日本人が知らないグローバル会議の作法、多様な意見をまとめる「ロバート議事法」とは
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集団が意思決定をする上で「会議」はなくてはならない手段。しかし、会議に関する不満や悩みは絶えません。
堂々巡りでなかなか結論に行き着かなかったり。逆に特定の人ばかりが発言していて場が盛り上がらなかったり。上の立場の人や声の大きい人に遠慮して自分の意見が言えないといった、いかにも日本人らしい問題を抱えている人もいるかもしれません。どうすれば会議をより良いものにできるでしょうか――?
日本青年会議所(JC)は全国各地に694ある青年会議所の連絡調整機関。20〜40歳の日本の若きリーダーたちが集まり、ボランティアや行政改革などの社会貢献活動を行っています。そんな彼らは会議を行う際、「ロバート議事法」という会議に関する国際ルールをベースに運営していて、そのことが円滑な議論を実現しているのだといいます。
ロバート議事法は日本をはじめとする多くの国の議会などでも用いられているものですが、その内容を詳しくは知らないというビジネスパーソンも多いのではないでしょうか?
ロバート議事法とはどういうもので、そうしたルールを知ることが会議をより良いものにするのにどう貢献するのか、国内外の会議に詳しい同会議所国際アカデミー委員会委員長の渡部雄一郎さんと、会議所内で議事法の普及・推進を担う河原和也さんに聞きました。
うまくいかない会議。日本と海外の違いは?
―青年会議所でも日々たくさんの会議を行っているそうですが、どんな「うまくいかないパターン」がありますか?
渡部 そもそもなんのために会議があるのかと言えば、そのゴールは「決めること」です。例えば青年会議所の活動は世界・日本・地域における課題を解決するために、自分たちに何ができるかを考え、手法を編み出し、それを実行すること。ですが、その過程には決めなければならないことがたくさんあります。その一つひとつについて議論を重ねることで「より良い方向へと導き」、最終的に「決める」。それが会議です。
ところが、会議をしていると、あることについて議論しているのに付随して出てくる別の問題に話題が拡散してしまうということがよく起こる。そうするとどれも議論が中途半端になってしまい、何も決まりません。本来であれば、今日話す内容はこれとあらかじめ決めておいて、それ以外について議論することはしないという進め方が望ましいわけです。
自分は国際的な事業に携わる委員として海外の会議に出席する機会も多いのですが、日本の会議と海外の会議では、抱えている問題に違いがあるなと感じます。
最も大きな違いは「発言の量」です。日本人の会議はしゃんしゃんで終わる。喋りの得意な一人だけに発言が偏っていたり、あるいは発言自体はそこそこ出たとしても、結局は声の大きな人や上司のひとことで物事が決まってしまって、「この会議の時間は一体何だったんだ」と思わされたりすることも多い。
逆に海外の会議では、意見自体は活発に出るのですが、自分の主張を頑なに曲げずに貫き通そうとする人がいて、会議がいつまで経っても平行線で、先に進まないということがよく起こります。先日もアフリカ全土の青年会議所の代表が集まる会議にオブザーバーとして出席したのですが、会費の値上げに関する議論で裕福な国のグループと貧しい国のグループとが真っ向から対立し、結局結論が出ずに持ち越しということになりました。
河原 会議がまとまらないのも問題ですが、「言ったところで何も変わらないから」とか「反論されるのが怖いから」などと空気を読んで、発言する前に自ら意見を取り下げてしまう人が多いのは、日本の会議の大きな問題です。
これは、発言を引っ込めた本人にとって不都合というだけでなく、組織にとって、その会議にとっての損失でもあります。なぜなら、その人自身は大した意見ではないと思っていたとしても、残りの人からすれば、自分だけでは気づくことのできない新たな視点をもらえたかもしれない。その大切な機会が奪われていることを意味するからです。
先ほど渡部から、会議とは物事をより良い方向へと導き、最終的に決めることであるという話がありましたが、一人の意見だけで決めるよりも、二人、三人と多様な人の意見があった方が、より良いものが出来上がる確率は当然高い。その意味で、発言を引っ込めることは全体にとって大きな損失であるということです。
これからお話しする「ロバート議事法」は、こうした問題を解決するために存在します。多様な意見を引き出した上で、議論をちゃんと収束させ、結果として物事をより良い方向へと導いた上で最終的に意思決定するための手法、と言うことができます。
知っておくべき4つの権利と4つの原則
―では、ロバート議事法について教えてください。
河原 ロバート議事法はアメリカ陸軍少佐のヘンリー・マーチン・ロバートという人が1876年に作った公平と平和の精神をもつ議事規則で、最も標準的かつ権威のある議事法としてアメリカをはじめとする世界各国の議会や組織で採用されています。
ロバート議事法ができた1876年は南北戦争直後。当然、新たに決めることが山ほどあったわけですが、対立感情が残っていたし、多民族社会のアメリカでは議事法の内容も州ごとに違っていたため、議論がなかなかまとまらないという事態が頻発していました。
そこで米議会の規則をもとに民間にも適用できるよう簡略化して作られたのが、このロバート議事法。つまり、そもそもまとまらないものとしてあった会議をまとめるために生まれたルールというわけです。
河原 ロバート議事法では最低限守るべきものとして「4つの権利」と「4つの原則」が明示されています。これが最も重要。そのほかにも、原版には非常に細かくルールが定められているのですが、単民族文化である日本で展開する上ではそこまで細かなルールは必要なく、そのままのかたちで運用する必要はありませんでした。
青年会議所でもロバート議事法に則って日々会議を行っていますが、「JC版」では4つの権利と4つの原則を重視し、細かな運営規則や細部の進行は各会議所に委ねています。
―では、ここではまず「4つの権利」について解説いただけますか?
河原 多数者の権利・少数者の権利・個人の権利・不在者の権利の4つを指します。
多数者の権利というのは周知のように、多数決のルールで意思決定をするということ。しかし反面、少数者の意見も尊重し、少数意見であっても議題として取り上げられるというのが少数者の権利です。そして、議題に関係ないプライバシーに関わる質問はやめましょうというのが個人の権利。不在者の権利はなんらかの理由で会議に出席できなかった人の権利も認めるよ、ということです。
多数者の権利 |
文字通り多数の者の意見を優先するということ。表決の基本原則である多数決に表れている |
少数者の権利 |
少数の意見も大切にし、その内容を討論・検討せよということ |
個人の権利 |
個人への名指し攻撃や特定人物のプライバシーに関する件に触れてはならない |
不在者の権利 |
止むを得ず出席できない者にも議決権を与えようという考え。委任状、不在者投票など |
―最終的に多数決によるのだとすると、どうやって少数派の権利を守るのですか? 多数決に持ち込まれたら負けることが決まっている。自分が少数派だと分かっている人はどうすれば?
河原 そういう時のためのルールとして25個の「動議」というものがあり、例えば会議延長の動議を使えばいいということになります。そうして延長期間内に新たな説得材料を用意し、自分の意見が多数派になるよう働きかけていく、そのための権利が保証されているということです。
ただし延長の動議を発したとしても実際に延長するかどうかは多数決で決まります。そこにも多数者の権利があるので、ハードルは決して低くはないと言えます。
―一方の「4つの原則」とは?
河原 原則、つまり最低限守らなければならないとされるのが以下の4つです。
例えば一時一件の原則というのは議論が錯綜しないよう、物事は一つひとつ決めていきましょうということ、一時不再議の原則は一度決めたものは後戻りしてはいけないというもので、こうした原則を守ることで議論を円滑に進めることができます。
一時一件の原則 |
一時に一つの議題しか検討できない。例えば時間と場所と方法を一度に討論し決議するのはNG |
一時不再議の原則 |
一度決定した議題は掘り起こして再導入してはならない |
多数決の原則 |
特定の命題が組織の行為・選択となるためには多数決によって決議しなければならない |
定足数の原則 |
会議を開催したり決議したりするために出席しなければならない投票権を持つ構成員の数 |
こうやって見ていくと、4つの権利も4つの原則も、日本人からすると当たり前のものとして普段から会議運営や、物事の決定などに適用されているところだと思います。しかし、それは先ほどお話ししたように、ロバート議事法がそもそもまとまらないアメリカの会議をまとめようとするところから生まれたものだから。けれども、当たり前のように思える日本人にも、こうしたルールを改めて知ることには大きなメリットがあります。
会議で身につくリーダーシップ
―改めてルールを知ることにどんな意味がありますか?
渡部 日本人はこうしたルールを暗黙のものとして何となく理解はしていても、活用できていないのではないか、と。つまり、冒頭にも挙げた「自分の意見を言い切れていない」問題は、その表れではないかということです。
河原 何となく知っているのと、ルールとして明確に定められたものだと知っているのとでは、その先に表れる行動が違ってきます。少数派でも発言して良いというのがルールで保証された権利であると認識することが、自由な発言を促すことにつながると私たちは考えています。
―しかし一方で、日本人が会議で発言しない主な理由としては、「無駄な争いを避けたい」「失敗するのが怖い」「恥ずかしい」といった要因の方が大きいのではないですか?
渡部 確かにそういった文化的な要因もあるかもしれません。そもそも単一民族の日本は長らく自己主張しなくてもいい環境だったと思うので。多様な人が存在し、そもそもまとまらないものとして会議があるアメリカとは違う。日本でこれまでロバート議事法が広く知られていなかったのは「その必要性がなかったから」という言い方もできますね。
けれども、グローバルに活躍することがこれだけ当たり前になった今の状況を考えれば、日本人であっても、会議に参加する一人ひとりがしっかりと自分の意見を言える必要が出てきたということです。また、イノベーションのためには多様な意見が不可欠というのも、昨今盛んに言われるところですよね?
渡部 もちろん、ルールを知ったからといって、すぐに機能はしないと思います。その意味では、カギを握るのは議長ではないか、と。会社として考えるならそれは社長ということになるのかもしれませんが、そもそも社長がみんなの意見を聞く姿勢を持たない限りはダメでしょう。
河原 4つの権利とは参加者の持つ権利のことですが、それを実現するために最も大切なのは議長のリーダーシップです。例えば会議の場でうまく意見を言えていない人がいたら、議長が水を向けてあげるなどして意見を引き出す。逆にみんなが好き勝手に意見を言って揉め出したら、それをまとめ上げるのも議長の大切なスキルです。JCは青年会議所という名の通り、会議をすることが非常に多く、その進行のためにメンバー間で議長役を選任し、議長となることができるスキルも磨いています。
私自身、ロバート議事法に基づいた会議を重ねるようになってから、自分の会社に帰ってからも、社内の会議や市役所との協議などがそれまでと比べて非常に円滑に進むようになったと実感しています。つまり、青年会議所がロバート議事法に則った会議をしていることの意義は、会議自体を円滑に意思決定へと導くこととともに、そのことを通じてリーダーシップを磨くということが一番の利益です。
―会議を通じてリーダーシップを磨く。
渡部 ロバート議事法に基づく会議を経験することで、周りの声に耳を傾ける癖がつきます。自分の意見が通る通らないとは別に、人の意見に傾聴する能力が自然と養われるんです。
僕がこういう会議をするようになったのはここ数年のことですが、そのことによって自分の会社経営のスタイルまでが変化したと思います。以前はトップである僕がYESと言えばYESでした。それが、僕自身がみんなの意見を聞けるようになったことで、会社の雰囲気が変わり、会議などでも活発に意見が出るようになりました。
河原 昔は「俺が言うことが正しいんだ」というカリスマ的なリーダーシップのあり方もあったけれど、今必要とされるリーダーシップはそうではなくなってきていますよね。人の考えも多様化しているから、聞いてみないことには何を考えているかは分からない。だからリーダーには、それを引き出し、その上でまとめられるかどうかが問われているんだと思います。ロバート議事法のルールを学ぶことは、そうしたリーダーシップを身につける第一歩になるのではないでしょうか。
公益社団法人日本青年会議所 国際アカデミー委員会委員長 渡部雄一郎
写真右。1982年、新潟県新潟市生まれ。公益社団法人日本青年会議所 2019年度国際アカデミー委員会委員長として、世界80カ国のリーダーと携わりながら日本と世界を結ぶ事業を行っている(新潟JC所属)。
公益社団法人日本青年会議所 JCプログラム推進委員会副委員長 河原和也
写真左。1980年兵庫県たつの市生まれ。日本JCが開発・運用する数あるセミナーの中で、ロバート議事法セミナーのヘッドトレーナーとして日本各地の会員と共に会議方法について知識を深めている(姫路JC所属)。
[取材・文] 鈴木陸夫 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭
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