「成功が約束された決断はない」。カリスマの後任を引き受けた覚悟―マネックス証券 清明祐子さん

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大阪府出身。京都大学経済学部卒。新卒で三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行し、法人営業およびストラクチャードファイナンスに従事。2006年12月からMKSパートナーズ(プライベート・エクイティ・ファンド)に参画し、バイアウト投資実務およびポスト・マージャー・マネジメントを経験。2009年2月にマネックス・ハンブレクト(2017年にマネックス証券と統合)入社、2011年に同社社長に就任。2013年マネックスグループ執行役員、2016年同社取締役、2017年マネックス証券執行役員、2018年マネックスグループ常務執行役兼マネックス証券副社長執行役員。2019年4月よりマネックス証券代表取締役社長(現任)。2019年11月マネックスグループ常務執行役チーフ・オペレーティング・オフィサー(COO)を経て、2020年1月マネックスグループ代表執行役COOに就任(現任)。
(前編はこちら)
「大役を引き受けてからも、『常に笑っている』という私の基本的なスタンスは変わっていません」。マネックス証券の代表取締役社長・清明祐子さんは、経営人材として飛躍したキャリアを振り返ってそう話します。きっかけとなったのは2008年のリーマン・ショック。当初は「やむを得ない転職」でマネックスグループと出会ったという清明さんは、入社2年で子会社社長に就任し、以降も要職を歴任してきました。自分自身の成長を追い求める個人としての意識から、組織全体の成長を見据える経営者としての意識へ。大きな決断の裏側には、どのような思いがあったのでしょうか。
しんどいときは、無理をしてでも笑っている
2008年に起きたリーマン・ショックは世界規模の金融危機へとつながり、私が身を置く環境にも大きな影響を及ぼしました。勤めていたプライベートエクイティファンドが閉じることになってしまい、転職活動を余儀なくされてしまいました。新たな学びの連続だった貴重な時間は、2年で終わりを迎えてしまったのです。
当時は投資銀行からもどんどん優秀な人材が流出していた時期。対して私は留学経験もなく、MBAを持っているわけでもなく、商業銀行からファンドという珍しいキャリアで、しかも2年しかファンドを経験していません。それでも次を探して、いろいろな会社へ足を運びました。
「私のようにレジュメがパッとしない人間は、どうしたらいいんでしょうか?」
MKSパートナーズ時代の先輩にも相談しました。その方に紹介してもらったのが、マネックスの子会社としてM&Aのアドバイザリーを手がけるマネックス・ハンブレクトだったのです。現在に至るマネックスグループでの私のキャリアは、このときからスタートしました。
ご縁というのは本当に不思議なもので、引き寄せるコツがあるのかと問われても、私はうまく答えることができません。
ただ、「1人では何もできない」ということは常に意識して行動してきました。困ったときには人に頼りながら、人を尊重し、助けてもらった相手にはちゃんと恩を返す。
あとは「いつも笑っている」ということでしょうか。
どんな状況にあっても、しんみりしないことが大切だと思っています。暗くどんよりと沈んでいては、人が近づいてくれません。だから、しんどいときは無理をしてでも笑っているように心がけています。
もう一つあるとすれば、苦手な人ほど自分から声をかけるようにすること。自分が苦手とする人は、自分にはない何かを持っていたり、自分にとっての弱みの部分を強みとしていたりするものです。「あの人からは痛いことを言われそう」だから、苦手だと感じてしまうんですよね。
だからこそ、苦手な相手には自分からあえてぶつかっていきます。そうすると耳に痛いことも含めて、芯を食ったフィードバックをもらえるんです。
人って、理由もなく誰かを嫌いになることはないはずだと思っています。苦手な人にこちらから話しかけてみると、「案外自分は嫌われていなかった」と気づくことも多いんですよ。だから、自分から勝手にバリアを作らないことが大事なんです。
同じように対外交渉における人間関係でも、自分が嫌だと思う案件ほど、真っ先に手をつけるようにしています。M&Aの交渉では特に厳しい内容が予想されるときや、相手先との関係性が危ういときほど真っ先に向かうようにしてきました。
嫌なことを後回しにしたり溜め込んだりしない。この習慣があるから、常に笑っていられるのかもしれません。
「家賃が高すぎるので安いところへ引っ越します」。芽生えた経営者の意識
マネックス・ハンブレクトへの転職は大きなターニングポイントとなりましたが、そもそもはリーマン・ショックの余波で、やむを得ず入った会社でした。今だから言えることですが、「2年くらいはどこかに潜んでいよう」という後ろ向きな気持ちで入ったんです。
その頃の私は、もう一度ファンドに戻りたいと考えていました。転職前はファンドに2年しかいられず、まだまだ学びきれていないのに強制退場させられた思いでした。実際に2年が経つ頃にはひっそりと転職活動をしていて、他社からオファーももらっていました。
そんなタイミングで会社から告げられたのは、「マネックス・ハンブレクトの社長を任せたい」という驚愕の打診。
もしかすると他社からオファーをもらったことがバレているんじゃ……? とさえ思ったほどです(笑)。
マネックスグループのトップである松本大をはじめ、経営陣が何を思って私を引き上げてくれたのか、はっきりとしたことは分かりません。やむを得ず入ったとはいえ、転職後はM&Aのアドバイザリーという仕事で、案件を獲得してやりきることを粛々と続けていました。その姿を見て「清明に任せてもいいんじゃないか」と思ってもらえたのかもしれません。
当時はまだ33歳と若かったこともあり、「やってみてダメなら次がある」という思いで引き受けました。
プレッシャーもありましたが、お客さま先では「社長をやらされて大変なんです」「お手伝いさせていただけないとクビになります」なんて言いながら、「常に笑っている」という信念を崩さずに営業していましたね。
ちなみに子会社の社長を任されて最初にやったのは、東京駅近くのグループ本社が入っていたビルから、神谷町の小さなオフィスへ移転したことでした。
それまではグループ本社を間借りしていたのですが、家賃が高額で、マネックスグループは1円も負けてくれなかったんです(笑)。「家賃が高すぎるので安いところへ引っ越します」と告げて、自分から出ていきました。結果的には人件費1人分を浮かせることができました。
当時はただ必死に動いていただけでしたが、振り返ってみれば、少しずつ「個人としての意識」から「経営者としての意識」に切り替わっていたのかもしれません。以前は自分自身の案件や自分自身の成長がいちばんの関心事でした。でも社長になってからは自分の評価ではなく、「この会社を維持しなければメンバーの生活に関わる」という発想で物事を考えるようになっていきました。
カリスマ経営者の後任は荷が重いけれど、やるしかない。
それからマネックスグループでのキャリアを重ねた私は、2019年4月にマネックス証券の社長に就任しました。
前社長の松本から突然それを打診されたのは、普段のミーティングと変わらない会議室でのこと。2019年3月の半ばを過ぎて、新しい期を迎える直前というタイミングでした。「来期の体制はどうしましょうか」という話をしている中で、「(マネックス)証券は清明に任せてもいいかな?」と松本が言い出したのです。
もともと松本とは席も隣で、コインチェックの買収なども一緒に動いていました。マネックスは良くも悪くもカリスマ経営者として名を馳せる松本ありきの会社。自身の後を委ねるためのサクセッションプランを検討していることは知っていましたが……まさか私がマネックス証券の後任を託されるとは夢にも思っていませんでした。
私は証券のことをほとんど知らないし、BtoCもネットマーケティングもさっぱり。そもそも証券業という業種にものすごく興味があったわけでもなく……。
最初はそんなことをうだうだと言っていたように思います。
でもよくよく考えてみれば、マネックス証券が会社として次の時代を作っていかなければならない時期に差し掛かっていることは明白でした。私は松本の側で中核の1人として働いてきた身であり、その私にできることがあるならーー。
そうして私は覚悟を決めました。カリスマと言われる松本大の後任は荷が重いけれど、やるしかない。迷った末に覚悟を決めて決断しました。
人生には、成功することがあらかじめ分かっている決断などありません。決断したことを成功につなげられるかどうかは、その後の行動にかかっているわけです。迷っていたら前に進めない。決めてしまうしかない。決めたら振り返らない。そうして前に進んでいかなければ、成功にはたどりつけない。
過去の決断もそうでした。自分自身で新しい環境を求めたときも、外的要因で余儀なく動かざるを得なかったときも、目の前の案件に一生懸命取り組んできました。そんな姿を見て引き上げてくれた人たちがいたことで、私のキャリアは現在につながっています。
そうした意味では、運や縁というものは自分で作っていけるものなのかもしれません。見てくれている人は必ずいるものです。
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沈んでいるくらいなら「私たち大変だね、やばいね!」と明るく話していたほうがいい
大役を引き受けてからも、「常に笑っている」という私の基本的なスタンスは変わりません。これまでに飛び込んできた職場でも、いつも働いていて楽しい状態を大切にしてきました。
私が大好きなのは、小さな成功をみんなで大きく喜び合えるチームです。そんなチームは、案件で失敗したり競合に負けたりという逆境があっても前向きなコミュニケーションを取って、活気のある職場を維持していけます。そのベースにあるのは、やっぱり「どんなときも明るく笑っていよう」という姿勢なんです。
今この瞬間も、「どうしよう」と思い悩むことはたくさんありますよ。
ネット証券では手数料ゼロ化の流れがあり大変な状況だと言われますが、大変だと言っていても物事は好転しません。沈んでいるくらいなら、「私たち大変だね、やばいね!」なんて言いながら明るく話していたほうがいい。そのほうがずっと、良いアイデアが浮かんできますから。
それがすべてにおいて良いことなのかは分かりません。ただ、私がポジティブに前を向いていることで状況が良くなるならそうすべきだと思っています。
私自身は、証券という分野ではプロである社員とコミュニケーションしなければ判断できません。数字や資料だけでは本質を見抜けないし、みんなの声を聞かなければ適切な判断は下せないと考えています。そのときには礼儀正しいやり取りだけではなく、素で話してもらう必要があります。だから自分からオープンに、「私には分からないことも多いから何でも話して」と呼びかけています。
そうして集まったみんなのアイデアが形になって世に出ることは私自身うれしいし、みんなにとっても新しいやりがいにつながるかもしれません。社長としての私の大切な仕事は、みんなの声を社会に届けることなのでしょう。
どんなに大変な状況でも、冷静になってみれば、見える風景は自ずと変わってくるものです。過去の転職でも、違う世界に行ってみて初めて見える世界がありました。
見えていなかったときよりも、見えてしまってからのほうが可能性は広がるはず。そう思いませんか?
自分自身の軸さえあれば、異質なものや想定しないものが現れたときにも「広がり」だと感じることができるはず。そんな出会いがあるからこそ人生は楽しいと思うんです。
清明祐子さんに聞いた“キャリア形成で大切なこと”
小さなことでもいいから自信を持ち、覚悟に変える。
[編集・取材・文] 多田慎介 [撮影] 稲田礼子
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