染みやすいんだと思います。

あとは、日本企業にありがちな非合理的なカルチャーがないこと。シナモンでは、リモートワークやフレックス勤務など社員が柔軟に働き、最大限にパフォーマンスを発揮できる環境を整えています。私自身もそれを活用して、保育園のお迎えがあるときは5時半には「お疲れさまです」と言って帰っていますし。

シナモンは働く人の年代も幅広いですし、AI企業の中でも女性比率が高いと思います。一時期、女性の比率が50%を超えたこともありました。社長の私自身が女性であることもあって、女性に興味を持っていただきやすいというのもあるんでしょうけど、台湾やベトナムのカントリーマネジャーも女性です。

シナモンはもともと発祥がベトナムで、日本には後から進出したという経過もあって、最初から外国人比率が高くて、日本人がマイノリティなんですよ。だから日本人であっても外国人を理解できる人、英語のできる人、外国とのプロジェクトを経験したことのある人が多くて、自然と多様性の中に身を置くことのできる人が集まっていると思います。

そもそも海外展開に対する共感、憧れ……などポジティブな思いを持っている人が多いんです。業務で使っている「Slack」もほとんどのチャンネルが英語だし、「Zoom」でもいろんな国の人とミーティングしていることが多いし、日本にいながら海外の人と働いています。

スピーディに全体感を生む意思決定の仕組み

―日本人と外国人のやり方がかみ合わないと感じるときはどんなときですか?

一番大きな違いで言えば、日本人はプランニングが好き、一方でベトナム人は目の前の課題をどんどん解いていく……というスタイルですね。ベトナム人から見ると、「そんなにかっちり考えずに、スピード優先でやったほうがいいんじゃないの?」という感じでしょうね。

「トップダウン」か「ボトムアップ」かの割合が国によって違う、というのを読んだことがあるのですが、それによると、意思決定の速い北欧などは完全に「トップダウン」型で、上の意見に下が従う。一方で、日本の「稟議制」はボトムアップなんですね。

日本ではトップが「こうだ」と言っても、現場が違うと言えばプロジェクトが動かない。プロジェクトのポイントとなる人たちに「根回し」で納得してもらって、全体会議ではすでに合意されたことを「シャンシャン」と正式に決める。それが外国の人にとっては「遅い」と感じる。

ですから、意思決定を速くしなければならないわけですが、そのために当社では「OKR(Objective Key Result:組織の目標と個人の目標を連動させた管理方法の一つ)」という仕組みを活用しています。

四半期ごとに「カンパニー・オブジェクティブ(会社の目標)」を変え、そこから各部門の「デパートメント・オブジェクティブ」が生まれます。部門別の目標は全社のKPIと連動しているので、各部門のメンバーに求められる成績も明確になります。

自分の評価も、成績によって「このぐらいのことを達成したら、このぐらい上がる可能性がある」と示されているので、給与の点でも問題にされることはありません。全体の方向性も作りやすくなると思いますよ。

コミュニケーションは「伝える側」に責任

―複数の国の人が一緒に働く環境で、コミュニケーションではどんなことに気をつけていますか。

『異文化理解力』という本によると、コミュニケーションの質が国によって「ハイコンテクスト」と「ローコンテクスト」に分けられます。

例えば、日本をはじめとする東アジアの国々は「ハイコンテクスト」で、互いに「空気を読む」ことが求められますよね。一方、北欧などはかなり「ローコンテクスト」で、言いたいことをダイレクトに言う文化。

複数の国の人が一緒に働く場合は、ローコンテクスト同士が一番やりやすくて、ハイコンテクスト同士は一番難易度が高いそうです。だから日本とベトナムの場合は、難易度が高くなります。

それを踏まえて、シナモンでは「伝えた時にうまく伝わっていなければ、受信者ではなくて発信者の責任」ということを明確にしています。

伝える側が「Slack」やパワポなどで、メッセージを可視化しておくというのもかなり徹底されていますし、私自身、英語で微妙なニュアンスを伝えられないときはかなりストレートに言ってしまいますね(苦笑)。

社員旅行の様子

それと、シナモンでは「ローカルのカルチャーに合わせる」ということも指針にしています。

ベトナムでは社員旅行を年に2回実施しているんですが、ベトナムでは家族連れで社員旅行をするのが普通で、やらない会社は「社員を大事にしていない」と思われてしまうんですよ。家族ぐるみでアットホームな雰囲気を生むのが「いい会社」なんです。

それ以外にも、初期のころは結構びっくりしたこともありました。みんな会社に「マイ枕」を持ってきていて、普通にお昼寝しているんですよ。ある時、会議室に入って「なんか暗いな」と思ったら、「え?みんな寝てるんですけど……」って(笑)。初めは驚きますが、「そういうもんだ」と思って現地の文化に合わせていくようにしています。

日本のオフィスでも、相手の文化を理解するのは当たり前で、できるだけ「ウェルカム」な雰囲気を作るように心がけています。例えば、挨拶をベトナム語でやったり、飲み会でもベトナム語で乾杯したり、「Slack」でベトナム名を使っている日本人もいますね。

もちろん、日本の文化を理解してもらうこともしていて、みんなで鎌倉に行ったりとか、「日本酒を飲む会」を開いたりして。あくまでも自発的な活動ですね。

これからも海外展開をアグレッシブにやっていきたいです。アメリカにも営業拠点がありますが、私たちがアジアでやっていることのほうが進んでいる領域で、まったく同じニーズがアメリカにもあるので、積極的に攻勢をかけていきたいと思います。彼らとともに。

株式会社シナモン 代表取締役 平野未来
シリアル・アントレプレナー。東京大学大学院修了。レコメンデーションエンジン、複雑ネットワーク、クラスタリングなどの研究に従事。2005年、2006年にはIPA未踏ソフトウェア創造事業に2度採択された。在学中にネイキッドテクノロジーを創業。iOS/Android/ガラケーでアプリを開発できるミドルウェアを開発・運営。2011年に同社をmixiに売却。St.Gallen Symposium Leaders of Tomorrow、Forbes JAPAN「起業家ランキング2020」BEST 10、ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019 イノベーティブ起業家賞、Veuve Clicquot Business Woman Award 2019 New Generation Awardなど、国内外のさまざまな賞を受賞。また、AWS summit 2019 基調講演、ミルケン・インスティテュートジャパン・シンポジウム、第45回日本・ASEAN経営者会議、ブルームバーグThe Year Ahead サミット2019などへ登壇。2020年より内閣府税制調査会特別委員に就任。

[取材] 大矢幸世 [文] 山本直子 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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