1人しかなれない社長より、新たな目的を持つ「勇者」を目指すべき―SUNDRED 留目真伸さん

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PROFILE
留目真伸さん
SUNDRED株式会社 代表取締役/パートナー

1971年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、総合商社で発電プラントのプロジェクト開発などに携わる。戦略コンサルティングファームを経て2002年にデルへ入社し、マーケティングの責任者として数々の事業部で活躍。その後はファーストリテイリングを経て2006年にレノボ・ジャパンに入社。常務執行役員として戦略やオペレーション、製品事業、営業の統括責任者を歴任し、2011年からはNECとのPC事業統合の責任者に任命され、レノボの世界シェア2位(当時)獲得に貢献。米国ヘッドクォーターの戦略部門エグゼクティブ・ディレクター、レノボ・ジャパンおよびNECパーソナルコンピュータ両社のコンシューマー事業統括を経て、2015年4月にレノボ・ジャパン代表取締役社長およびNECパーソナルコンピュータ代表取締役執行役員社長就任。退任後は株式会社資生堂CSOを経て、2019年7月よりSUNDRED株式会社の代表として「新産業共創スタジオ」を始動。2019年8月からはVAIO株式会社Chief Innovation Officer(CINO)も務める。

前編はこちら

社長には1人しかなれないし、大きな組織ではほとんどの人は役員にもなれない――。総合商社や外資系企業などでグローバル規模のキャリアを積み、レノボ・ジャパン代表取締役社長などの要職を重ねた留目真伸さんは、そんな現実を指摘して「社内出世だけを目的にするべきではない」と話します。留目さん自身のキャリアにも、社内の枠を超えて大きな目的を目指した物語がありました。肩書きや年収にとらわれることなくキャリアアップを成し遂げてきた留目さんの思いを語っていただきます。

キャリアとは、肩書きや年収のことではない

リーダーシップのあり方について考えるとき、私は「肩書きや役職では仕事をしたくない」「過去の経験にとらわれたくない」という思いを新たにします。

組織にはヒエラルキーがあり、肩書きを持ってポジションにつく役職者がいる。当たり前のことのように私たちは受け入れていますが、これは近代的な軍隊組織からやってきた考え方です。そうした組織がない頃、つまり人類が誕生して間もない時代にも、リーダーシップは自然と存在していたはず。集団で狩りへ出かけるときに先頭に立っていたリーダーは、肩書きや役職を目当てにそのポジションについたわけではないでしょう。

いきなり大きな話をしてしまいましたが、私はそんな原始のリーダーの姿にこそ学べることがあると思っているんです。リーダーシップとは、自然に生まれるべきものではないかと。

2006年、私は常務執行役員という肩書きでレノボ・ジャパンに加わりました。しかし肩書きとは直接的に関係のない領域、過去に自分が経験したことのない領域にも、積極的に絡んでいきました。戦略からマーケティング、オペレーションなど、自分ができることは一通りやらせてもらったと思います。

当初はIBMから引き継いだパソコン事業を再生すべく、組織を整理したり、マネジメントシステムを見直したりといったミッションを任されました。それが一段落すると、今度は営業が重要な局面になり、チャネル施策をしっかり固めてパートナー作りを強化していきました。自分で営業責任者を務め、その後はコンシューマ事業の責任者にもなりました。

会社が置かれた状況の中で、いちばんの課題だと思うところに入っていく。そんな仕事のやり方が好きでした。その後にNECとの事業統合の話が持ち上がった際も、自然な流れで「じゃあ私がやります」と手を挙げました。

そうした一つひとつのミッションは未知の領域ばかり。でも、「こけたらどうしよう」といった恐怖感はありませんでした。新しいことを学んで、挑んでいく。それこそが「キャリア」だと思っていたからです。

たとえ失敗したとても、チャレンジから新たな学びを得て、仲間を作る。それがキャリアアップを成し遂げるということではないでしょうか?

キャリアって、肩書きのことではないと思います。おそらく年収のことでもない。大事なのは「自分は何ができるようになるのか」ということ。大きな目的に向かって歩みながら、何ができるようになるか。その過程がキャリアアップなのだと。

だから一つの会社に縛られて、「失敗すると部長になる道が閉ざされるかもしれないから、安全パイを取ろう」なんて考えるのは、やめたほうがいいと思っています。とにかく穏便に、失敗しないように、できるだけ良い評価をもらうために生きていく……。それで、人は成長できるでしょうか。

大目的である「共通善」の実現を目指して

私がそんな思いを持つようになった原点は、20代の商社時代にあります。

「大きな仕事がしたい」「社会にインパクトを与えたい」。その気持ちが今につながっています。今も純粋に、そう思いながら生きています。

海外で発電プラントを作ることも、戦略コンサルタントとしてクライアント企業の経営を支えることも、マーケティングを皮切りに経営全体の舵を取るようになったことも、大目的としては同じです。やりたいことがあるから、私は新しいチャレンジを重ねてこられたのかもしれません。

大きな仕事がしたいという思いを突き詰めていくと、自分のモチベーションの源泉は「社会を良くすること」「世の中の共通善を実現すること」にあると気づきました。

さまざまな事業やプロジェクトの話題に触れていると、「こういう仕事はしたくないな」と思うものもあります。共通善とのつながりが見えてこないもの、誰かをやっつけて自分だけが得をするようなものは大きな仕事だとはまったく思わないし、やりたくないんですよね。

レノボ・ジャパンの社長を退任した後に準備を進め、2019年に立ち上げた「新産業共創スタジオ」は、個社を超えた共創を通じて共通善を実現につなげていく試みの場(※)です。社会をよくするための新産業のテーマとその中核となる事業の構想に対し、映画作りの現場のように、さまざまな立場の人が垣根を超えて関われるように活動しています。

※SUNDRED/新産業共創スタジオでは、「社会善・共通善」をテーマに、オープンイノベーションを推進するイベントも開催している。2020年2月12日には新規事業開発や組織開発・人材育成に携わるビジネスパーソンのためのプロジェクトローンチ&ネットワーキングイベント「Industry-Up Day 2020 Spring」が行われる。

アイデアの発端は、レノボ時代の体験でした。

NECとの事業統合を成功させ、アメリカでM&A・事業統合などの責任者を務めた後、私は2015年にレノボ・ジャパンの代表取締役社長に就任しました。当時45歳。それまでに追いかけてきたグローバルキャリアは、自分の中で納得できるまでやりきったと思えるタイミングでした。そうして日本法人の社長になってからは、それまでとは違う軸が自分の中に生まれました。

レノボは言わずと知れたパソコンの会社ですが、私が日本に戻ってきた頃はNECとの統合効果もあり、市場の中でかなり高いシェアを維持していました。パソコンだけではこれ以上は成長の余地が少ないのではないかという状況でした。

一方ではスマホが伸びてきて、パソコンの役割が変わりつつありました。「端末としてのパソコンではなく、概念としてのパーソナルコンピューティングの時代になった」と感じた私は、タブレットなどさまざまな新規事業にリソースを投下しました。

しかし従来のパソコンとは違い、これからの新規事業は1社では作れないということに気づいたのです。「事業ひとつですら」作れない。まさにインダストリー4.0だと思いました。

さまざまなスタートアップと組んで飲食店やその他の業界向けのソリューションを作りましたが、開発して終わりではありません。キャッシュレス決済とどう接続するか、顔認証をもっと活用できないか……。課題やアイデアが明確になればなるほど、「これはもう1社でやることではない」と確信しました。

このインダストリー4.0の世界を社員にも理解してもらうべく、働き方改革を推進して、無制限テレワークで社外の人と接する機会を増やしました。副業を解禁し、自分自身も副業でエンジェル投資を始め、スタートアップ側の事情も分かるようになりました。大企業側の新規事業の課題もよく理解した上で、「このままではいけない」と思うようになったのです。

大企業は小さな予算で新規事業を次々とやるけど、やはり個社の既存の目的から抜け切れず、なかなかそれを産業化するまでにはつなげられない。スタートアップはいいアイデアをたくさん持っているけど、なかなか大企業との連携が取れない。

海外では新たな有力事業に人も企業もどんどん飛び込んでいきますが、日本はそうではありません。お金を出したい人はいっぱいいるけど、人や会社は、新たな事業の様子を見極めて「待ってしまっている」状態。もちろん大企業だっていろいろと新分野を調べ尽くしていますが、1億円くらいの単体予算で新規事業を個々の企業が横並びでやっていても、産業化につながるようなダイナミックな動きにはなりません。

アメリカではさまざまな企業や個人が絡んで、数千億円規模で産業化が進みます。そんな動きを、映画を作るようにさまざまな立場の人が関わることで引き出せるように、新産業共創スタジオを構想したのです。

みんなで大きなゴールを共有して、チームを作っていく。大目的である共通善を目指して、みんなで努力を結集していくような動きを作りたいと考えていました。

流動性が高まる世の中だからこそ「勇者」を目指すべき

もともと肩書きや役職にはこだわりがない私ですが、レノボ・ジャパンの社長という立場を経て新産業共創スタジオを構想していたときには、「会社員であれ起業家であれフリーランスであれ、それぞれの立ち位置は何でもいい」と思うようになっていました。

新しい目的に向かってチームを作り、前に進んでいくプロセスは、どんな立場で関わっても同じです。流動性が高まっていく世の中では、1社だけで何かを始めるのではなく、最初から会社の枠を超えたプロジェクト型の動きがますます主流になっていくでしょう。だから、いろいろな加わり方があっていいんです。

大事なのはチームの構成。これを私は「クエスト」と読んでいます。

RPGゲームをイメージしてみてください。新しい目的に向かってチームを作る際に、まず必要なのは「勇者」。新しい目的に心から燃えていて、「これがやりたいんだ」という情熱がある人です。

勇者が登場すれば、それを支える賢者は世の中にたくさんいるものだということが見えてきます。一緒に最前線で戦ってくれる戦士も、特殊技能を持つ魔法使いも世の中にはたくさんいます。そうして正しくクエストができあがれば、あとは自走できるはず。新産業共創スタジオのようなプラットフォームは、セーブができる拠点や相談ができる教会の役割でしょうか。

ただ、多くの企業では勇者を育てようとしません。「自分の目的を見つけました」と言える人を育てると、会社を辞めてしまうかもしれない。それを恐れて社員みんなを戦士として育てようとします。そんな文化に染まっていると、もともとは勇者になりたいと思っていたはずの人でも、目的を見失ってしまうかもしれません。

キャリアの話に戻りましょうか。私は、流動性がますます高まっていく世の中だからこそ、新たな可能性を追いかける勇者を目指すべきではないかと思うんです。

会社内での出世だけを目的にしていると、いずれ自己肯定感を持てなくなってしまうでしょう。なぜなら社長には1人しかなれないし、大きな組織ではほとんどの人は役員にもなれないから。入社当初は意気揚々とスタートし、係長、課長と登っていけたとしても、いずれは「ああ、同期のあいつが先に部長になっちゃった」と嘆くことになるかもしれません。

それなら、社内出世を目的にするよりも、世の中にインパクトを与えるためにできることを考えたほうがいいと思いませんか?

社長にはなれなくても、何らかの新たなプロジェクトに名乗りを上げて勇者になることは、誰でもできるはずです。「自分は勇者です」と宣言すれば、その瞬間から勇者です。社長を目指す非現実性に比べれば、勇者を目指すほうが、実は現実的なんじゃないかと思うんです。

これは、絵空事的なゲームの話ではありません。

世の中ではリアルなクエストが求められています。企業は、社会は、日々新しいクエストを求めている。既存事業の目的がすでに達成され、インダストリー4.0という産業革命の時代を迎えた今では、あらゆる企業が勇者を求めているのだと思います。

私自身は勇者か?

おこがましくて自分ではイエスと言えませんが、常にそうありたいと考えています。少なくともSUNDRED/新産業共創スタジオが掲げる「100個の新産業を共創する」という目的については大きな情熱をもっています。過去の蓄積に頼ることなく、今日も新しい可能性にワクワクしているんです。

 

 

留目真伸さんに聞いた“キャリア形成で大事なこと”

自分の目的を見つけて勇者になる。

[編集・取材・文] 多田慎介 [撮影] 稲田礼子

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