28歳、英語力ゼロで外資系に転職し10年余。レゴジャパン代表 長谷川敦さんに聞く「使える英語」の身につけ方

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日本人がビジネスで英語を使う機会は間違いなく増えていますし、今後もさらに増えるでしょう。

しかし、中にはネイティブのようなボキャブラリーや発音、アクセントができないことにコンプレックスを抱えていて、「新たな挑戦は英語を完璧に磨き上げてから……」と考えるばかりにチャンスを逃している人もいるのでは。

この3月にレゴ日本法人代表に就任した長谷川敦さんは28歳でP&Gに転職して以降、外資系企業の国際的なキャリアを歩んできました。けれども、P&Gにマーケッターとして入社した当時はビジネスで英語を使った経験はほぼゼロだったそう。

長谷川さんにそんな挑戦が可能だったのはなぜ? どうやって「使える」英語を習得していったのでしょうか? 「脱・英語ネイティブ崇拝」をテーマに話を聞きました。

メール表現、ミーティングでの言い回し……ひたすら真似てサバイバル

長谷川さんは子供のころから英語に親しんでいたんですか?

いえいえ、そんなことはありません。

父親の仕事の都合で小学生時代に2、3年だけドイツ・デュッセルドルフにいたことがありましたが、日本人学校に通っていたからそこでは何も身につきませんでした。その後も日本の教育システムで小中高大学と過ごしたので、子供のころから英語ができたわけではありません。

大学を卒業し、あまり深くは考えずに総合商社に入社。そこで2年過ごした後、コンサルに転職しました。けれどもどちらも日系の会社だったので、英語を使う機会は一切ありませんでした。

その後のご経歴からすると意外です。

コンサルには4年いましたが「こんなに優秀な人たちがこんなに働く場所にいても勝てないぞ」と転職を決意。マーケッターとしてP&Gに入社しました。仕事で英語を使い始めたのはここからです。

お恥ずかしいことにP&Gがどんな会社なのかもよく知らずに入ったんですが、いざ入ってみたらミーティングもメールもすべて英語じゃないですか。言っていることの半分以上が分からないし、メールを一通書くのにも1時間かかる。「えらいところへ来ちゃったな」と思いました。

日本国内のミーティングやメールのやりとりでもそんな調子ですから、海外の人との電話会議、ビデオ会議は恐怖でしたね。一応ミーティングには出るものの、相手が何を言っているのかが分からないから何も発言できない。上司からは「何か言いなよ」と言われるんですが、「そう言われてもなあ」という感じで。

妻いわく、最初の1年は夢でも英語でうなされていたというから、相当きつかったんだと思います。なんとかでも英語で仕事ができるようになったのは3年目くらいからですね。

どうやって英語を身につけていったんですか?

LEGOの同僚のみなさんと
LEGOの同僚のみなさんと

基本的にはいろんな人のやり方を真似ることで学びました。先輩のメールの表現をコピペしたり、ミーティングでもほかの人の言い回しを覚えて真似させてもらったり。

日本の会社でいう稟議書みたいなものを書かないといけないシチュエーションがあるんですが、その英語での書き方が分からないから、過去に誰かが書いたものを真似るわけです。当時は電子化もされていなかったから、最初の3カ月は書棚から取り出した過去の稟議書の表現をひたすら書き写していました。

ミーティングでも、例えば自分が喋っている途中で何を話したかったのかが分からなくなることがありますよね? そんな時に「ごめん。もう一回言い直させて」とやっている上司を見て、「このやり方はいいな。今度困ったら使おう」と。そんな調子で意識して引き出しを増やしていきました。最初のころはミーティングの内容よりも表現を学びに行くくらいの気持ちで臨んでいましたね。

その後、フィリップスのマーケティングディレクターからゼネラルマネジャー、アメリカのスタートアップの日本法人代表を経て、2014年にレゴに入社しました。昨年まではシンガポールを拠点に、東南アジアと南アジアのビジネスを統括するゼネラルマネジャーを務め、この3月にジャパンの代表に就任したというのが私の経歴です。

ですから、英語に関して言うなら、P&Gの時には「やるしかないから」ということでなんとかやって、その後、ジョブの範囲が広がるに従って徐々にできるようになっていったというところでしょうか。まさに「サバイバル・イングリッシュ」。かっこいい英語、おしゃれな英語ではなく、分かりやすい英語、伝わる英語という感じです。

相手を知り、自分の考えを整理する。人一倍の準備でカバー

P&G時代、ミーティングなどで自分の英語力が流れを滞らせていると引け目を感じたことは?

最初はありましたよ。でも、英語ができないからと言ってそれが苦痛で会社を辞めようと思うことはなかったですね。子供も連れてP&Gのオフィスがある神戸へ引っ越してきていたので、いまさら「間違ったから辞めるわ」というわけにもいかなかったですし。

それ以上に純粋にマーケティングが面白かったんです。言葉のことを抜きにして、マーケティングの面白さを初めて知ったのもP&Gの時だったので。

言葉ができないぶん、意識していたのは準備をしっかりとすることです。大事なミーティングの前にはかなり準備をしないと土俵に上がれないという意識がありました。ミーティング前は資料をしっかり読み込む、プレゼン前はリハーサルをするなど、瞬発的にこなせる自信がないぶん、普通に英語を話せる人より入念に準備していました。これはいまも変わらないですが。

説明はできても、質問への回答やディスカッションが大変そうですよね。

そうなんです。だから、ミーティングに来る人がどういう状況にいて、何を心配していて、どんなことを聞きそうなのかをあらかじめ想定しておく。これを「オーディエンス・アナリシス」と呼ぶんですが、要は、来る人が何を知っているのかをあらかじめ知っていれば、その人たちが何を聞いてくるかもだいたい分かるだろうということです。

一方では、「自分が言いたいことはどんなに複雑であっても一枚のスライドにまとめろ」とか、「もしいまエレベーターで社長にばったり会ったら、その3分で何を話すか」など、自分の考えを整理整頓することもこの時期にいろんなやり方で鍛えられました。そうやって自分の考えがシャープになっていれば、大体のことは中学レベルの英語で説明できるものなんですよ。

自分の考えを整理する、相手が何を知っているかをあらかじめ知っておくというのは、英語うんぬんを抜きにしても大切なことのように思えます。

そうですね。これは日本語で仕事をする場合にも大切なことでしょう。P&Gはたまたま英語で仕事をする会社でしたが、こうしたトレーニングはそもそもコミュニケーションの力を鍛えるものという位置づけだったんです。英語はその中のひとつのパートに過ぎなくて。

この会社では英語ができないとコミュニケーションはできないけれども、英語が上手いだけでもコミュニケーションはできない。英語を使ってロジカルに人にものを伝えることができて初めてコミュニケーションは成立するわけです。

同様のことはその前のコンサル時代にも相当鍛えられました。思えばコンサル、P&Gの10年間は私にとってコミュニケーションのなんたるかを叩き込まれたステージだったのかな、と。30歳前後の、仕事経験はそこそこあるものの、まだ柔軟に変わることのできるライフステージでこうした経験を積めたことは、その後の自分にとってすごく大きかったように思います。

「分からない」と言うことを恐れるな。それは相手を理解する姿勢の表れだから

いろんな人とお仕事をしていて、日本人の「ネイティブ崇拝」を感じることはありますか?

ありますね。海外の人から感じることはほぼないですが、日本人からはすごく。

でも、「ネイティブのように……」というところを突き詰めてもあまり意味がないと思うんです。英語はあくまでもコミュニケーションのツールなので。ツールをピカピカに磨くという発想の人がいてもいいとは思いますが、ある程度でも使えるならさっさと使おうというほうが実践的ではないでしょうか。

例えばうちの子はシンガポールでの2年が最初の海外生活だったんですが、通っていたのは日本人学校なので英語は大してできないんです。彼らはスポーツをやっているので地元の人ともコミュニケーションをする機会自体はありました。その時に使うのは英語というよりシングリッシュ。お互いかなり訛っています。でも、それで問題はない。それで通じてるんですから。

「英語力を高める」というより「コミュニケーション力を高めるには?」と捉えたほうがいいんじゃないかと思いますね。英語はその中にある必要な要素のひとつではあるけれども、英語だけができてもコミュニケーションは達成されないので。

大事なのは意思疎通できることだと考えれば、英語を完璧に磨き上げるよりも大切なことがあるだろう、と。

「完璧な英語でなければ」と考える気持ち自体は理解できるんです。私自身もミーティングなどで発言する際には「正しい文法を使わなくては」という考えがいまだに頭をよぎりますから。

でも、実際に外に出てみると分かるんですが、海外の人は相手の英語力なんてまったく気にしないです。日本人が自分で「できない」と思っているレベルでもむしろ「英語ができるんだね」と言われるくらいで。

私の担当していた国の1つにベトナムがあったんですが、ベトナムもやはり訛りがすごいです。向こうの人がいくら一生懸命に英語で説明してくれても、こちらは半分くらいしか理解できない。逆に私の英語もジャパニーズイングリッシュだから、おそらく向こうも50%くらいしか分かっていないだろうと思います。でも、それで問題はない。それで仕事として成立するんです。

お互いにネイティブではないのだから一発ですべて分かるわけがないですよね。だからそういうものだと思って仕事をするだけ。もしも分からないことがあったら「分からない」と言う。ゆっくり喋ってほしい時は「ゆっくり喋って」と伝ればいいだけなので。

それでイライラされることはないんですか?

あるかもしれないですが、そこで「うん、うん」と言っておきながら後から分かっていなかったというほうがプロとして問題じゃないですか。

だから私もネイティブスピーカーにバーっと話されて分からなかった時には「ごめん。分からなかった。もう一回ゆっくり話して」と遠慮せずに言うようにしています。場合によっては「誰かいまの議論をサマリーして」とお願いすることもあるくらいで。

聞き直したり「スローダウンしてくれ」と頼んだりするのは、相手の言うことをしっかりと理解したいからですよね? 「あなたの言うことを本当に分かりたいんだ」と言われて、それを無碍にする人なんて基本的にはいないと思いますね。

失敗を通じて「知る」ことが最初の一歩になる

英語ができないことは、ぼくらが想像しているほど、外資系企業でキャリアを積む上で致命的なハンデキャップにはならないということでしょうか。

そう思います。例えば、いまの私の上司はフランス人なのでかなり訛りの強い英語を使います。彼は特別プレゼンが上手いわけでもありません。それでもレゴの中でトップ5の位置にいるわけです。

彼はよく「自分の強みは英語ではないから。通じないのはダメだが、俺はフランス人だから上手い必要はないんだ」と言う。大事なのは彼のように「英語は強みにはなり得ない」と割り切ることだと思います。ネイティブになんてどうしたってなれるはずがないんですから。

フランス人の上司(左から4人目)
フランス人の上司(左から4人目)

30、40代にもなればそれまでのキャリアで培ったユニークな強みを持っているはずです。本来寄って立つべきは英語ではなくそちらですよね英語はただ単にそれをサポートするツールに過ぎない。致命的な欠点にならないようにさえすれば良いんです。

さすがに英検3級も受からないレベルなら外資系にいきなり飛び込むというチョイスは避けたほうが良いと思いますが。大学卒業レベルの普通の英語力があるなら、数年やれば誰でも「使える」ようになると思いますよ。どんな人でも毎日100回腹筋をすればお腹は割れる。それと同じです。

あとは何回失敗するかだと思いますね。私自身も最初はディスカッションについていけずに上司のサポートを受けて、悔しい思いをしました。そこで「全部自分でマネージできるようになりたい」と思ったところからすべては始まっているので。

日本人は「失敗するのが苦手」とも言われます。

英語に限らず日本人には完璧主義なところがありますよね。例えばミーティングでも、発言するからには気の利いたことを言わなければならないと思っている。

でも、海外の人の発言を見ていると、同じことを違う表現でただ繰り返しているようなものがたくさん含まれています。必ずしも気の利いたことばかり言っているわけではない。日本人である私たちからすれば「それはもう言わなくていいでしょ。だったらもっと早く切り上げようよ」と思うようなことがいっぱいあります。だから、日本人は気負いすぎなんだと思いますね。

その違いはどこから来るのでしょうか?

詳しくは分からないですが、「日本人は減点主義的に育っているので、発言して失敗したら損だと考える。一方海外、特にインドの人などは加点主義で考えるから、ほかの人より発言しないと点が取れないと考える」のだと言っている人がいました。こうしたメンタリティの違いも日本人が失敗を嫌って一歩を踏み出せない一因になっているかもしれないですね。

そんな中、長谷川さんが英語ができないまま外資系企業に飛び込めてしまったのはどうして?

最初にお話ししたように、P&Gがどんな会社なのかよく分かっていなかったのもあるんですが、とはいえ、仮にそこで落ちたからといって何もマイナスはないとも思っていました。ダメだと言われたら「ああ、英語が使えないとやっていけない会社なんだな」と分かるだけ。それが分かるだけむしろプラスですよね?

その意味で中途採用のいいところは、今年ダメでも来年またチャンスがあるかもしれないことです。「入るにはこの要素が不可欠」と知った上で、どうしても入りたいならそれを身につけるために頑張ればいい。逆に「だったら別の選択を」と考えるのもその人の自由です。

「ネイティブ崇拝」に陥っているというのは、現実にはどの程度の英語力が必要なのかも分からないままにひたすらツールを磨き続けている状態だと言えます。まずはそれを知ることから始めたほうがいいと私なら考えますね。

レゴジャパン株式会社 代表取締役 長谷川敦
1975年愛知県生まれ。1998年、一橋大学商学部卒業。大学卒業後、大手総合商社に入社。コンサルティング業界を経て、P&G、Phillips等大手FMCGにてマーケティングやビジネスマネジメントの責任者を歴任。外資系ベンチャー企業の日本カントリーマネージャを経験後、2014年にレゴジャパンのマーケティング担当ディレクターに就任。2018年よりレゴ シンガポールに赴任しレゴ アジアパシフィック地区 ゼネラルマネージャーを務めたのち、2020年3月に帰任しレゴジャパン株式会社代表取締役に就任。

[取材・文] 鈴木陸夫 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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