「オフィス」VS「リモートワーク」世界の最先端企業に学ぶ未来の働き方8つの観点

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「オフィスで密集して働くべき」なのか「リモートワーク」で働くべきかが、にわかに世界で大論争になりつつあります。

2014年のベストセラーの一冊「Googleの働き方」では、成長期を支えた元CEOのエリック・シュミット氏らが「Googleのオフィスでは、メンバー同士が密集したスペースで一日中会話をし合っているからこそ、イノベーションが生まれる」と断言。

一方で、世界的なプロジェクト・マネジメントツール「Base Camp」の開発元であり、腕の立つエンジニアたちによって構成されている37シグナルズは、これまた世界的ベストセラー「強いチームはオフィスを捨てる」の中で、オフィス不要論、リモートワークの強さを提示しています。

この極めてクリエイティブな2つの会社が、「密集」なのか「リモートワーク」なのかでまったく異なる考え方を示す中で、日本の大企業・ベンチャーで活躍する人材は、どのようなことを考え、どのような働き方をしているのか。そして、近い未来に向けて「働き方のシフト」がどのように起きつつあるのでしょうか。

「オフィス」VS「リモートワーク」

今回の記事では、こうした点を深掘りすべく、約60名の大企業・ベンチャーで働く現役ビジネスパーソンや官僚を集め、議論を行い、その内容を基に作成しました。

今回のアウトラインです。

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それでは、本編です。

「密集」「リモート」を考えるためには「指標」が不可欠

「密集」か「リモートワーク」かという議論には「何を高めるために働き方を変えるのか」という【働き方の指標】の設定が不可欠です。

Googleの例では、社員同士が密集した空間でやり取りを行い、相互に刺激し合って新しいアイデア、イノベーティブな観点を発見することを重視しています。つまり、【働き方の指標】に「社員間のインタラクション」が設定されているといえるでしょう。

一方、37シグナルズの場合、社員がお互いにリモートワークで働くことによって、自分自身の時間に没頭し、そこで質の高い仕事をすることを狙っており、【働き方の指標】として「個人の集中度合い」を置いていることになります。

上記の2つは、いずれも会社の業績やアウトプットに関連する【働き方の指標】ですが、そのほかに個人的な生活の質や経済環境を高める指標もあります。

37シグナルズのケースで言えば、個人が自分の配偶者と家事や子育てを分担しながら自宅で働くことによって、「家族との関係性」を【働き方の指標】に設定し、高めることを目指しています。

ところが、今回の大人数の議論の中では、こうした【働き方の指標】に関する観点が登場する場面が少なく、ときに「何を高めるために仕事の仕方を議論しているのだろうか」と場が混乱することもありました。

【働き方の指標】を考える時代の到来

【働き方の指標】の部分を深掘りしていくと、これまでの多くの組織では「自分の働き方」は組織全体の決めごとになっており、自分の意思でメリット・デメリットを比較した上で「密集」して働くのか、それとも「リモートワーク」で働くのかを選択できていなかったことが明らかになってきました。

米国の著名な心理学者ミハエル・チクセントミハイ氏は、個人が選択できない事象に関しては「自己効力感」が発揮されず、その対象への深掘りや取り組み、学習効果が薄まってしまうことを指摘します。

自分自身ではコントロールがほとんどできなかった「密集」「リモートワーク」という働き方の選択では、これまで「自己効力感」が発揮されませんでした。結果として「どちらの働き方をすべきか」という深掘りや、何を軸にしてそれについて考えるのかといった【働き方の指標】の検討は、あまり進まなかったのが現状なのではないでしょうか。

ところが、下に記すような時代の変化によって「働き方」を主体的に選ぶことの重要性が増してきています。

【働き方に影響を及ぼす変化のトレンド】

  1. Skypeなど海外との通信コストの劇的な低下と技術の進歩によって、各企業・各個人が国を跨いで「リモート」でやりとりをする機会が増えた
  2. 人口の減少と女性の高学歴化によって専業主婦が減り、男性・女性ともに仕事と家庭のバランスを取らなければならない場面が増加した
  3. 定型的な仕事や複雑性の比較的低い仕事は、急速に発展する国々や、システムによる自動化で吸収され、イノベーションに直結するような付加価値の高い結果を生み出す「働き方」を企業も個人も強く模索するようになった
  4. 20世紀後半の経済成長時代に「働いてばかりいる親」を見てきた世代(俗にいうY世代、Z世代)が、親世代を反面教師として、家庭とのバランスや組織に依存しない働き方を模索する傾向にある

このような変化の波を受けると、既存の企業であっても「密集」か「リモートワーク」かを試行錯誤し「密集」を掲げる会社と「リモートワーク」を推進する会社などが出現します。それによって、個人も「どの会社を選ぶか」という形で、具体的に働き方をコントロールする幅が増え、いよいよ「働き方の選択」に「自己効力感」が発揮される時代がせまっているのかもしれません。

そして、ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン氏が指摘するように、良い仕事と良い家庭(プライベート)との関係は、お互いに密接度を増しています。【働き方の指標】は、企業にとって良い状況をもたらすほどプライベートにもよい状況をもたらす。逆に、プライベートにとって良い状況をもたらすほど企業でのパフォーマンスを高めるという相互依存を増しています。

以上の観点から、これからの【働き方の指標】は、企業にとって最適化されたものか、個人にとって最適化されたものかという分断されたものではなく、双方にとって最適化されたものであることが不可欠になります。

抑えておきたい8つの【働き方の指標】

今回の議論や、上記のGoogleおよび37シグナルズでのケースを基にすると、重要な【働き方の指標】は、主に下記のように整理することができます。

  1. メンバー間のインタラクション:社員同士の活発なやり取り、メンバー同士が相互に刺激を与え合う度合い。Googleが社員を狭いオフィスに密集させるのは、この指標を上げることが目的となっている。
  2. 仕事への集中度・没頭度:他の人から邪魔をされず、ひたすら集中して自分の仕事に没頭・集中できる度合い。いわゆる「フロー状態」で知られるような、時間の経過を忘れ、高い成果が挙げられる状態を目指している。
  3. ミッション・ビジョンの一致度:組織・チームで目指すビジョン・ミッションが、メンバー内でどれだけ共有し実践されているかの度合い。
  4. 仕事の進捗管理度:お互いに相手が何をどこまで進めているかを把握し、期日までの確実な進行やアウトプットの質を担保する度合い。密集組織内で管理職が行う仕事の大部分は、この部分を担っている。リモートワークであれば、最新のプロジェクト管理ツールなどが主にこの部分を担う。
  5. 企業側のコスト:オフィスや移動費用などにかかる、働く環境に関する企業が負担するコスト。例えば、都心部に社員が一同に会するオフィスを構えると、とても高額なオフィス費用が発生してしまう。
  6. プライベートへの配分:特に共働きの子育て夫婦の場合などで、プライベートに割り当てる時間をしっかり確保できるかどうかの度合い。書籍「未来企業」でリンダ・グラットン氏が指摘するように、この配分に失敗するとプライベートと仕事のバランスが崩壊し、仕事のパフォーマンスも低下してしまう。
  7. 個人側のコスト:個人が自分の家の家賃や購入資金、あるいは個人負担での移動費用に費やすコスト。
  8. 働き方への自己効力感:個人が、自分自身で働き方を選択できるという感覚。これが高いと、働くことそのものへのモチベーションが高まり、個人的課題の多くを個人が解決できる可能性も高まる。

冒頭で登場したGoogleと37シグナルズの、各指標に関するそれぞれの状況をまとめると、以下のようになります。

Googleと37シグナルズの各指標に関するそれぞれの状況

この表に基いて考えると、Googleは自社が重視するポイントとして「密集」をまず選択し、そこで問題となる部分の多くは、高収益体質がカバーするという構造を見て取ることができます。

37シグナルズの場合は、個人の集中・没頭によるクリエイティビティを最大限に重視しており、個人・企業双方のコスト負担を低く押さえつつ、管理に関しては自社の強みであるプロジェクト管理ツールなどで補完しているという構造があります。

このように「何を高めるのか」という【働き方の指標】を明確にすることで、企業は自社の働き方をロジカルに構造化して検討することができるようになります。

個人の側面としては、企業それぞれが持つ「働き方」に関する構造を見抜いたり、自分自身で独立や起業を通してこうした指標をコントロールできる環境を作り出すことで、働き方に高い自己効力感を持つことができるようになります。

以上のようなフレームをベースに考えるにあたり、「密集」「リモートワーク」のどちらを選択するかによって、根本的にどのような特長がそれぞれ現れるのかを、今回の議論の内容をベースにご紹介します。

「密集」の持つポテンシャル

「密集」の良さに関する今回の議論では、特に「前例のない新しいプロジェクトに取り組む」「役割が定まらない新しいメンバー同士で仕事をする」といった場面に適しているという観点が提示されました。

例えば、企業において、各部署から集まったメンバーによって、国内で前例がない新規事業を組み立てていく場合、どのような課題や試練、重要なタスクが発生するかは、プロジェクト発足時点では不透明です。同時に、メンバー同士、なんとなく「あの人は財務出身だから経理が強いのかな・・・」「彼はマーケティング部だからきっと調査設計が上手・・・」など、所属や肩書から簡単な推測ができるくらいで、お互いの強みはよくわかりません。

こうした場合、チームがリモートでお互いに連絡をとりあい、普段は顔を合わせないという形式で仕事をしてしまうと、誰がどのタスクを担当するか、何を切り出してそれぞれが取り組むかなどに多大な連絡コストがかかってしまい、仕事が上手く進みません。

あるベンチャーで事業を開始したときに、固定のオフィスを持たずに仕事を進めていったところ、取り組むタスクがちぐはぐになり、お互いすり合わせの打ち合わせばかり。時間調整して落ち合っては、慎重に進めるということで全く進みませんでした。これが、オフィスを借りていつもそこでやり取りするようになってからは、ウソのようにガンガン進み始めました(30代男性 ベンチャーキャピタル)

といった指摘にもある通り、顔を付き合わせて「密集」することで、こうした課題は解決され、チーム内でのお互いの理解度が高まり、プロジェクトの方向性や進捗管理も動き始めます。

同時に、こうして1つの場所に「密集」してプロジェクトを進めることで「熱気」が共有され、チームの営みがさらに加速するという発言も多くありました。

われわれ人間は感情のある動物でもあり、ともに空間を共有することで、生まれる「何か」があることも事実だと思います(30代 男性)

不明確な状況に取り組んだり、新しいメンバーで仕事を始めたりする場面、そして短期間で何かを成し遂げるといった「熱気」が重要となる場面では、ベースとして「密集」を選ぶのがふさわしいのかもしれません。

「リモート」の持つポテンシャル

一方、「リモートワーク」の持つ基本的な強みとして、組織内外の垣根を超えて、さまざまな人材を巻き込むといった「多様性」に関わるメリットが数多く提示されました。

例えば、自社の商品をソーシャルネットワーク上で効果的に拡散したり、消費者を積極的に巻き込んだりといったマーケティングを行う場合。社内人材だけで完結して取り組むよりも、社外で数多くこうしたケースに取り組んでいる人材を直接メンバーとして取り込んだ方が、効果的な動きが可能となり多様性を活かすことができます。

このように、お互いの役割や強みが明確で、取り組むテーマがある程度すでに絞り込まれており、勝ちパターンがある程度見えている場合には、リモートワークであっても役割分担などスムーズに行い、高い成果を挙げられることが指摘されました。

月間2億PVを達成し、国内で最もよく利用されているスマートフォン向けのエンターテインメントサービスの1つである「ボケて(bokete)」のチームは、全員がリモートで構成されたメンバーによって運営されています。

サービスの企画・運営には各分野のスペシャリストが集まっており、お互いに何を自分が担うか明確に区分が可能であるから成立していると、構成メンバーの一人であり、今回の議論にも参加したイセオサム氏は語ります。

企業側を取り巻く環境

以上のような「密集」「リモートワーク」それぞれの特性を把握した上で、今回の議論で語られたのは、実際の個別企業が、なぜその形態を選んでいるのか、という点です。

Googleは密集したいわけでなく、エンジニアを囲い込んでブラックボックス的な先端広告配信エンジンを作りたいので、囲い込まざるを得ない(40代 男性 コンサルティング)

時間的な制約条件を克服して、リモートチームを機能させるという課題は今後避けて通れない(40代 男性 外資系メーカー)

大まかに言えば、リモートの会社ってディベロッパーツールを作ってる会社が多いんです。GitHubとか37 signalsとか。そういう会社はアプリケーションにデザイン要素が少なく、機能ドリブンで分散的に進めていけるのでリモートがやりやすいです。一方で、複数画面・複数デザイナーで大規模なアプリケーションを作ろうとすると、どうしても対面の方がスピーディに進めていける気がしています。営業やカスタマーサポートが開発に絡む場合も同様ですね(30代 男性 上場企業取締役)

ここに語られているように、それぞれの企業はゼロベースで「密集」「リモートワーク」を選んだのではなく、それぞれが置かれているビジネスの状況や、業務の性質なども相まって、この選択をし、そして変化させようとしていることが、多くの方から指摘されました。

そして、冒頭にあったような変化の激しい時代において、企業側は成果を達成するために、【働き方の指標】を1つひとつ捉え、これから自社がどのような働き方を選択していくべきか、深く検討しなければいけない岐路に立たされています。

いかがでしたでしょうか。

一昔前は「単純作業などはリモートに切り出すことができるが、高度な仕事や複雑性の高い内容は密集でなければ・・・」といった風潮がありましたが、現在では37シグナルズやボケてに代表されるように、複雑性が高くイノベーティブな仕事をする前提で「密集」「リモート」のどちらかを選択すべきかという時代のシフトが起きているのではないでしょうか。

今回提示した8つの【働き方の指標】と、その高さを判定するための質問文を下記にまとめています。

質問文
1:メンバー間のインタラクション度 メンバー同士は、お互いに活発なやりとりをしているか?
2:仕事への集中度・没頭度 人に邪魔されず、自分が取り組んでいるテーマに没頭できる時間はとりやすいか?
3:個人と組織のミッション・ビジョン一致度 会社が何を目指し、どんな方向性で動いているのかをメンバーが共有できる機会は豊富か?
4:仕事の進捗管理度 同僚同士、チーム同士で、お互いに今何を担当していて、どんな状況なのかを把握しやすいか?
5:企業側のコスト オフィスその他、働く環境の提供に企業が支払っているコストは高いか?
6:プライベートへの配分 家族との時間や、企業と直接関係ない時間を確保しやすくなっているか?
7:個人側のコスト 社員個人の、住環境や通勤など移動手段に費やすコストは高いか?
8:働き方への自己効力感 自分自身の働き方を自分で選び、自由意志で決定できているという実感は高いか?

これらの資料を参考に、現在の【働き方の指標】を振り返り、今後の働き方のシフトを一考してみてはいかがでしょうか。

[編集・構成]doda X編集部

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