社会的ネットワーク理論で考える「社会人1年目のはたらき方」
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「会社に入ったら、まずはがむしゃらにはたらくべき」
「最初の会社(ファーストキャリア)は社会人1年目としてとても重要。仕事における価値観を決める」
こんな言葉を聞いて、ずいぶん古い考え方だなあ・・・ と感じる方も少なくないのではないしょうか?
実はこちら、30〜40代のさまざまな企業で活躍するビジネスパーソン約20人と、新卒1~3年目の若手社会人約20人を集めて議論した『“未来を変える” プロジェクト』のイベントで交わされた言葉です。議論のテーマは「もし自分が社会人1年目になったらどうはたらくのか?」。本記事ではこの議論を通して語られた仕事への世界観、仕事の捉え方を深掘りしてご紹介します。
その中には「社会人1年目はがむしゃらにはたらき、そして会社に尽くせ」といったスタンスとは違った、個人と企業とのあり方に関するヒントが隠されていました。
今回のアウトラインです。
- INDEX読了時間:6分
それでは、本文です。
Must>Can>Willは「企業」という強い絆との関係構築手順
まず、今回の議論に参加した多くの面々は、Must/Can/Willという軸のインパクトが大きかったことを指摘しました。
社会人1年目で社会の理不尽さを学び、やらなければならないこと(Must)をこなし、2〜3年目で出来ること(Can)の領域を拡げ、最終的にやりたいこと(Will)にとりかかる。
この議論ですが、ハーバード大学のマーク・グラノヴェッターらの研究で有名な「強い絆」「弱い絆」で知られる社会的ネットワーク理論によって捉え直すことで、その位置づけがすっきりと整理されました。
「強い絆」と「弱い絆」の理論の概略は以下の通り:
- 他人との関係は、お互いに共通の知り合いが多い「強い絆」と、自分と相手以外の共通の知り合いがほとんど存在しない「弱い絆」によって構成される
- 「強い絆」は、お互いに共通する「行動原則」「価値観」などがあり、人はこのつながりをベースにお互いに影響しあい、日々の行動を行う
- 「弱い絆」は、普段自分が所属する「強い絆」とは異質の変化や新たな情報を提供し、「強い絆」が外部に取り残されないための刺激を提供する
- 人は「弱い絆」の影響だけで直接的に行動を変化させたり、集団としての影響を与えることはできない
この理論に基づいて、今回の議論で出てきた「Must→Can→Will」の話を再整理すると、以下のようになります。
- 【社会人になる前】個人としては社会とは直接的にのみ交わり、企業を媒介して社会に影響力を行使する場面がない
- 【Mustの段階】自分がはたらくことになった企業に加入し、その企業が持っている行動原則や価値観など、集団としての「強い絆」に溶け込み、その一員となる
- 【Canの段階】一通り「強い絆」としての企業の行動原則や価値観を理解し、その行動を日々踏襲し、自分自身がそれに沿って成果を出し、行動原則・価値観そのものを強化することに貢献する
- 【Willの段階】自分が個人として導きたい方向、社会に対して貢献や影響力を提供したい方向に、「強い絆」である企業の力を仕向ける
こうした【Must】【Can】【Will】の組み合わせによって、個人は、個人だけでは成し得ないような大きな影響や貢献を、企業という形に集約し社会に行使できるようになる、というのがこの整理です。
会場での以下のコメントも、【Must】が企業という「強い絆」に溶け込むステップだと考えるととてもフィット感が高まります。
「Must」という言葉に違和感も持っていたが、通過儀礼、理不尽を知ることも重要というふうに捉えている人が多かった(20代・男性・コンサルティング)
また、この状況と「社畜」という言葉との関係について、以下のような指摘が相次ぎました。
“染まる” ことの重要性を挙げる人が多かった。『良き社畜となる』とか(20代・男性・元国家公務員)
思いの外、(最初の1年は)『社畜』的なはたらき方を肯定的に捉えているように思った(30代・男性・メーカー)
「企業へのシンクロ度」と「個人のWill」による社会人の分類
【Must】【Can】【Will】の段階を経て、個人は「企業との同調(シンクロ)度」と「自分の実現したいこと(Will)」という2つの変数を変化させていきます。これによって、多くの社会人は、下記のように分類ができるというのが、今回の議論の中での1つの方向性でした。
まず最初のタイプは、入社以来ずっと、会社と自分とのシンクロを追求し続ける一方で、「自分のWill」を発現することなく過ごしていくという場合です。会社の中でコアとなっている行動原理や価値観へのシンクロ度合いは高い一方で、自分自身の個人としての考えを反映させることができず、長期的に受け身の姿勢となってしまうのが、このタイプと言えます。いわゆる「社畜」という言葉が揶揄するのも、このタイプかもしれません。個人的にもっているWillと、会社の行動原則や価値観が、時間の経過とともに拡大するため、はたらいている時間が苦痛になってしまうなどのリスクがあります。
ずっと企業の行動原則に従属ばかりするのが【盲目的追従タイプ】であるのに対して、自分のWillの方向性が長期的にも企業の行動原則と合致し、自ら進んでその踏襲と強化に努める役割へシフトし続けるのが、このタイプです。ただ単に受け身であるだけでなく、企業が元々もっている行動原則をベースとして、外部環境が変化した場合には、新しい行動原則を企業の価値観をベースに積極的に作り上げていくタイプ。「コミットメント」と言われる関係性が、このタイプを指すのかもしれません。
企業の行動原則は十分に吸収・実践し、その組織のメンバーと認められた上で、途中からその行動原則を変化させ、自分のWillの方向性へとリードする立場は、「社内起業家」と位置づけることができます。彼ら、彼女らは、組織に対して影響力を発揮できるだけの立場や関係性を持っているからこそ、社内起業家(イントラプレナー)として自分のWillによって、企業全体の力を社会へ仕向けることができます。
企業がもつ行動原則にまったくシンクロすることなく、自分のWillを発揮しようとするのが、いわゆる「一匹狼」と言われる言葉で捉えられる存在かもしれません。自分としてのWillは大切にする一方で、企業の「強い絆」の一員としてシンクロしていないため、「強い絆」の構造を使った企業の巻き込み、周囲の行動の変容といったことをリードできないのが、このタイプです。外部からの刺激である「弱い絆」への感度は比較的高い一方で、これらだけでは組織を動かせないという障壁が、多くの場合発生します。
最初の会社が社会人1年目に与える影響
以上のような、【Must】【Can】【Will】に関する議論が行われた上で、全体として次にフォーカスされたのが「最初の会社が持つ重要性」でした。
1社目、最初の上司の影響は大きい。ファーストキャリアはとても大事。ビジョンの示し方はもちろん、評価のされ方がとても大切。社会人1年目は結局、すべての原点になっていること。結局、1年目の壁に似たようなことを転職、復職、起業、その他新しい環境に行っても体験している(30代・男性・マーケティング)
自分と企業と社会との接合の基本パターンを創り出す
まず、多くの参加者が指摘した点として、この1社目における仕事の進め方、物事の考え方が、その後の長いキャリアにおいて、自分と社会との間にどのように「企業・組織」を位置づけるかの基本型となることでした。
今回の議論の中でも、
1社目でがむしゃらに働き、その行動で周囲を巻き込みながらチーム感を高め、その中で社会的な意義を達成するという行動様式を身につけた後、そのパターンを新たなベンチャーでの取り組みでも同じように行っている(40代・女性・マーケティング)
1社目ではとにかくプロフェッショナルであり、自己研鑚をお互いに積み、その集積として外部に貢献するというパターンを外資系企業で身につけ、その自己研鑚を通した外部との関わりを重視しながら内部で新しい取り組みをするというパターンを、国内の歴史ある企業で仕掛け続けている(40代・男性・金融)
といった、1社目での企業と自分との関係を、その後の長いキャリアでも踏襲し続けている方が、それぞれ自分自身の経験を共有していました。
1年目の行動に関しては、とかく「能力も仕事の仕方もわからないんだから、まずはそれを学ぶべきだ」という論調になりがちです。しかし、それは人としての絶対的な能力の違いなどよりも、この「個人と企業と社会」との接合の基本型を創り出すことの比重がより大きいらしいというのが、今回の議論から明らかになってきました。会場からも、以下のようなコメントが多く聞かれました。
社会人1年目の視点と20年目の視点はまったく違うが、20年目からすると、1〜2年目の苦労は実は自分の基礎を作る重要な期間(40代・男性・テクノロジー/金融)
大企業で人を動かす力が学べるということ。社会人1年目でもつまらないと感じるかもしれないが、巻き込み力を学ぶには、動かしにくい環境であればあるほど実は学びになる(40代・女性・消費財メーカー)
さらに、経営者一族に関するこんな指摘も、あわせて出ていました。
とある幼稚舎に通う経営者一族の子孫がすごい。例えば、「企業の社員」とどのように接し、どう協調すれば企業が動き、自分の意志が社会に反映できるかを幼いころから知っている点にある(40代・男性・コンサルティング)
パターンに安息し過ごし続けると、外部変化に対応できなくなる
一方で、この「企業との関係の型」について、それにシンクロし、その後を安寧に過ごし続けることのリスクについても、参加者から指摘が相次ぎました。
一定の負荷を定期的にかけ続けることが大事、という話が印象的でした。そのためには、外を知ることは大事ということも納得でした(20代・女性・広告代理店)
新卒で入った会社のあり方や知人の話を、(井の中の蛙のように)海全体のあり方だと誤認しやすい。だからこそ、他の会社や地域や国について知ることが大切(30代・男性・人材関係)
「強い絆」の特徴は、同じ価値観・同じ行動原則によって、人が集まり、より大きなことが成し遂げやすくなる点にあります。一方で、この絆だけが強すぎると、外部の変化から取り残され、時代遅れになってしまうおそれがあります。
こうした場合、対になって役立つのが「弱い絆」です。普段、自分が接している組織を離れ、まったく違った行動原則や価値観をもった企業や個人と接することで、新たな情報や兆しを自分が所属する「強い絆」に持ち帰ることができます。それによって、企業全体にも貢献し、自分自身も企業・社会へ貢献できるようにアップデートされ続けることができるというのが、今回の議論でも指摘されました。
若手とベテランが協働で行える具体的な処方箋
最後に、こうした「強い絆」と「弱い絆」という観点を踏まえて、「自分と社会との型をつくる」「自分自身のWillを再確認する」という点で、現在はたらいている企業との関係を再確認する具体的な処方箋をご紹介します。
- ステップ1:自分と異なる会社に勤務している、自分とは世代の異なる社会人を誘い出し、2時間程度の時間を確保する
- ステップ2:下記の質問項目に沿って、相互に40分、合計で80分のインタビューを行う
# | 質問項目 |
1 | あなたの自己紹介を簡単にお願いします。出身地や家族、現在の趣味などなんでも結構です。 |
2 | あなたが最初の会社を選び、はたらき始めた経緯を教えてください。 |
3 | あなたが最初の会社でもっとも印象に残っている仕事を詳しく教えてください。どのような人が関わり、その中であなたは何を行い、どのようなことが起きましたか? |
4 | その会社で、多くの人が実践し、大切にしていた行動原則や価値観にはどのようなものがありましたか? |
5 | その行動原則や価値観は、現在のあなたの仕事の仕方にどのような影響を与えていますか? |
- ステップ3:お互いにインタビューを終えたら、インタビューを通した感想をざっくばらんに雑談してみる。
この方法ですが、ステップ1で自分と同じ「強い絆」に入っていない人と行うことが重要です。お互いが同じ「強い絆」に入っている場合、あまりにそれがお互いにとって自然なことであり、浮き彫りにならない可能性があります。一方で、その絆の外にいる人同士で行うと、驚くほどこの「行動原則」が鮮やかに浮き彫りになります。
そして、この再認識こそが、あらためて日々仕事に取り組む中で、「自分が1社目で育んだ、個人と企業と社会との関係の型」を再認識し、それを活用したり、変化させたりするきっかけを提供してくれます。
いかがでしたか? ベテランの方であれば1社目で自分が何を学んだか、あるいは若手の方であればこれから何を学ぼうとしているか、じっくりと深掘りしてみると、今日からの仕事に新たな変化が起きるかもしれません。
[編集・構成]doda X編集部
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